22.王都へ
「すまない。世話になったな」
「ありがとうございました!」
「マスターさん、ありがとう!」
早朝の宿の玄関先にて。
俺たちは出発前にマスターとマリィに礼を言っていた。
俺たちはこれから馬車に乗って王都へと行く。
今から20分後に出発する便に乗って。
「これから王都のギルドに行くのよね?」
「ああ。ここから大体どれくらいかかるんだ?」
「一日もかからないわよ。途中でトラブルとかが起きない限りね」
「一日もかからない? だがシノアは……」
歩きでいくと5日はかかると言っていた。
というのなら馬車で行ったとしても最低3日くらいはかかるだろう。
俺はシノアに視線を注ぐ。
その視線をシノアは汲み取ったのか、少し気まずそうに目線を反らした。
「あ、ああ……えっと……その……す、すみません! 当分行ってなかったので憶測で答えていました!」
白状するシノア。
彼女曰く最後に王都に足を踏み入れたのは当分前とのこと。
フォルンの街に来る前は王都かは反対側に位置する場所から来たらしい。
「ほ、本当にごめんなさい! 少しでもレイン様のお役に立ちたくて、つい……」
「いや、まぁそれはいいんだが」
結局のところ、予定より早く着くことになったんだからな。
まったく損はしていない。
むしろ得をしたくらいだ。
「まぁ、確実に半日はかかるから、その間は暇な時間になるわね。ちなみに王都行きの馬車乗り場は5番停車所だから気をつけて。他のに乗ると変なところに行っちゃうわよ」
「5番停車所だな。了解した」
これはいい情報だ。
アルズールの馬車乗り場は相当広いらしいからな。
これで迷うことは確実になくなったわけだ。
「シェリーちゃん、これマスターから」
「な、何ですかこれ……」
「うふふ、いいから開けてみて」
マリィの手からシェリー目当ての小袋が手渡される。
少しもっこりとしている辺り、結構色々なものが入っているみたいで。
「こ、これは……」
「短剣よ。一応護身用にと思って」
袋に手を突っ込み、まず現れたのは一本の短剣。
刃を見る限り、新品でギラギラとした金属光沢があった。
「まだ入っているから見てみて」
「は、はい!」
シェリーは再び袋の中に手を突っ込むと、次に出てきたのは色とりどりのカラーボールだった。
「マスターさん、これは何です?」
「ふふふ。それはサモンボールよ」
「さ、さもんぼーる?」
「一言で言えば簡易召喚魔道具。地面に叩きつけると、使い魔が現れて召喚主を守ってくれるのよ」
「そ、そんな魔道具が……」
シノアは目を丸くしてカラーボールを見つめている。
俺もシノアと同様に初耳だった。
召喚獣を出せる魔道具があるなんて……と。
「ほ、本当にこれをわたしに……?」
「ええ。また何か事件にあった時に使ってほしいわ。何もないよりは心強いでしょ?」
それはマスターの獣人族への気遣いが全面的に溢れ出た贈り物だった。
「あ、ありがとうマスターさん!」
シェリーはマスターに笑顔で礼を返す。
マスターもニコッと笑みを浮かべる。
「いいのよ。何かあったら使ってちょうだいね」
「はい! でも、なぜこんなものをマスターさんが?」
シェリーの素朴な疑問。
それはシノアと俺も聞きたかったことだった。
「うふふ、実はあたしも昔は冒険者をやっていた時があってね。方々に知り合いがいる。魔道具職人とか鍛冶職人とか」
「「そ、そうだったんですか!?」」
ハモるシェリーとシノア。
俺はそこまで驚きはしていなかった。
何となくそんな気はしていたしな。
「昔のマスターはそれはそれは強い冒険者さんだったらしいです。以前、マスターの知人の方を接客したことがあるのですが、その時にしきりに言ってました。何でも当時は向かうところ敵なしの最強冒険者だったとか」
「す、すごいですマスターさん!」
「いや~ね~昔の話よ。昔の話」
少し照れながら手をパタパタとさせるマスター。
やはりあの時の謎の圧は冒険者時代の名残だったわけだ。
確かに並ならぬ何かを感じたからな。
と、そんな会話をしている内に馬車乗り場に向かわなければならない時間になっていた。
「シェリー、そろそろ行くぞ」
「は、はい! それじゃあマスターさん、マリィさん。短い間でしたが、ありがとうございました!」
「また遊びに来てね~」
「お元気で」
シェリーは二人と別れの挨拶を交わし、俺たち二人もそれに合わせて礼をした。
「よし、じゃあ行くか」
「「はい!」」
こうして俺たち三人はシェリーとマスターに見送られながら。
アルズールの街を後にするのであった。