41.愛の味は奇抜な味
「最後はシノア様、お料理を前へ」
「は、はい……!」
少し緊張気味に前に出てくるシノア。
彼女はガタガタと震えた手で料理をそっとテーブルの上に置いた。
「どうした、なんでそんなに緊張している?」
あまりにもいつものシノアらしくないので、聞いてみることに。
「だ、だって……男の人に手料理を振る舞うとか初めてだから……」
意外にも可愛らしい理由だった。
最初のあの勢いはどこへ行ったのだろうか。
「別にそこまで張り詰めることはないんだぞ? 審査と言っても大したことするわけじゃないんだし」
「で、でも……異性相手に自分の手料理を食べさせるってその……」
「その……?」
「や、やっぱりなんでもないです!」
シノアは何か言おうとした直前に話を止める。
そんなに異性に対して料理を提供することに抵抗があるのか……?
「そ、そのレイン様」
「なんだ?」
「も、もしマズかったら遠慮なく言ってくれて構わないですから!」
「ああ、その辺は遠慮なく言わせてもらうぞ」
「容赦なし!?」
シノアからしたらまさかの返答だったのだろうか。
驚きで目を大きく見開きながら、声を張り上げた。
「そこはしっかりと言わないと、逆に失礼じゃないか? それよりは口に合わないものは合わないと言った方が……」
まだ良心的、だと俺は思うけどな。
それにお世辞は出来る限り、言いたくない。
「ま、まぁ……そこはレイン様にお任せしますけど、あまり直球で言うのは止めてくださいね。絶対、後でへこみますから……」
「分かった。善処しよう」
とりあえず、なぜマズイことが前提になっているのか。
そんなに自分の料理に自信がないのか?
確かにさっきの二人は常人よりもその上の行く仕上がりの料理を見せてきたが……
「シノア様、それでは料理をお願いします」
「は、はい!」
ルモンの指示でシノアは布を取り、蓋に手をかけると――
「これがわたしが作った料理です……!」
思いっきり蓋を開ける。
すると、
「ん、これは……」
大皿に入った細い麺とその上にかかる紅色のソース。
盛られたてっぺんにはバジルみたいなものが散りばめられており、見た目は中々に鮮やかだった。
「ぱ、パスターニャ……って言います。わたしが一番好きな料理で……」
シノアはボソッと小声で言う。
「ふむ、好きな料理か……」
見たことがない料理だが、普通に美味しそうじゃないか。
見た目も綺麗だし、他の料理にはないインパクトもある。
特に……
「この長細いのはなんだ?」
「えっ、もしかしてパスターニャを知らないんですか?」
「ああ……初めて見た」
驚くシノア。
他の二人も同じ反応をしているところを見ると、割とポピュラーな食べ物らしい。
「それはパステールと言って小麦粉で作った生地を伸ばして長く細くカットしたものです。色々なソースに絡めて食べられるのでどこの地方でも人気の料理なんですよ」
「ほう……」
今まで色んなところを渡り歩いてきたが、初めて食す料理だ。
上にかかっているこの紅色のソースはトマトソースだろうか。
「もう食べてもいいか?」
「はい、どうぞ」
では遠慮なく……と口に運ぶもつるんと落ちる。
それが何度か続くと、
「パスターニャはフォークで巻いて食べる方が食べやすいですよ」と、シノアが食べ方を説明してくれた。
俺は礼を言うと再び、慣れない手つきで食べ始める。
シノアが教えてくれた通り、フォークで巻いて――口の中に放り込んだ。
「うっ……こ、これは……!」
口に入れた途端、俺の身体は驚きでビクンと跳ねる。
その驚きというのは口に入れた瞬間の風味だ。
(あ、甘い……だと!?)
俺の予想を遥かに凌駕する味。
見た目はれっきとして料理だが、味は完全に……デザートそのものだった。