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53.決意


「結界って……なんでこんなところに」


「分からない。しかも人避けの結界だ。なんか嫌な予感がするね」


「嫌な予感……と言いますと?」


「例えばここで悪事が行われようとしている……とか」


「ま、まっさか~! ここは王都ですよ、アニキ。そんなことする輩がどこにいるんすか。第一、王音には国家騎士がいるんすよ。王都で騒ぎなんて起こしたらただじゃすまないっすよ。アニキの考えすぎです!」


 からかってくるゼン。

 だが僕はどうも落ち着くことができずにいた。


 あくまで直感的なものだけど、感じるんだ。

 

 悪事の匂いが。

 邪悪な気配が。


(これは、調べてみるほかないな)


 少しでも気になるなら行動を起こす。


 僕の生き方の一つだ。


 行動力こそがその人間を高みへと導いてくれる。

 そう信じて僕は今まで突き進んできた。

 

 だから今も僕自身がやるべきだと思うならそうする。


 この先にどんな試練が待ち受けていようと。


「ゼン」


「どうしたんすかアニキ?」


「今日の鍛錬は中止だ。今からこの結界を破って公園内を調査する」


「ほ、本気ですかアニキ! ここで鍛錬ができないのなら他の場所で――」


「そういうことじゃないんだ、ゼン。僕には感じるんだよ。この先で何か良からぬことが起ころうとしていると。だからここで引き下がるわけにはいかない。真実をこの目で見るまではね」


 一度決めたら引き下がらないのも僕の特徴だ。

 ゼンにはよく頑固だって言われるけど。


「あ、アニキがそこまで言うなら……」


「別にゼンは先に帰っていてもいいんだぞ。僕の我儘に付き合う必要は――」


「いや、それだけはあり得ないっす! アニキが行くなら俺も行きます!」


 僕が言いかけたところをゼンはすぐに遮り、自分の意思を通す。

 

 彼が向けるキリッとした表情には真剣さがにじみ出ていた。


 この表情を見るだけでも、彼が嘘をついていないことが一発で分かる。

 逆に嘘をついている時の表情も一発で分かるんだけど。


「じゃあ、少し危険な旅になるかもしれないけど一緒に来てくれるかい?」


「もちろんっす! たとえ火の中水の中、アニキがいるところにゼン・マクドエルありっす!」


 ゼンは言い切ると、ニヤリと笑みを浮かべる。


 話は決まった。

 あとやるべきことはただ一つ。


「この結界をどうするか……っすね」


「だね……」


 行こうと意気込むのはいいが、肝心の結界を破壊しない限り、先へは進めない。


 僕は剣と低位の魔法以外、スキルや技能を持っていないから、結界を壊すことはできないが……


「ここはゼンの出番みたいだね」


「そうみたいっすね」


「できそう?」


「やってみないと分からないっす」


 こう見えてもゼンは魔法剣士だ。

 魔法に関しては僕よりも知識も技能もある。


 ゼン曰く結界の解除はしたことないみたいだが……


「うん! こりゃ無理っすね!」


 結界破壊に着手して早々に無理です発言が飛び出した。


「壊せそうにないのか?」


「無理です。これはもう普通の魔法じゃ対処できないほどかなり高階梯の結界なので俺なんかのヘナチョコ解除魔法じゃ無理っす。絶対に」


 ゼンは首をブンブン振って無理をアピールする。


 高階梯の結界か。

 そうなると相手は術式師か何かか?


「どうしますアニキ? このままじゃ中に入れないっすよ」


「うーん……」


 結界は基本的に物理干渉ができない。

 もし剣技で壊せるもんならすぐにでもやるんだが……


「……ん? なんだ今の衝撃は」


 突然。

 ズシンと身体に謎の衝撃が走る。


 すると、


「あ、アニキ! こっちに来てください! 結界が……結界が壊れましたよ!」


 ゼンの高揚した声が僕の耳に入ってきた。

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