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23/66

23.道中


「今日の夜までには向こうに着くみたいだな」


「王都入りしたらすぐに宿を探さないとですね……」


「な、なんかやっとの王都に行くんだと思うと、少し緊張します……」

 

 俺たち三人は馬車に揺られていた。

 マスターが教えてくれた通り、乗り場の5番停車所から乗車し、数十分前にアルズールを発ったばかりだった。


「向こうに着いたら、そのままにギルドに行くんですか?」


「いや、時間的に宿が先だろう。マスターも言っていた通り、祭典が近いみたいだからな」


「剣舞祭……でしたっけ?」


 マスターたちの話によれば一週間後に大きな祭りが王都で行われるとのこと。

 もう祭りのために現地入りしている観光客もいるらしく、時間が経てば経つほど宿の確保が難しくなってくる。


 今の内に長期滞在できる宿を探さないいけない。


「剣舞祭ですかぁ……一体どんなお祭りなんでしょうか」


「グルメとかグルメとかグルメがいっぱいのお祭りなんでしょう!」


「グルメしかないじゃないか……」

 

 シノアは王国出身の人間だが、この祭りを知ったのは初めてらしい。

 本人曰く、家庭の事情であまり世間を知らずに生きてきたとのこと。


 ならなぜこんな大食漢になったのか。

 もちろん、そんなことは聞くつもりはないが。


「どちらにせよ、先に宿の確保だ。ギルドに行くのは明日にするとしよう」


「はい!」「はい」


 大まかな予定を決め、それから馬車で揺られること一時間。


 流石に暇になってきたのか、シノアが唐突にシェリーの方を向いた。


「そう言えば、シェリーちゃんって耳はあるけど尻尾がないよね?」


 突然と放たれた質問にシェリーは答える。


「いえ、しっかり尻尾もありますよ~」


 と言ってシェリーの背後からにょきにょきっと細い何かが現れる。

 

「そ、それって……尻尾? どこから出してきたの!?」


「普通にズボンの中からですよ。尻尾は耳と違って隠すのが大変なので困ってます」


 と言って長々とした尻尾を手に取る。

 

 尻尾と言えば人族にはない獣人族の特徴だ。

 見られたら批判の目を浴びるのは当然のこと。


 やはり尻尾は耳と違って長いのでどう隠すかが悩みの種らしい。


「ねぇ、シェリーちゃん」


「は、はい。なんでしょう?」


 シノアの視線がシェリーの手に収まる尻尾へと向けられる。


 あ、もしかしてこれは……


「えっと、その……シェリーちゃんさえよければの話なんだけど」

 

 軽い前置きを添えつつ。


「し、尻尾を触らせてくれないかな?」


 ああ、やっぱり。

 というかさっきから物欲しそうに見つめていたから、そうなのかなとは思ったが。


「別に構いませんよ。どうぞ~」


 対してシェリーの方は呆気なく許可を出す。

 それを聞いた途端、シノアは飛びつくようにシェリーの尻尾に手を触れると。


「う、うわぁぁ……やわらか~い……」


 相当触り心地がいいのだろう。

 幸せそうな顔でシェリーの尻尾をぷにぷにと触っている。


「レインさんも触ってもいいですよ。中には尻尾を触られるのが嫌がる獣人族の人もいますが、わたしは全然平気なので」


「い、いや……俺は遠慮させてもらう」


「え~~! 勿体ないですよ! こんな柔らかくて暖かくて触り心地がいいものなんてありませんよ!」


 とは言ってもな。

 俺はシノアと違ってワケが違う。


 シェリーが良いと言っても男が女体にべたべたと触れに行くのはいささかどうかと思ってしまうのだ。


「しぇ、シェリーちゃん。あの……これも良ければなんだけど……」


 またもシノアからシェリーへご要望が。

 もう大体察しはついているが。


「み、耳も触ってもいい……かな?」


「み、耳もですか!?」


 今度はシェリーのトーンが大きく変わった。

 

 どうやら尻尾よりも耳を触られることの方が抵抗があるみたいで、モジモジしながら悩んでいる。


 だがすぐに首を縦に静かに振ると、


「わ、分かりました。いい……ですよ」


 と言ってシェリーはローブを脱ぎ、これもまた触り心地が良さそうな耳を露出させる。

 

「で、では……」


 何か未知のものでも触るが如く、シノアはシェリーの耳に手を当てる。

 

 と。


「ふ、ふわぁぁ……な、なにこの感触……」

 

 反応から見て尻尾よりも触り心地がいいらしい。

 さっきよりも幸せな感じが言葉を通さなくても感覚で伝わって来る。


「う、うぅぅ……シノアさん。もうちょっと優しく……」


「あ、ご、ごめん! 痛かった?」


「い、いえ……でもそこは一応その……敏感なところなので。できれば力を入れないようにして……」


 頬を赤く染め、もぞもぞと落ち着かない太ももから恥ずかしさの度合いが分かる。

 

「あっ……シノアさんっ……そこ……は……」


 変な色声が俺の耳元に入って来る。

 なんかよく分からないが、あまりよろしくないものを見ている気がしてならなかった。


 俺も触ってみるかと言われたが、もちろん断った。


 結局、この謎の御触り会は一時間ほど続き。


 触られすぎたシェリーはぐったりとしながらもそのままぐっすりと。

 シノアもシェリーの後に続くように眠りについた。


 そうして俺は一人取り残されたわけだが……


「……向こうに着くまで剣でも磨いておくか」


 二人と同様に寝るのではなく、剣を磨くことに。

 

 こうして。

 グダグダとした時間を過ごしながら、特に何も事件が起きることなく、俺たち三人は無事王都入りを果たしたのであった。

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