40.愛の味は思い出の味
ロザリアの審査が終わり、次はシェリーの料理に移る。
ちなみに評価方法は大まかに5段階設定されており、数字が大きければ大きいほど高評価。
逆に小さければ低評価という扱いになる。
こうやって人の作ったものを評価するというのは難しいし、快いものではない。
実際俺は料理に関しては全くできないに等しいからな。
でもこうなった以上、最後まできちんとやり遂げたい。
彼女たちの真剣な表情を見ていると、そんな気持ちが強く前面に出てくるのだ。
「次はシェリー様のお料理となります。シェリー様、お願いします」
「はい。じゃ、じゃあ行きますよ。それっ!」
シェリーは布を勢いよく剥ぎ、蓋を素早く取ると……。
「おぉぉ……!」
中から出てきたのは大きな深皿に盛られたクリームシチューだった。
備え付きでラスクとカップに入ったスープもある。
見た目はすごく美味そうだ。
「お、お口に合うか分かりませんが……じ、自信はあるので食べてみてください!」
「おう。じゃあ遠慮なく」
俺はシチューをパクッと一口。
しっかりと噛んで味を確かめると、
「う、美味い……! これ、すごい美味いな!」
思わず本音が漏れてしまう。
まだ一口だけなのに既に俺の心を美味しさで満たしていた。
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、最高だ。ロザリアとは違う感じだが、これはこれでいい」
違う感じというのは単なる味の好し悪しのことについてではない。
なんかこう、シェリーのは安心する味というどこか懐かしい感じがするというか。
ロザリアの料理は本当に人の舌を唸らせるような旨さだったけど、シェリーのはそういうタイプではなく、どちらかというと庶民向けな感じ。
一言で言えば受け入れやすい味なのだ。
双方ともすごく美味しいということに変わりはない。
だが食べた瞬間に満たされる幸福感などの程度が違うのだ。
「シチュー作るの得意なのか?」
「と、得意といいますか……よくお母さんがわたしに作ってくれたんです。いいことをしたり、頑張ったりしたご褒美に。その味が忘れられなくて、自分でも作ってみようって。それから何度か作っていく内に少しずつですけど、腕も上がっていって……」
「なるほどな」
ということはこのシチューはシェリーにとっては思い出の味ということか。
どうりでこんなにも美味しいわけだ。
(そういえば、爺ちゃんもよくシチューを作ってくれたっけな……)
温かくて、お肉と野菜がいっぱい入っていて。
とても美味しかったのを覚えている。
だからシチューを作ってくれると知った日には凄く嬉しかった。
鍛錬も苦じゃないと思えるようになったのもそういう小さなことによる影響もあるのかもしれない。
そしてこの懐かしさも、今は亡き爺ちゃんが作ってくれたシチューの印象が強く残っているからこそ、こんな気持ちになるんだろうな。
「……ごちそうさまでした。すごく美味しかったぞ、シェリー」
俺はシェリーの頭にポンと手を乗せると、優しく撫でた。
「えへへ……良かったです」
少し緩んだ頬が可愛らしい少女は嬉しそうにそう言う。
「また作る時があったら、食べてくださいね」
「ああ、もちろんだ」
思い出の味。
それもまた人の食に対する欲を惹きつける魔法の味だ。
(忘れらない……か)
曖昧だった昔の記憶が鮮明に蘇ってくる。
そして、こう思うのだ。
爺ちゃん、天国で元気にしてるかな。