65.晴れる心
「うわぁ~っ! スゴイです! 王都の景色が隅から隅まで見えますよ!」
「うむ、パンフレットの写真通りだな」
場所は変わって。
俺はシェリーを連れて、王都の絶景スポットに足を運んでいた。
「どうだ、シェリー?」
「すごく綺麗です! こんなに綺麗な景色を見たのは生まれて初めてですよ!」
興奮して耳をピクピクと動かしながら景色を眺めるシェリー。
どうやらかなり気に入ってくれたみたいだ。
ここは王都の中でも一番の絶景スポットらしく、他にも多くの観光客で賑わっていた。
場所は王都に聳え立つ時計塔の中の展望広場という所で、王都内にある観光スポットの中では一番高い場所とのこと。
ちなみに、この情報は全てパンフレットに記載されていたものだ。
「まさか時計塔の上に登れるなんて……レインさんは知ってたんですか?」
「たまたま目について気になっていただけだ。時間も時間だからちょうどいいと思ってな」
今の時刻はちょうど日が沈み、夜の街へと移行する頃。
街の明かりも点々とついてきて、彩りも増していく。
絶景スポットが輝きを放つ時間帯に入ろうとしていた。
「レインさんも、もっとこっちに来て一緒に見ましょうよ。ほら、歩いている人があんなに小さいです!」
俺の腕を引っ張り、隣に来るよう言われる。
シェリーのはしゃぎようを見ると、この選択は良い方向に向いてくれたのだと実感する。
「ご機嫌だな」
「そりゃあこんな絶景を見たらご機嫌にもなりますよ! それに……なんだかこうしてると本当のデートをしている気分にもなりますし……」
「ん、本当の何だって?」
「い、いえ! 何でもないです! 気にしないでください!」
シェリーは赤く染まった頬を隠すように俺の視界から顔を隠す。
俺はシェリーの頭にそっと手を乗せる。
「良かった。もう大丈夫そうだな」
「へっ……レインさん?」
突然頭に手を乗せられピクリと身体を動かすシェリー。
俺はそのまま優しく、包むように頭を撫でた。
「さっきまでのお前の心は深く沈んでいたからな。いい薬になったみたいだ」
「レイン……さん」
俺はしばらくシェリーを撫で続けた。
いつもよりも長く、そして丁寧に。
「わたしを元気づけるためにここに連れてきてくれたんですね。なんかお気を遣わせてしまったみたいで、すみません……」
「気を遣った覚えはない。……放っておけなかっただけだ」
「え……?」
「いや、何でもない。それよりもそろそろ屋敷に帰らないとな。あいつらのことも気になる」
「そうですね」
ボソッと言った一言が聞かれなかったことにホッと一息。
自分で言うのもあれだが、らしくない言葉が出てしまった。
「でも、あと少しだけ……もう少しだけ景色を一緒に見ませんか?」
「別に構わないが、そんなに気にいったのか?」
確かに良い景色ではあるが……
「ふふふっ、何となくです。今度はみんなでここに来たいですね」
俺の腕を掴みながら。
ニコっと可愛らしい笑顔を浮かべるシェリーに俺は答える。
「ああ、そうだな」
そんな俺の返答にシェリーは更にギュッと俺の腕を掴むと。
「レインさん、今日はありがとうございました。本当に、本当に最高の一日でした!」
夜景並みに光り輝くシェリーの笑顔。
それを見て、俺は心の底からホッとしたのだった。
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