64.一難去って
「以上が事の顛末だ。後は、これがその証明になるだろう」
「わざわざ報告ありがとうございました。こちらの情報は責任を持って当局で保管させていただきますので。後の調査は我々お任せください」
「お願いする。では俺はこれで……」
受付嬢に浅く礼をすると、その場から立ち去る。
俺たちは今、王都内にある「王都第三役所」にいる。
王都内にはそれぞれの部門ごとで役所を構えているのだが、ここは特に犯罪や事件と言った分野を担当しているらしく、それに伴ってこの街全体の治安維持の任も任されているらしい。
実際、外には王宮から派遣された騎士や民間の治安維持隊が睨みを効かせていた。
どうやら、俺が報告する前に現地でひと騒ぎあったらしい。
恐らく、結界を破った後にまた誰かが入ったのだろう。
まぁあのレベルの戦場跡を見れば、騒ぎになるのは時間の問題だったしな。
おかげで役所内の手続きも余計な時間をかけずに、スムーズに終えることが出来た。
事情聴衆も予想よりもあまり長くならずに済んだし。
ちなみに例の三人組は王国法に基づいた上で、無事拘置所へ送られたらしい。
これから尋問なり、裁判にかけられたりと色々と忙しくなるみたいだ。
計画に失敗した上、捕まるなんて。
俺が言うのもあれだが、気の毒な連中である。
「すまん、シェリー。待たせてしまったか?」
役所内のパブリックスペースにはいち早くシェリーの姿があった。
一応各自諸々の作業を終えたら、ここに集まることになっていたのだ。
「いえ、全然大丈夫です。わたしもついさっき終わったところなので」
「なんか悪いな。せっかくの……で、デート? が無駄になってしまって」
時刻はもう夕暮れ時。
例の事件で残りの時間をほとんど使ってしまっていた。
「気にしないでください。こうしてレインさんと二人きりの時間を過ごせるなんて滅多にありませんし、わたしはとても楽しかったですよ」
ニコッと笑い、俺の横にささっと寄って来る。
そして俺の腕に捕まると。
「それに、レインさんにはまた助けられてしまいましたから。ホント、情けないです」
「シェリー……?」
腕を掴む強さが若干強度を増す。
そして、彼女は続けた。
「犯人を捕まえるって大見得をきった割に何もできなかった。やっぱりわたしは、弱いなって……改めて感じました」
弱々しい声で。
その声で今まで気になっていた彼女の心情がよく分かった。
というのもさっきから何となく暗い感じになっていたからだ。
何か気に病んでいることがあるのかとずっと気になったんだが、そういうことだったのか。
「気にするな、シェリーはよくやった」
「でも、わたしはまたレインさんに迷惑を……」
「迷惑? むしろその逆だ。お前が奴らを見つけてくれなかったら、今頃どうなっていたか分からない。ただでさえ広い場所だったんだ。上手く隠れられでもして更なる一手を打たれていたら、戦況は大きく変わっていただろう。お前がこの街の平和を救ったんだ」
「わたしが……この街を?」
「ああ。それにだ。誰だって思い通りにいかないことはある。かつての俺もそうだった。何度も失敗して、何度も師匠に迷惑をかけた」
「レインさんにもそんな時期が……?」
「まぁな」
そう、それはもう数えきれないほどに。
「その上、厄介なことに昔の俺は臆病者でな。最初からやろうともしないで、諦めていたことが多かった。当然、その後師匠にボロクソに言われたがな」
俺は続けた。
「でも、シェリー。お前は違う。お前は、その場から逃げるのではなく、真正面から敵に立ち向かおうとした。しかも、自分一人で。これは中々できるものじゃない」
「そ、そうでしょうか……」
「そうとも。だからむしろ誇ってもいいくらいなんだぞ?」
単に腕っぷしがいいということだけでは、強いとは言えない。
どんなことでも臆することなく、立ち向かっていける人間こそが、強いと言われるに相応しいと俺は思っている。
真の強さというのは、力よりも心に秘めているものなのだ。
ただこれはあくまで、俺の持論だが。
「だからあまり自分を卑下するな。それでも自分を認められないというのなら、その反省点を次に活かせばいい。そうだろ?」
「は、はい……」
今の彼女にとっては気休めにしかなっていないのかもしれないが、俺は本心で言っている。
彼女には、年齢を超えた強さがある。
これだけは間違いなく言える。
ただ、どうしたものか。
今の彼女は酷く落ち込んでいる。
言葉だけでは物足りないだろう。
(何か、自信に変わるきっかけになるようなことがあればいいんだが……)
そう考えていた時だ。
(あっ、あれなら効果的かもしれんな)
一つ良い案を思いついた。
効果が出るかは未知数だが、やってみないことには分からない。
「なぁ、シェリー」
「はい?」
「もう少しだけ付き合ってくれないか? 行きたいところがあるんだが」
「も、もちろんです! レインさんの頼みなら、どこまでもお供させていただきます!」
「決まりだな」
ちょうど今頃、いい感じになっているはずだ。
少しは気が晴れるだろう。
俺はそう思いながらも、彼女をとある場所へと案内するのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
面白い、応援したいと思っていただけましたら是非ブックマークと広告下にある「☆☆☆☆☆」からポイント評価をしていただけると嬉しいです!