56.助けの光
そうか! これなら……!
一つの案が頭の中に浮かんでくる。
もちろん、成功する確証はない。
でも何もしないよりはマシだ。
幸いなことに怪しい人たちは何かを議論しているようで、全くこっちに関心を寄せていない。
やるなら、今しかない。
(集中だ……集中するんだ……)
自分にそう言い聞かせながら。
シェリーは目を瞑り、集中する。
そして自分の体内に巡る魔力を一点に集める。
シェリーが考えた方法。
それは魔力操作によって、体内から適量の魔力を放出し、輝石へと伝わらせて、光らせるというものだった。
魔力を何かに伝わらせる場合に一番簡単なのは物理干渉をしている時だ。
要するに魔力を伝えるためのモノに自身の身体の一部が触れているか、いないかということ。
それが一番楽な方法であり、ポピュラーなやり方になる。
しかし、それ以外にも物理干渉なしで魔力を伝わらせる方法がある。
それが魔力操作による方法だ。
ただ、このやり方は自分の中の魔力をある程度を自由自在に操れることが絶対条件となる。
魔力というのは魔法を使うための原動力になるが、あれは操作をしているわけではない。
決められた術式に自分の魔力を媒介にして発動させているだけなのだ。
そのための発動条件が呪文ってだけで。
だから魔力を操るというのはまた別の技術が必要となる。
その点、魔力操作がある程度できてくれば、伝える魔法の幅も広がるし、色々な応用もきかせることができる。
ある意味、レインはその点で最高の境地に達していると言えるだろう。
シェリーは王都に来る前に少しだけレインにこの魔力操作を教わったことがあった。
その時は魔力で物体浮遊をさせてみろとのことで、目の前に置いたコインを浮かせるだけで精一杯だったが……
(あれから練習してたんだ。わたしにだって……!)
できるはずだ。
シェリーはそう思いながら、精神を研ぎ澄ませる。
(……よし、魔力は溜まった。後は……)
シェリーはパッと目を開くと、じっと輝石を見つめ始める。
心臓に溜めた魔力を輝石へと流し込んでいく。
ちなみに魔力を心臓部分に溜めるのは人間の体内の中で一番生きていくのに重要な場所であるからだ。
人の生命の源が集中している場所に魔力を溜めることによって、魔力が活性化され、魔力操作がしやすくなる。
教わっている時にレインが言っていたことだ。
(お願い……光って!)
目の前に落ちている輝石に想いを念じながらも、シェリーは奮闘する。
すると。
輝石がカタカタと音を鳴らし、動き始める。
そして徐々に光を帯びながら、宙を浮き――
(や、やった……! 成功だ!)
「ん、なんだ?」
「お、おい! なんだこの光は!」
「くそっ! 眩しい!」
男たちが気づいた時には輝石は高々と空に舞っていた。
そして閃光の如く激しい光を、森中に解き放ったのだった。