39.愛の味は至高の味
シリアスな話から一転し、俺の意識は料理対決の方へと戻る。
制限時間になり、とうとう審査員である俺の出番が来たのだ。
「皆さん、お料理の方の準備は整いましたかな?」
「私はバッチリよ!」
「わたしも大丈夫です!」
「わ、わたしもだ、大丈夫……だと思います」
ロザリア、シェリーは準備万端な様子。
シノアだけはどこか不安そうにしているが……
(上手くいかなかったのだろうか……)
調理時間が終わると、俺たちは再びダイニングルームへ。
戻るとそこには俺専用であろうテーブルと椅子が置かれていた。
(用意周到だな……)
「では、レイン様。こちらにお座りください」
「あ、ああ……」
俺はルモンに椅子を引いてもらうと、そこに座る。
俺の視線の先の長テーブルには、三人の料理が置いてあり、俺から見えないように大きめの白い布で隠されていた。
ロザリアの話によれば審査は一人一人行うらしく、その時に初めて料理がお披露目されるとのこと。
だからそれまでは三人がどんな料理を作ったのか分からない仕様になっている。
「レイン様、審査のご準備はよろしいですか?」
全ての準備が整ったところで、ルモンは俺にそう聞いてきた。
俺は首を軽く縦に振ると、
「俺はいつでも大丈夫だ。始めてくれ」
「かしこまりました。では、これよりレイン様による審査に移りたいと思います
ルモンは三人を見渡し、誰がトップバッターを飾るかの選別を。
一人に目をつけ、ルモンは俺が座るテーブルに手を差し出すと、
「ではまずは……ロザリア様から、お願いできますか?」
「ええ、分かったわ」
料理をテーブルの方へと運ぶように指示を出す。
トップバッターはロザリアに決まった。
ロザリアは布を被せた自身の料理を俺の前に置く。
「うふふ、今回はレインくんの為にちょっと頑張っちゃった。自分で言うのもあれだけど、今回は結構な自自信作よ」
「ほう……それは楽しみだ」
「じゃあ、行くわよ。それっ!」
ロザリアは勢いよく布を剥ぐと、現れたのは大きな蓋。
その蓋も流れるように取ると、とうとう料理が姿を現した。
「おお、これはすごいな!」
蓋を取った途端、鼻に入ってくるいい匂い。
食欲をそそる香りと共に入ってきたのは美味しそうな肉料理。
どこからどう見ても美味しそうで目にも楽しい一品、なのだが見たことはない料理だった。
「見たことない料理だな……」
「ふふっ、これは私が今住んでいる地元の郷土料理なの。前にとある地元のお店で食べた時に感銘を受けてね。それからたくさん練習して、作れるようになったの」
「へぇ……」
元々料理スキルは高いロザリア。
だから大抵のものは作れるが、これは中々のものだった。
種類と焼き加減の異なるスライスされた肉と周りにはこれまた見たことのない野菜の数々。
かかっているソースも肉によって異なっており、まさに遊び心のある一品で何より料理に鮮やかさがある。
それでいてメインの肉の影が薄くなっていることもなく、ちょうどいい調和が取れているところも作り手の技能の高さがよく分かる。
「じゃあ、早速いただこう」
俺はフォークとナイフを持つと、一口。
ロザリアの料理を口に運ぶ。
「おお、こりゃ美味いな!」
「ほ、ホント!?」
「ああ。俺好みの味だ」
「良かったぁ……! 手間をかけて頑張って作った甲斐があったよ」
ロザリアは嬉しそうにニッコリと笑う。
これは何も文句のつけようがない。
味・見た目・遊び心、全てにおいて高レベルの一品だ。
料理っていうのは大抵空腹を満たすだけで満足してしまいことが多いが、ロザリアの料理は視覚的にも満足感を得ることができた。
控えめに言って流石だなと言った感じだ。
「ごちそうさま。とても美味しかったぞ」
気がつけば料理を全て平らげていた。
「機会があったら、また作ってあげるね」
「おう」
こうしてロザリアの審査タイムは終了した。
ちなみに結果は全員の審査が終わった後で、ということになっている。
だからこの時点ではまだ評価は下さない。
「次はシェリー様。テーブルの方へお料理を……」
「は、はい!」
ルモンの指示でシェリーは料理を持って前に出る。
次の審査はシェリーの料理らしい。
「あ、あの……! お、お手柔らかにお願いします……」
シェリーは俺の前に料理を置くと、緊張感漂う硬い表情でそう言った。