21.その夜(後)
今日この日、俺は初めて異性とベッドを共にする。
別にこの一言に特別は意味はない。
だが二人にとっては何か重要な意味が含まれているようだったのである。
「じゃあ、早速寝る配置を決めましょう!」
「はい!」
「あ、ああ……」
正直、配置などどうでもいいような気がするのだが。
実際、寝る場所は同じなんだし……
でも二人にとってはそうはいかないみたいで。
「まずはレイン様の横を誰が寝るかです! ここはやっぱり年長者のわたしが隣に寝るのがベターだと思いますが、レイン様はどう思いますか?」
「ど、どうって言われても……」
答えようがない。
ぶっちゃけ、俺からしたらどうでもいいことなのだから。
「し、シノアさんズルいですよ! わたしもレイン様のお隣で寝たいです!」
と、呆れ顔でいる中、シェリーの訴えが部屋中にこだまする。
どうやらさっきのシノアの意見に反論があるみたいだ。
だがすぐにシノアがその意見に口を出す。
「しぇ、シェリーちゃんはまだ早いです! それにもし何かあった時のためのことを考えたら……」
「お、おい……俺は何もやらんぞ」
「で、でもそれだったらシノアさんも同じじゃないですか!」
「わ、わたしはいいの。こう見えてもかなりガードは堅いから」
聞いてないし……
というか今は一体、何の議論をしているんだ?
ただ寝る配置を決めるってことだったよな?
(なんでここまで激論に……)
「と、とにかく! わたしがレイン様の隣で寝ます!」
「わ、わたしがレインさんと寝るんです!」
なんかよく分からない言い合いが始まってしまった。
ただどっちが俺の隣で寝るかというくだらない論争で。
「おい二人とも……もう夜も遅いし、騒ぐのは――」
「レイン様!」「レインさん!」
「な、なんだ?」
同時に俺の名を呼び振り向く二人の少女。
その眼は俺に何かを求めているような感じで、二人とも鋭い目つきでこちらを見てくる。
「れ、レイン様はわたしとシェリーちゃん、どちらの隣で寝たいですか?」
「わ、わたしも聞きたいです!」
ああ、お前たちが求めていたのはそういうことか。
「……って、いやいや、そんなことを俺に聞くな」
返答に困るというか、俺としては配置とか関係なしに寝ればいいと思う。
なぜこうも隣にこだわるのか、二人の心情が全く見えない。
「でも、このままじゃ話に決着がつきません! ここはレイン様が直々にどちらを隣に据えるかを選んでください!」
「お、おいおい……」
ここは娼婦館じゃないんだぞ?
でも、この様子じゃ答えるまで引き下がらない感じ。
二人の目は一切曇っておらず、真剣そのものだった。
(はぁ……どうしたものか)
どちらを選んでも片方が傷つく未来しか見えない。
と、なれば……選択肢は一つか。
「なら、二人とも俺の隣に来ればいい」
「「えっ……?」」
キョトンする二人。
俺はベッドに横たわると、両端をポンポンと叩き、二人を誘導する。
「あ、そういうことですね!」
最初にこの動作に気付いたのはシェリーだった。
シェリーは嬉しそうにぴょんとベッドに乗ると、俺に右隣に身体を落ち着かせる。
「じゃあ、左はシノアだな」
「そ、そういうこと……ですか」
シノアも気づいたようでベッドにそっと乗ると俺の左隣に横たわった。
「よし、これで二人とも俺の隣で寝れる。これで文句はないな?」
「わ、わたしはこれでも十分です!」
「わ、わたしも……大丈夫です」
「じゃあ、これでさっきまでの議論は手打ちってことで大丈夫だな?」
「は、はい」
「大丈夫です」
「よし、じゃあ二人とも仲直りするんだ。分かったな?」
少し真剣な顔と声色で二人にそう告げると、双方ともコクリと小さく頷く。
二人は顔を合わせると、すぐに謝罪し合った。
「ご、ごめんねシェリーちゃん。わたし、ついムキになっちゃって……」
「わ、わたしこそすみませんでした! なんかこう……高まる気持ちが収まらなくて……」
よしよし。
仲直りはできたみたいだな。
なら、もう後することは一つだけだ。
「もう寝るぞ、二人とも。言っておくが、明日寝坊したら置いていくからな」
「えっ!? そ、それは嫌です! すぐに寝ましょう!」
「は、はい~~~!」
俺が横たわるベッドに両端に二人は身体を横にし、落ち着かせる。
デカいベッドの真ん中に男一人。
その両横には華という男であるなら誰もが羨む状況だが、俺はその逆。
自分で言ってといてあれだが正直なところ、無茶苦茶寝にくい。
「お、おい……そんなにくっつくな。寝にくいだろう」
「別にいいじゃないですか~減るもんじゃないですし」
「わ、わたしは猫人族なので誰かと身を寄せ合って寝る方が落ち着くんです!」
「……」
身を寄せ合うというか二人ともガッチリ俺の腕を掴んでいるんだが。
しかも振り払おうとしてもしっかりと固定されていて動かない。
二人とも見た目以上に力が強くて驚きである。
どうやらもう手遅れのようだ。
(お、落ち着かん……)
しばらくして二人は幸せそうな顔してぐっすり。
夢の世界に入って行った。
だがその傍ら、俺は起床時間1時間前まで眠れなかったのは後の二人は知る由もない。