親友が酷い件について
六花と晴海の待ち合わせはその時の気分で決まる。本日は六花の通う大学の校門で待ち合わせ、現在はその大学構内にある食堂だ。
「部外者がいてもいいのかな」
「大丈夫、問題なし。身分証明書を提示したし、あたしの通う学科も全部登録したし」
セキュリティ的にどうよ? と思ったが、その辺りは様々な申告をすれば問題なしとのことだった。
昨今物騒なため、御曹司や令嬢が通うことの多いこの大学、セキュリティ関連を強化しているらしい。……一部学部内で製作した試作品も使っているらしいのだが。
「御曹司様の御一人がすっごい工学系大好きらしくてね……」
それでいいのか、と思ってしまった晴海だったのだが。
「だって、PCを自分で自作どころか、工学系の論文書いちゃう御曹司様だよ? まずもって自分の身の回りで実験して、問題なかったら大学に導入させるようなおヒトだもん」
「マジか」
「うん。しかも某企業で役員になっているらしくてさ。その報酬全額学部に寄付」
「……はぃ?」
「学費は別の収入でしっかりまかなえるからいいんだってさ。さすがにあたしもめまいがしたよ」
遠い目になりながら、六花が説明をしてきた。
……六花がこの目になるということは、かなりのものだ。
「りっちゃん、気づきたくないのだが」
「気づいてくれて助かったよ、はるちゃん」
「その御曹司様のご実家とやらは、此処の学校の理事に名を連ねてないかい?」
「その通りだよ。しかも総本山」
……総本山。
この大学、名前を「琴織学園大学部」という。そしてこの琴織学園、西宮という家が出資している。西宮家は四条院グループの中核と言っても過言ではない家だ。
総本山の御曹司様、とどのつまりは。
「四条院家の御曹司様かい」
「はるちゃん正解」
知りたくなかった―――。そう叫びそうになるのを、何とか堪えた。
うがぁぁぁと頭を抱える晴海を、嬉しそうに六花が見つめていた。
「はるちゃんじゃないと、このリアクションは楽しめないからね――」
「そのつもりでここを待ち合わせにしたんかい!」
「それ以外何がある!」
ドヤ顔をした六花にデコピンをした晴海は、悪くないと思う。
ぎゃいぎゃいと騒ぎすぎて、当の御曹司様に大爆笑されてしまった。どうやら、途中から聞いていたらしい。
「すまん、態度が新鮮過ぎた」
番犬系なお顔の御曹司様が軽く謝ってくれた。
……その前にこちらも「失礼しました」と謝罪はしたが。
番犬なお顔の御曹司様……本編「魔術屋のお戯れ」にて婚約者共々夏姫を着せ替えをして楽しんでいる、独占欲の強いあのおヒトです。