57.監視するもの
「ようやく収まったか……」
剣を鞘に戻し、息を吐く。
周りには俺が討伐した大量の魔物の死体と戦闘跡だけが残っていた。
やはり術式自体を壊す方が手っ取り早かったようで、壊した途端に魔物たちの出現は収まった。
「特殊術式か……」
ゲートを破壊した際に現れた巨大魔法陣の前に立つ。
調べてみると中々に手の込んだもので、一人だけで構築できるようなものではなかった。
「となると犯行者は複数人いるってことか」
それか予め準備されていた術式をコピーしたか。
そうであれば、一人でも術式構築は可能だ。
とにかく、こんな人の多い都市で広げるようなものじゃない。
規模から察するに犯人はこの王都を破壊するために仕込んだものと考えられる。
人払いの結界を張っていたのも、術式を準備するためだろう。
「これは面倒なことになりそうだな……」
王都の裏で何か良からぬものが動こうとしている。
多分、剣舞祭を狙ってのことだろう。
目的は分からないが、災いの匂いがプンプンする。
「役所かギルドに報告した方が良さそうだな……」
とりあえず証拠は押さえておこう。
写真機を取り出し、パシャリと一枚。
この写真機は前によく分からない商人を助けた時に貰ったものだが、まさか役に立つ時が来るとは……
写真なんて今まで撮ったことないし、撮ろうとも思わなかった。
だからこの一枚は俺にとって初めての写真になる。
……まぁ、俺自身は映っていないんだが。
「よし、これでいいだろう。後はシェリーだな」
一番気がかりだったこと。
それはシェリーの安否だ。
「無事だといいんだが……」
今のところ、周りの状況に変化はない。
一応シェリーには輝石を預けてある。
何かあれば光らせるように言っておいたのだが……
「心配だ……」
シェリーは年の割にしっかりとしているとはいえ、まだまだ子供だ。
やはり一人で犯人捜索に行かせたのはマズかったか……
「いや、今更そんなことを考えても仕方ないな」
とりあえず今はシェリーを探そう。
そして――
(……ん、誰だ?)
シェリー捜索へ向かおうとした時、どこからか人の気配を感じる。
それも俺を見ているようだった。
(誰だ? 誰が俺を見ている……?)
この広場の周りは雑木林。
隠れる場所ならいくらでもある。
このような環境の中じゃ、普通ならどこに隠れているか特定するのは難しいだろう。
だが、一つだけそれを探る方法がある。
それは――
「……そこか!」
俺はポーチの中に潜めていた短剣を取り出し、ある場所へと投擲する。
投げた短剣は木の幹に刺さり、同時にガサガサっと草木が揺れる。
すると。
「あちゃー、見つかってしまいましたか」
「え、ウソッ!? 見つかったんっすか!? この距離で!?」
木の幹の裏から一人。
草むらの中から一人。
合計二人の男が、姿を現した。