25.二人からのお誘い
「ふぅ~ようやく座れます~」
「何とかいい宿が見つかってよかったですね! しかも二週間滞在可だなんて、願ったり叶ったりじゃないですか!」
「ですね~しかも最後の一部屋だったなんて、運がいいです」
ベッドに腰を掛け駄弁る二人の少女。
そこはとある宿の一室での会話。
俺たちはあの後、最後の一軒として中心街から大きく外れた小さな宿に入った。
そこで最後の一部屋が空いているとのことで、歓喜に満ちていたらところ、なんと二週間ほど滞在してもいいということに。
もちろん、不要なら早くチェックアウトはできるが、先延ばしになっても部屋は確実に確保できた。
シノアの言うとおり、俺たちにとっては願ったり叶ったりの状況が起きたのである。
「明日は朝からギルドに?」
「一応そのつもりだが……早いか?」
「わたしは大丈夫です」
「わたしもOKですよ」
早起きは別に構わないと。
「それにその方が観光する時間がいっぱい取れますし」
「そうですね! せっかく王都まで来て寝てばかりでは勿体ないですし!」
本命はそっちか。
二人ともよほど王都観光を楽しみにしているらしい。
特にシノアはさっきからずっとパンフレットのグルメ欄の所を見ているし。
「じゃあ、明日は朝食が済み次第ギルドへってことで。その後はまぁ……観光の時間としよう」
「「はーい!!」」
威勢の良い返事だ。
ま、俺も王都は一度来てみたかったところ。
今までも色んなところに足を運んだが、マジメに観光なんてしてこなかったからな。
たまにはそういうのも一興か。
そんなわけで俺たちはその後、宿のダイニングスペースで食事をし、部屋に戻ってきた。
で、次は風呂の時間に移っていくわけだが。
「レイン様、これからわたしたちお風呂に入るんですけど、一緒にどうですか?」
「ふ、風呂をか?」
突然なるお誘い。
そういうのもこの宿には各部屋にシャワーと浴槽が完備されており、風呂に入るのに部屋から出る必要がないのだ。
だがそうであってもいきなり風呂を共にしようだなんて……
「お、お前たちは羞恥というものがないのか? 言っておくが俺は男なんだぞ?」
言わなくても分かることだが、確認を含めての疑問。
だが二人は顔を合わせると、小首を傾げた。
「別にわたしたちはタオルを巻いて入るので大丈夫ですよ。それよりも、わたしはレイン様にご奉仕がしたいんです!」
「ご、ご奉仕……?」
「はい。弟子として師匠の背中を流すのは当然の責務ですので」
当然なのか、それは。
「わたしもレインさんに助けていただいたお礼をしたいです! レインさんが望むならわたしは何を見られても構いません!」
「お、おいおい……」
そりゃあ一人の女としてどうなんだ?
二人とも恩義を感じて言ってくれているのは凄く分かる。
でもそこまでしなくてもいいというか、限度があるというか。
「べ、別にそんな師匠だからとかお礼だからとかで気にしなくてもいいんだぞ? 気遣ってくれるのは嬉しいが、そこまで無理して――」
「無理なんかしてません!」「無理なんかじゃないです!」
「うおっっ!?」
話の最中に二人から大声で遮られる俺の言い分。
その勢いに乗じて二人は俺に迫ってきながら、
「わ、わたしは、その……むしろレイン様と入り……た……いというか。そ、そんな感じなんです!」
どんな感じなんだそれは。
というか趣旨がガラッと変わっているような。
「わ、わたしもレインさんとお風呂に入りたいです! そういえば誰かが前に言ってました。人と親密度を上げるには”はだかのつきあい”? というのが一番だと!」
どこからそんなことを……。
しかもシェリーはなんの躊躇いもなく直球ときた。
「だ、だから。れ、レイン様! その……わ、わたしは全然構いませんので、ど、どうか一緒に……」
シノアは頬を真っ赤に染め、太腿をスリスリとさせ、恥ずかしそうに身体をくねらせる。
というか、いつ間にかお願いに変わっているのは何故だろうか?
二人の目線はじっとこちらに向けられる。
どうやら答え待っているようだ。
正直に言うとあまり気は乗らない。
でも二人のここまで懇願してくるのを無碍にもしたくない。
別に普通に風呂を共にするだけでいいんだ。
いつも通りにしていれば、それ以上があるわけでもない。
ならば、ここは二人の願いに乗ってあげる方がいいだろう。
一緒に旅をする上でコミュニケーションも必要だしな。
「分かった。俺も風呂に入ろう」
そう決断を下すと、二人はニコッと嬉しそうな笑みを零す。
こうして。
俺はよく分からない誘いを受けて、少女二人と風呂を共にすることになってしまった。