48.二つの黒い影
レインとシェリーが王都散策をしている中、街の影にひっそりと潜む者がいる。
「ふっ、今や王都はお祭り気分ってか」
「数年に一度の祭典だ。無理はないさ」
灰色のローブの来た二人組の男。
彼らもまたとある目的に王都入りをしていた。
「で、計画は予定通りにやるのか?」
「もちろん。これだけ人がいるんだ。さぞ大量の血が流れるだろうよ」
「でもボスが望んでいるのは殺戮じゃない、そうだろ?」
「ああ。あくまで今回は実験に過ぎない。よって手出しはするなとのご命令を受けている」
「ちぇっ、今回は観察がメインかよ。つまんねぇ……」
「まぁそう言うな。とにかく、今は準備を進めるぞ」
「しゃーねぇな」
男たちは素早く移動すると、繁華街からだいぶ離れた場所にある噴水公園へとやってきた。
「よし、ここでゲートを展開させるぞ」
「あいよ。人払いの結界は張っておくか?」
「頼む。ゲートを展開する際に他の連中に見られたら厄介だからな」
「りょーかい」
陽気に返事をし、男は噴水公園全体に人払いの結界を張る。
完全に外の世界とは分離され、噴水公園だけがこの空間内に残った。
「張ったぜーそっちはどうだ」
「少し時間がかかりそうだ。結界はどれくらい持つ?」
「もってあと一時間ってところだな」
「なら、モタモタしてられんな」
もう一人の男も迅速に準備を進めていく。
「よし、これで終わり……」
男は公園の地面にとあるものを描くと、静かに立ち上がった。
「終わったぞ」
「おう……ってなんだこりゃ? これがゲートなのか?」
「ああ、そうさ」
公園の一部に広がる巨大な魔法陣。
でもこれはただの魔法陣ではない。
「この魔法陣には特殊な術式が埋め込まれていてな。詠唱なしで発動させることができるんだ」
「詠唱なしで? マジかよ」
「そんじゃそこらの召喚魔法とはワケが違う。あれはとんでもないくらいの魔力を必要とするからな。だがこれの場合はその心配はいらない。元々術式として完成しているから、そこまで魔力が必要ないのだ」
詠唱というのは自分の魔力を声に乗せて術式に伝わせるためのもの。
無詠唱でできるというのはその分、魔力の消費がなく、逆に長い詠唱を必要とすると、大量の魔力を消費する。
この場合は使用者というよりかは術式の方が完成しているから、使用者は最低限の魔力で魔法を発動させることができるってわけだ。
「んじゃ、あんたがこれを発動させたらお楽しみの始まりってわけか」
「そういうことだ」
「はははっ、楽しみだな。王都にどれだけの悲鳴が響き渡るのか、実に見物だ」
男はニヤリと笑みを浮かべると口にしていた葉巻を地面に投げ捨てた。
「決行は二時間後に行う。俺たちは命令通り、見学と状況確認に徹する。間違っても勝手に跳ねるんじゃないぞ?」
「へいへい、分かってますよ」
頭をポリポリと掻きながら、気だるげに返事をする。
「そろそろ結界が解ける頃合いか。一旦ここを離れるぞ」
「おう」
そして人払いの結界が解かれると、男たちは街の暗闇の中へひっそりと消えていった。