04.とんでもないもの
「この辺なら人目につかないから大丈夫だ」
「すみません。突然場所を変えたいだなんて……」
場所は変わって街外れから10分ほど離れたところにある森林地帯。
俺はシノアの要望を聞き、ここまで連れてきていた。
何やらその布で巻かれた物体は人に見られるとマズイ? ものらしい。
「気にするな。それよりも……」
「あ、はい。実はこれ……」
そう言いながら、シノアは紐を解き、被さった布を取っ払う。
すると露わになったのは……
「こ、これは……秘剣か?」
「流石はレイン様です。これを見て一目で分かるなんて……」
布で巻かれていたものは俺の予想通り、剣だった。
……が、ただの剣ではない。
「なぜ神器を……」
この世には神器と呼ばれる武器が存在する。
名前の通り、古来より神々から与えられし武器と言われているものだ。
その中でも剣は三つの区分に分けられており、まず一つ目は滅剣、二つ目は聖剣、そして三つ目が秘剣とそれぞれ特性の異なる神器があった。
滅剣は闇の力を持つ闇魔力を触媒とし、対して聖剣は光の力を持つ光魔力を触媒として力を増幅させる。
だが秘剣だけは魔力ではなく、所有者の魂を触媒として力を強める神器だった。
神器はどれも国宝として指定されており、扱える人物も十指に余るほどしかいない。
まぁ要するに今、目の前にあるブツはとんでもない代物ってわけ。
「この秘剣は君のモノなのか?」
「いえ、これはわたしの親の……死んだ母親の形見なんです」
「形見……か」
秘剣が形見ということはこの子の母親は秘剣使いだったってことか?
(だったらすごい話だが……)
「確かにこんな国宝レベルのものを形見として持ち歩くのはよくないと思っています。でも、手放せなくて……」
「手放せない……? 家には置くことはできないのか?」
保管できる場があるならその方が良い。
一番怖いのは持ち歩いて無くすことだからな。
だがシノアはそれを聞くと悲し気に俯き、
「わたしの義父がこれを売ろうとしているんです。売れば相当な金になると言って……」
そう、静かに答えた。
「なるほどな。だから旅に持ってきたってわけか」
「はい……」
確かにこれは国宝。売れば相当な値になるのは必然的だ。
それこそ一生遊んで暮らせるレベルの財力を手にすることだってできる。
でもシノアにとっては国宝であろうと関係なかった。
彼女にとってこれは愛する母親の形見。
それ以上でもそれ以下でもなかった。
だが問題なのは神器を平然と布で巻いて持ち歩いていることだ。
もしこれが神器だとすれば彼女は色々な人間に目をつけられることになるだろう。
そうなれば彼女の身が危ぶまれることになる。
あと、普通に荷物としてかさばるしな。
(どうするか……)
と、考えたその時。
一つだけ良い案を思いついた。
「シノア……だったか?」
「は、はい。どうかされましたか?」
「いや、一つ提案なんだが……その剣、これに保管してはどうだ?」
「こ、これって……」
懐から出すは一つの小さな箱。
でもこれはただの箱ではない。
「魔道具……?」
「ああ。この箱には空間圧縮の術式が込められていてな。中に無限に物を保管することができるんだ」
「無限に……?」
「そうだ。例えば……」
俺はデモンストレーションとして胸元に潜ませていた短剣を取り出し、箱を開ける。
と、みるみるうちに短剣は箱の中に吸い込まれていき――
「これで、保管完了だ」
綺麗さっぱりなくなった。
「す、すごいです! こんな魔道具があるなんて……」
「仲のいい魔道具職人に貰ったものだ。ちなみに特注で作ってもらったものだから市場には売ってない」
と、軽く説明すると俺は彼女の元にこれを差し出した。
「これを使うんだ。もちろん、これは君にあげよう」
「えっ、いいんですか? 特注で作ってもらったものなのに……」
「構わない。どちらにせよ、俺には使い道がなかったからな。保管するほど物を増やさないんだ。それに、その魔道具は所有者が決めた呪文を唱えない限り、決して開かない。一応、呪文のリセットはしておいたから後で好きに自分で呪文を決めるといい」
「あ、ありがとうございます……レイン様! 一生大切に致します!」
「お、おう……」
嬉しそうにしてくれて何よりだ。
剣は結構重いからな。
ずっと持っていると肩とかも凝るし。
「じゃあ、とりあえず街に――」
「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇ!」
その時。
森の奥から助けを呼ぶ声が聞こえてくる。
この感覚は……魔物か?
「れ、レイン様……この感じ」
「君も感じ取れるのか? この魔力の流れを」
「はい。この邪気を含んだ魔力の渦は……魔物ですね」
それもかなり近い。
同時に魔物と思しき叫喚も聞こえてきた。
「……結構デカい反応だ。君はここで待っていてくれ。すぐに戻って来る」
「いえ、わたしも行きます! これでも剣士の端くれ。何かのお役に立てると思います」
「分かった。じゃあ、行くぞ」
「はい!」
晴天下の森の中で。
俺たちは聞こえてきた叫び声を頼りに、森の奥へと走るのであった。