ドナドナは不発〈side 六花〉
六花の周りには常に人がいる。どこぞの小学校で一緒のクラスだったとか、高校が一緒だったとか、受験で偶然隣だったとか、理由は様々だ。
両親には「人を惹きつける何かがあるのかもね」と言われているが、六花自身が騒ぐのが好きだからというのもあるだろう。
なので
「柳瀬 六花さんだよね。ちょっといいかな」
と別学部の人間に声をかけられても、誰一人疑問に思わない。例え、相手が有名人だったとしても、だ。
ただ、六花自身は「こいつの笑みが胡散臭い」と本能的に感じている。
「うっわぁ。俺みてその反応初めて」
「そりゃ光栄です」
確か工学系の大学院に所属しているおヒトのはず。六花は、自分のパーソナルデータから、相手のことを割り出していく。
そして、御曹司様と仲のいい「オトモダチ」つまりは、この人もやんごとなきお家の可能性が高い。近づかないに限る、なのである。
「望月先輩だよ! 六花ちゃん」
確か、そんなお名前でしたっけね。望月 啓治。六花が大学に入って、近づかないでおこうと決めた、人物リストにきっちりと入っている。
「とある人物から。食堂で話した内容について」
ここでばらされたくないでしょ? と囁くが、あの騒ぎを知っているのは多いのだが。
「頷いてもらわないと、はるちゃん? だっけかな。あの子のところに行くと思うよ」
「えげつない」
「光栄だね」
他に聞こえないようにいう、気配りがまたえげつない。晴海のところに御曹司様が行ったら、半年以上引きこもるのが目に見えているではないか。
六花の頭の中を「ドナドナ」がよぎったのは、悪くいないと思う。
その「ドナドナ」はしっかりと口ずさむという、嫌がらせを途中から発動させたのだが、相手の楽しそうにハミングして歌っていたので、不発だった模様である。
「ちっ」
「そんなことだろうと思ったからね。この間、友人の反応見るだけに色々と暴露するあたりとか、顧みるとさ」
「あの場にいたんですか?」
「俺はいなかったよ。でも、紅蓮が楽しそうに話してくれた」
「ツボが分からんです」
「楽しけりゃいいと思っている節がある。時々説教されるけど」
説教できる人いたのか、と少しばかり感心してしまう。何せ、ボディガードらしき人は諫めることはあっても、説教するということはなさそうなので。