33.豪邸
何やらシノアたち三人がこれから勝負をするらしい。
勝負内容はまだ分からないが、どちらが女性としての魅力があるかどうかを決めるとのこと。
そして勝利者には俺とのデート権を獲得することができるらしい。
まだ俺は許可を出した覚えはないが、そんな俺の意向はガン無視で謎を極めた戦いが始まろうとしていた。
「……で、ここはどこだ?」
「私の別宅よ」
「別宅だと?」
高級レストランを出て次に向かったの王都の北端。
高級住宅街にどっしりと構える大きな屋敷だった。
「これ……本当にお前の屋敷なのか?」
「そうだよ。まぁ細かいことは気にせず中に入って」
ロザリアは門の扉の施錠を解除すると、スタスタと屋敷の敷地内へと入っていく。
俺たちもロザリアの後に続いて、豪勢な屋敷を見上げながら、歩いていく。
「す、すごいお屋敷ですね……」
「ロザリアさんってやっぱり”超”がつくほどの大金持ちなのでしょうか?」
シノアたちもあまりにも別格なその光景に目を奪われていた。
「実際、金は持っているんだろうな。レストランの事と言い、この屋敷と言い……」
昔はいかにも金持ちの家出身って感じの風貌ではなかった。
むしろ地味な感じで庶民的だった。
でも、待てよ。
よくよく考えてみると、俺はロザリアの家庭内事情についてを一切知らない。
ただ爺ちゃんの親戚の娘という肩書だけで俺は親しくしていた。
俺も特にロザリアのことについて聞くことはなかったし、向こうも向こうで自分のことを話すことはなかった。
だから俺はロザリアに関して最低限のことしか知らない。
もちろん、突然姿を消したことも謎のままだ。
俺たちはこれでもかというほどに広い噴水付きの庭を抜け、玄関の方へ。
そしてロザリアが玄関前まで歩いていくと、勝手に扉が開き、
「お帰りなさいませ、ロザリア様」
中から老執事一人とメイド三人が出て、俺たちを迎え入れてくれた。
ロザリアが来ることを予め知っていたのだろうか。
まさにロザリアが入ろうとするベストなタイミングで扉が開かれた。
「じいや、お客様です。丁重にお願いしますね」
「かしこまりました」
先頭に立つ老執事にロザリアは何かを耳打ちすると、俺たちの方へと振り返る。
「後はじいやに中を案内してもらって。私はちょっと着替えてくるから」
そういうとロザリアはタッタと奥の方へ歩いていった。
ロザリアを送り、老執事は俺たちの方を向く。
「ようこそ、お越しくださいました。ご紹介が遅れて申し訳ございます。私、この屋敷で使用人統括をさせていただいております、ルモンと申します」
「レイン・レイフォードだ。少しの間、世話になる」
「シノア・クラウレです。よろしくお願いします」
「シェリーと言います。この度はお世話になります!」
「よろしくお願いいたします。では早速ですが、客間へと案内させていただきます」
ルモンは「こちらです」と身振りを添え、俺たちを屋敷の奥へと誘導する。
その道中で散見された絵画や彫刻はどれも品としての価値が高そうで、下を見れば真紅のカーペット、上を見上げれば巨大なシャンデリアがあり、外部と同様に内部も次元の違いを思い知らされる造りとなっていた。
一体、ロザリアは何者なのだろうか。
そんな疑問を抱えつつも、俺たちはルモンの案内で客間へとやってきた。
「ロザリア様がご到着なされるまで、こちらでごゆっくりとお過ごしください。テーブルの上にお茶と茶菓子を用意させていただきましたので、よろしければ」
「案内感謝する」
「いえいえ。では、私は一度これにて……」
老執事は最後に部屋の扉の前で一礼すると、俺たちだけを残して退室していった。
「すごいです! このソファ物凄くふかふかです!」
「ん~! このお菓子凄くおいしい! どこで売ってるんだろ……」
部屋に入った途端、遠慮もせずに秒でくつろぎの時間を満喫する二人。
客間の内装は流石は外部の人間を招くための空間であるためか、綺麗にされており、細かなところに目を向けてみても汚れ一つない。
高い天井には大と小の青色のシャンデリアが吊るされており、庶民からすればあまりのゴージャスさに逆に落ち着かない空間となっていた。
だがそんなことなどおかまいなしに二人はバリバリとお菓子を食べながら、くつろいでいた。
豪邸よりも食ってか。
「レイン様もこっち来てくださいよ! このお菓子すっごくおいしいですよ」
もぐもぐと幸せそうに食べるシノア。
本当に食うことに関しては目がない。
「ああ、俺も休ませてもらうとしよう」
俺もソファに座り、ロザリアが来るまで腰を落ち着かせる。
すると、その時。
「ロザリアよ。中に入るわね」
コンコンと扉のノック音と共に。
済みきった高く通りの良い声が廊下から聞こえてきた。