20.その夜(前)
夕食を食べ、入浴等も済ませ、街全体がおやすみモードに入った頃。
俺たちはというと……
「わたしがレイン様の隣で寝るの!」
「いえ、わたしがレインさんの隣で寝ます!」
「お、おいお前ら……」
シェリーとシノアが言い争っていた。
「しぇ、シェリーちゃんにはまだ早いです!」
「早いって何がですか!」
「え? え、えーっとそれは……その……」
急に頬を染めてモジモジするシノア。
一体何を考えているのやら……
「と、とにかく俺はこっちで寝るから。二人は――」
「「それだけは嫌です!!」」
「……!」
勢いで否定する二人。
その眼はかなり必死で譲れない何かがあると言わんばかりのものだった。
(はぁ……一体何なんだ?)
こうなったのはざっと数十分前に遡る。
♦
「明日も早いし、そろそろ床につくとしようか」
「そうですね」
「分かりました!」
……と、言いたい所なんだが問題があった。
というかさっきからずっと気になっていたのだが……
(何故、こんなにも広々とした部屋にベッドが一つしかないのか……)
大きさ的には数人が横たわることができるほどに面積が大きいキングサイズのベッド。
とはいえ、流石に一緒に寝るわけにもいかない。
それに二人も男と寝床を共にするなんて快く思わないはずだ。
世間知らずの俺でもそれくらいは分かっていた。
「じゃあ、俺はそこで毛布を敷いてねるから、二人は好きにベッドを使ってくれて構わない」
俺はベッドのすぐ横の地面を指さしながらそう言った。
その方が平和かつ二人の為にもなる判断だろうと、そう思っていた。
だがその話を聞くなり、首を傾げる者が一人いる。
「え、レイン様はベッドでご就寝なさらないのですか?」
口を開いたのはシノアだった。
シノアはさも不思議そうにこちらを見ながらそう言ってくる。
「い、いや……流石に男と寝床を共にするのは嫌だろう?」
シノアは夕食の前にも皆で一緒に寝ることについて何か言っていたしな。
その意味がさっきようやく分かったところだった。
「べ、別にわたしは気にしませんよ! む、むしろレイン様を冷たい地べたで寝かせるなんてできません!」
動揺を隠せていないシノア。
対してシェリーはいつもと変わらず、
「そ、そうですよレインさん! わたしも全然気にしませんよ! むしろみんなで一緒に寝たいですし!」
ニパーっとした笑顔でそう言ってくる。
シェリーはそういうことに抵抗はないのだろうか?
「わ、わたしもしぇシェリーちゃんとおお同じですよ! 全然、だ、大丈夫です!」
どうやらシノアは割と無理をしている節があるみたい。
気を遣っているような感じが見受けられた。
「別に無理しなくてもいいぞ。俺はベッドだろうが、地面だろうがどこでも寝れるからな」
だいぶ前。
俺は師匠の鍛錬で近くの森に一か月近く暮らしたことがある。
何から何まで自分で作り、生きるためにはどうするべきかという大切さを身を持って学んだ。
その影響もあるからか、俺は基本的にどこでも寝れることができるスキルを身に着けた。
すぐそこの街路で寝ろと命令されても、構わず寝れる自信がある。
それほど寝床には柔軟なものを持っていた。
「そ、そういう問題じゃありません! その……みんなで寝ることに意味があるというか……」
「意味……?」
「そうですよ! これも親睦を深めるコミュニケーションの内の一つです!」
「そういうものなのか?」
「そういうものです!」
なるほど。寝床を共にするのも親睦を深めるためのコミュニケーションの一つか。
そうであるなら、これ以上否定するのは野暮というもの。
「分かった。じゃあ、皆で寝るとしよう」
「はい!」
「は、はい!」
ということで決まった、のはいいのだが問題はここから先だった。
そしてこの後、ひょんなことで二人の論争が始まろうとはこの時の俺は思ってもいなかったのである。