30.ロザリア
「改めまして、ロザリアと申します。どうぞ宜しくお願いします」
場所は王都内のとあるレストランへと変わる。
ロザリアがわざわざ予約までしてくれたところだ。
「こ、こちらこそ。宜しくお願いします」
「宜しくお願いします!」
ペコリとお辞儀をするも、二人の顔には緊張があった。
それもそのはず、今俺たちがいるのは貴族街にある高級レストラン。
しかもその中のVIPルームという常人じゃ決して味わうことのできない場所にいるからだ。
内装は目がチカチカとするくらい輝かしい装飾品で彩られ、周りには複数人のウエイターが俺たちを囲んでいる。
中には黒装束を纏ったガタイの良い男たちもその中に混じっていた。
多分、要人護衛を専門とする冒険者か何かだろう。
「お代は全てこちらで負担させていただきますので、どうぞお好きなだけ召しあがってください」
「ほ、本当にいいんですか!?」
「ええ、構いませんよ」
「ほ、本当に好きなだけ食べてもいいんですか!?」
「もちろんですよ」
食の話になると真っ先に食いついたのはシェリーとシノア。
さっきまでの緊張はどこに行ったのかというほど、二人とも嬉しさで顔が緩みまくっている。
気が付けばメニューを凝視し、いち早く料理を頼み始めていた。
「レインくんもどうぞ。今日は私の奢りってことで」
「なんか悪いな」
「気にしないで。ゆっくり話したいことも色々あるし」
ニコニコと笑顔を見せるロザリア。
見た目は変わっても、その笑顔は昔のまま。
何故ここまでの財力があるのかという不明な点はあるが。
「それにしても、本当に久しいな。あれから全く連絡がなかったから気になっていたが、元気にしていたようで何よりだ」
「あら、気にしてくれてたの?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるロザリア。
何を期待しているのか、じーっとこっちの方を見てくる。
「まぁ、バッタリと会わなくなったからな。何かあったんじゃないかと思っていただけだ」
「ふぅ~ん……」
「な、なんだよ」
「別に~そんなクールなところも昔と変わらないなって」
「そ、そうか?」
「うん。でも逆に安心感があるから、私は好きだけどね」
そういうことを何の躊躇もなく言っているのがロザリアという女。
本気で言っているのか、お世辞なのか分からない。
「それで、レインくんは私を見てどう思った?」
「ど、どうしたいきなり……」
今度は自らの容姿についてどうだ問いてくる。
変化を言うなら、やはり容姿が変わったことが一番大きいと思うが……
「可愛くなった?」
と、俺が何かを口にする前に向こうが先に細かな内容を聞いてきた。
当然だが、自分でも昔と比べて美人になった自覚はあるらしい。
「ま、まぁ……可愛くなったん、じゃないか?」
「むぅ……なんで疑問形なのよ」
(と言ってもなぁ……)
どう相手に伝えればいいのか分からない。
特に異性が相手だと、それが顕著に表れる。
「あともう一つ言うなら驚いたってのはあるな」
「驚いた? なんで?」
「いや、容姿は変わっていても接し方とかは昔のままだったから」
「別に接し方は変わらないよ。変える必要なんてないし」
ごもっともである。
中には見た目が変わると、中身も変わる人もいるらしいがロザリアは違うみたいだ。
「まぁ、俺も昔のままのロザリアが一番接しやすいから、特に問題はない」
「あ、そう? ならよかった」
テーブルの向かい同士で弾む会話。
そんな俺たちをじーっと横から見つめる視線が話す度に強く感じられる。
「ど、どうした二人とも? そんなに目を鋭くさせて」
「流石は婚約者さん同士だな~って思いまして」
「将来を誓い合った間柄で仲も良いなんて羨ましいです!」
「お、お前らなぁ……」
まだそのネタを引っ張っていたのか。
さっきから何度も違うと言っているのに……
「あのな、俺たちは別に婚約者同士じゃない。ただの馴染みってだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「えぇぇぇ!? 私たちの関係ってそれだけなの? あんなに濃厚な15年を共に過ごしたというのに!?」
「「の、濃厚……!?」」
「お、おい! 何言ってんだお前は!」
このタイミングでさらに誤解を重複させるような謎発言がロザリアの口から飛び出す。
それを聞いた二人はもう興味深々。
熱い眼をこちらに向け、身体まで寄せてきた。
「れ、レインさん! の、濃厚なって……い、一体どんなことをしてきたんです!?」
「私もものすっごく気になります!」
迫りくる少女二人。
それを向かいの席で面白可笑しくロザリアは見ていた。
(あ、あの女……)
心の中であいつが今何を考えているのか想像がつく。
ガキの頃も良くからかってきたが、年齢と共にレベルが上がっている気がするな。
特にあのSっ気のある表情は昔のロザリアにはなかった顔だ。
「お、おいロザリア! 黙ってみていないで、何とかしてくれ!」
「ん~別にいいじゃない。そんなに可愛い女の子二人に迫られるなんて、滅多にないことだよ?」
「そういう問題じゃない! 早くしろ!」
「もう……分かったわよ」
ロザリアはふぅーと息を吐くと、二人を説得。
さっきまでの話は全部作り話だったと伝えた。
「つ、作り話だったんですね。良か……じゃなくて、残念です」
俯くシノア。
残念に思うにしては少し嬉しそうにしているのは気のせいだろうか。
良かったといいかけたような気もしたし。
「わたしはお二人ならお似合いだと思いますよ。ただ、レインさんの左隣で寝れる権利は渡しませんけど」
「お前は何を言っているんだ……」
なんかシェリーもこの短期間でシノアに似てきたところがある気がする。
それも良くない影響ばかりを受けて。
「あはは! どうやら危険視されちゃっているみたいだね」
「自業自得だ、まったく」
時折運ばれてきた料理も挟みながら俺たちは会話を進めていく。
そんな中で、俺は一つロザリアにある質問をしてみることに。
「ところでロザリア。お前は王都に何をしに来たんだ? それとも王都に住んでいるのか?」
「ううん。わたしの家は王都からさらに南端にいった小都市にあるからそこから来たの。アレに参加するためにね」
「アレ? それって……」
この時期に王都に来る理由。
それはもう一つしかない。
「まさか、剣舞祭か?」
聞くとロザリアは首を縦に振り、
「せいかーい! わたしは今年の剣舞祭に出場するためにここまで来たんだ!」
笑顔でそう言った。