06.壊滅
一方その頃、とある場所にあるS級指定迷宮では……
「クソッ、なんて硬さだ! 攻撃が通らない!」
レインの元パーティーメンバーたちがクエストに出ていた。
しかし迷宮に入って早々、いきなり苦戦を強いられていた。
「バカな! 今までなら倒せたはずの相手がなぜ倒せない!」
パーティーリーダーであるゲインは大声でそう叫ぶ。
他三人のメンバーも同様に息を切らし、たった一体のゴーレムに苦戦していた。
「や、やっぱり……レインがいないとダメなんだ。あいつがいつも先陣を切ってモンスターを弱らせてくれていたから……」
確かにレインは強かった。
パーティーメンバーになる前の彼の功績はギルドも目の玉が飛び出るほどのものだった。
ソロ冒険者にも関わらず、国が直々に依頼を出していた難関クエストを次々とこなし、歴代史上最速でSランク冒険者へと上り詰めた。
ゲイン含め他のメンバーはそこまで行くのに5年はかかったというのに。
だからこそ、ゲインは認めたくなかったのだ。
最近ひょっこり出てきた人間に全て負けてしまっているという事実を。
「何を臆病な! あの男はいつもおいしいところを奪っていっていただけだ! 俺たちがモンスターを弱らせていたからあいつは……」
「じゃあ、なぜ俺たちは今苦労している!? しかもたった一体のゴーレム如きに!」
声を張り上げるのはパーティーの盾役イルマ。
ゲインとは違い、彼は今の状況が危険だということを理解していた。
同時にパーティー自体がレイン頼りになっていたこと。
そしていつしかそれが当たり前になり、パーティー自体が麻痺をしていたこと。
何でもかんでもすんなりと終わる現状を自分たちは”ごく普通”と捉えてしまっていたことなどだ。
「ぐあああああああああああっ!!」
「くそっ、ライズが……うわぁぁぁっ!!」
「デュルケッッ!!」
次々と倒されていくパーティーメンバー。
それはもう無残に一刀両断され、見るに堪えない姿と化していた。
「に、逃げようゲイン! 今の俺たちじゃ勝つのは無理だ! やっぱりレインがいないと俺たちは――!」
「そんなはずはないッッ!」
イルマの言葉を遮り、全否定するゲイン。
するとゲインは、
「貸せ! 俺の力だけで片づけてやる!」
イルマのもっていた盾を強引に奪い取り、盾を構えた。
「あんなやつがいなくとも俺たちはS級冒険者。認められし者なんだ! たった一人消えただけで、勝てないなんてことはあり得ない!」
「よせゲイン! お前の実力じゃ……!」
「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
もうゲインの耳にイルマの声は届かない。
ゲインはこみあげてくる憤怒の感情を糧にモンスターへと突っ込んでいく。
そして大きく振りかぶり、思いっきり剣を振り下ろす……が、
「……なにッッ!?」
ゴーレムはゲインの剣撃を片手でいとも簡単にキャッチ。
そのままガッチリと剣と身体を固定し、反対の手に持っていた斧をゲインの腕をめがけて振り下ろすと――
「……あれ?」
突然手に持っていたはずの剣とゲインの手が分離。
そして同時に大量の血が切り口から噴き出した。
「う、ウソ……だろ。俺の……俺の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
痛みも後からやってきたのかそのまま地に転がり落ち、悶絶する。
だがゴーレムは容赦なかった。
悶絶するゲインの元にドスドスと音を立て、近づくと、トドメの一撃をお見舞いするべく斧を振り下ろす……が、
「ぐああああああっ!」
「い、イルマぁぁッ!」
助けようとしたイルマが身代わりとなり、縦に一刀両断。
溢れんばかりの血が噴き出し、ゲインの顔面に降り注いだ。
「う、ウソだ。これは夢だ。そうだ夢に違いない!」
さすがのゲインもここまで来たら焦りを隠せなかった。
ゴーレムは切り倒したイルマの血肉をパッパと振り払うと、再びゲインの元へ。
「は、はははは……! ウソだよな? こんなはずはない。俺はこんなところで……」
未だに現実を受け止めきれず、同時に精神的パニックにも陥っていた。
でもゴーレムは待ってはくれない。
もうゲインには戦うどころか逃げる気力すらもなかった。
そんな中でゴーレムは紅い二つ目をギラッと輝かせ、ゲインを見る。
ゲインは残った気力を振り絞り後ずさりしていくが……
「いやだ……いやだいやだいやだッ! まだ死にたくない! 俺はまだッ!」
悲痛な叫びが迷宮内に木霊する。
ゴーレムはそんなゲインを笑うかのように目を光らせると、巨大斧を振り上げ――そのまま勢いよく切りかかった。
「あ、あぁぁ……ぁぁぁぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
……この日、S級指定のとある迷宮にて四人の冒険者が命を落とした。
それも無残に身体をズタズタにされ、人であったかもわからないほどになっていたという。
もちろん、レイン本人はそんなことが起きていたなんて知る由もない。