52.危険察知
僕の名前はグロウ・フェイカス。
どこにでもいるごく普通の冒険者だ。
今、僕は王国の王都ルキアにいる。
理由はもちろん、剣舞祭に出場するためだ。
そして今日も僕はいつものようにとある場所に向かっていた。
「アニキ、今日は何処へ?」
「いつもの鍛錬場さ。もう剣舞祭まで時間はないからね」
「さっすがアニキ! 向上心ありますなぁ~!」
「当然だよ。僕は勝利を手にするためにここまで来たんだ。時間が許す限り、鍛錬の手は止めないよ」
「くぅ~かっくいいい! 流石はアニキっす!」
「大袈裟だよ……」
彼はゼン。
僕とは幼馴染だが年齢は一個下でかれこら10年以上の付き合いになる。
昔から陽気で、僕のことをいつも大袈裟なリアクションで持ち上げる。
今日もそれは相変わらずだけど、彼のおかげでモチベーションを維持できているのは否定できない。
僕にとって、かけがえのない友人だ。
「それよりもアニキ。例の噂、もう聞きました?」
「噂? 何のことだい?」
「この王都にテロリストがいるかもしれないって噂っすよ。今年も一部の冒険者で話題になっているらしいっす」
「テロリストか……」
毎年この時期になると、必ず話題に上がる内容だ。
剣舞祭は世界各地から大勢の人が集まる。
人が集まる、ということは必ずしも皆良い人ばかりではない。
中にはどさくさに紛れて悪人も混じっていたりする。
特に政治経済関連に不満を持ち、暴動を起こすような連中は要注意だ。
ゼンの言った通り、テロを起こしかねない。
彼らにとって人が大勢いることは都合がいいからな。
とはいえ、これは毎年のこと。
去年も同じような噂が流れて、結局何もなかったし……
「今年も大丈夫だと思うよ。みんな、心配し過ぎだ」
「そうだといいですけどねぇ」
「不安なのか?」
「不安というか、なんか嫌な予感がするんすよね。ま、根拠はないっすけど」
「……」
まぁでも可能性はゼロじゃない。
巻き込まれないように警戒はしておかないとな。
「それよりもアニキ、今日の夕飯何にします?」
「今日はゼンのオムライスが食べたいな。あれ、すっごく美味しいから」
「また自分の手料理っすか? たまには外で食べても……」
「嫌……なのか?」
「そういうわけじゃないっすけど、飽きないっすか? 毎回自分の手料理ばかりだと」
「そんなことはないさ。正直言うと、ゼンの料理はその辺のお店よりも全然美味しいからね。僕にとってはゼンの料理はご褒美に等しいよ」
「あ、アニキ……」
「だから、今日もお願いできるかな?」
「も、もちろんっす! そんな嬉しいこと言われたら作らずにはいられないっすから!」
「ありがとう。じゃ、鍛錬終わりの楽しみにしておくよ」
こんな会話をしながらも僕はゼンと共にいつもの場所へと向かう。
いつもの場所というのは僕が普段剣の鍛錬をしている場所だ。
とはいっても、演習場みたいなたいそうなところじゃなくてただの公園なんだけどね。
でもとてつもなく広い公園だから、鍛錬には持って来いなんだ。
「今日は裏門から入ろう。今の時間帯は人が少ないだろうし」
「了解っす!」
鍛錬をするに当たってやはり人気がない方がいい。
公園は公共の場だ。
人様に迷惑をかけるようなことはしたくない。
こうして僕とゼンは公園の裏門までやってきた。
名前はカルベージ噴水公園というその名の通り、噴水がある公園だ。
でもここは普通の噴水公園とは違ってとんでもないほど噴水がある。
ここ最近、毎日通っている僕ですらまだ全部の噴水を見たことがないくらいだ。
王都の観光名所になっているからか、人も多く、時間によって親子連れが沢山この公園に集まる。
パブリックスペースとしては王都一の規模だろう。
ちなみに鍛錬の時は比較的人の少ない時間帯を狙って訪れている。
その方が迷惑もかからないし、鍛錬の効率も上がるからだ。
「お、今日も人が少ない……ってか誰もいないっすね。今日はラッキー日じゃないっすか!」
「うん。でもなんか不自然じゃないかい?」
「えっ、どういうことっすか?」
「今まで誰もいないなんてことはなかった。それに、周りも静かすぎる……」
「た、確かに言われてみれば……」
ちょっとやそっとの変化じゃ多分、気づかなかっただろう。
でも今日はどこかが可笑しい。
これはいつも来ている人間なら一目瞭然だ。
人がいないと言っても誰もいないなんてことは今までに一度もなかった。
仮にあったとしても、周りがここまで静かなのは不自然だ。
住宅街だから、という理由で結論づければ考えられなくはないけど、なんかいつもと空気が違った。
抽象的に表現すれば、嫌な空気……とでも言えばいいか。
「まさか……」
僕は一つ気になったことがあり、後門の近くまで歩み寄った。
そして後門の門前で手だけをそっと入れる。
すると。
「……やっぱり、そうか」
予想的中。
不自然だった理由がこの瞬間、解明された。
「ん、どうしたんすかアニキ?」
首を傾げ、駆け寄って来るゼンに僕は答えた。
「結界だ。この公園全体に、結界が張られている」