55.捕縛
ヤバい。
そう思った時にはもう遅かった。
「※※※※※!!」
腕を捕まれ、即座に口を押さえられる。
当然、小さな身体を持つ彼女では大人の力に抵抗することはできず、成す術もなく連れていかれる。
「おいお前ら。少しは用心しろ。ガキが盗み聞きしてたぞ」
「は? なんでガキがいるんだ?」
「バーン、お前結界を張り忘れたんじゃないだろうな?」
「まさか。しっかりと展開しておいたはずだ」
「じゃあ、なんで俺たち以外の奴がいるんだ?」
揉め合う黒ローブの男たち。
そのやり取りはシェリーはただ見守ることしかできなかった。
「おいおい……今は内輪揉めをしている場合じゃないだろ?」
もう一人の男が二人を止める。
「ちっ……まぁいい。おい、レイド。とりあえずそのガキは口を塞いで木に縛りつけておけ。余計な真似されると困るからな」
「こんなガキに俺たちの邪魔をする力なんてありゃせんよ。気にし過ぎだ」
「いいから黙ってやれ。今回の作戦はボスに報告するんだぞ? 予備段階とはいえ、失敗はしたくない」
「へいへい。相変わらずマジメですね、バーンくんは」
レイドと呼ばれた男はシェリーの口を布で塞ぐと、シェリーの手の内に持っていた物に注目を向けた。
「ん、なんだその石ころは? 貸せ!」
レイドはシェリーから無理矢理輝石を奪うと、じっと見つめ……
「なんだ、鉱石かと思ったら本当にただの石じゃねぇか。期待して損したわ」
何を期待していたのか、レイドは「はぁ」と溜息をつくと、輝石をその辺に投げ捨てる。
そしてシェリーを引き連れ、近くの木に張り付けにすると、ロープで縛りつけた。
「これでよしと。大人しくしてろよ?」
レイドはそれだけ言うと仲間の方へと戻る。
「んで、どうだったオッタル?」
「ああ、問題ない。あの謎のガキ以外は異常なしだ」
「よし、じゃあ計画を次のフェーズへと移す――」
一方その頃。
男たちが作戦会議をしている中でシェリーは脱出を試みようとしていた。
「(なんとかここから出ないと、大変なことに……!)」
でも身体は完全に固定されてしまっているため、身動き一つ取れない。
魔法を使おうにも口が塞がれているので、詠唱ができない。
もちろん、力で打破できるほど怪力があるわけでもない。
「(ど、どうすれば……!)」
葛藤と混乱で頭の中がぐちゃくちゃになりかけていたその時だ。
シェリーの視線にあるものが映った。
「(あれは、さっきあの人が投げ捨てた……)」
それはたまたま近くに転がっていた輝石だった。
幸運なことに、投げたところが縛られた木の近くだったのだ。
「(あ、あれさえ手に取れれば……)」
だが手と身体は拘束されている。
唯一自由に動かせるのは足のみだが……
「(うぅ……あとちょっとなのに……)」
足を出来る限り、目一杯伸ばすが、無念にもあと数センチ届かない。
もう少し足が長ければ……と、そんな想いが込み上げてくる。
輝石さえ光らせることが出来れば……
伸ばした足を引っ込め、そう考えていたその時だ。
(あっ、そうか! 光らせるだけなら、これでも……)
この状況を打開するための案がピカーンと脳裏を過った。