17.一緒に!?
「紹介するわ。この子はこのお店の看板娘、マリィちゃんよ~」
「マリィです。いらっしゃいませ、お客様」
その華美な金髪を揺らし、丁寧に一礼。
狐人と言ってもシェリー同様に耳と太くてふわふわしてそうな尻尾を隠せば、人族と相違ない。
おまけにかなり美少女だ。
「マリィちゃん。早速だけどシェリーちゃんたちをお部屋に案内してもらえないかしら?」
「はい、分かりましたマスター」
「んじゃ、後はマリィちゃんの案内に従って頂戴ね。あたしはこれから夕ご飯の買い出しに行ってくるから」
「マスター、今日は早めに帰ってきてくださいよ?」
「分かってるわよ~それじゃ行ってくるわねぇ~」
マスターはスキップしながら、店の外へ。
というかあの格好のまま行くのか……?
正直、滅茶苦茶目立つだろう。
フリルのついたスカートを履いたおっさんなんて……。
「な、なんか物凄くインパクトのあるマスターですね……」
「あ、ああ……そうだな」
というか俺はさっきの圧が気になる。
只者ではない感じがしたからな。
「それでは皆様、これからお部屋にご案内いたします」
というわけで俺たちはマリィの案内で今日泊まる部屋へ。
すると道中、シノアが何かに気付いたようで……
「あ、あの……マリィさん」
「はい、なんでしょうか?」
「ここの宿の従業員さんってみんな獣人族の方なんですか? さっきからよく見かけるなって思いまして」
シノアの疑問は俺も思っていた。
さっきから何人か従業員とすれ違っているが、確かに皆獣人族の者ばかり。
しかも何にも隠すことなく、ありのままの姿で働いていたのだ。
「気になりますか?」
「い、いえ……どうしてかなと思ったので。あ、もし何かご事情があるのでしたら無理に言わなくても……」
「いえ、大丈夫ですよ。人族の方で泊まられる方々はみな同じ質問をされますから」
どうやら割とベタな質問らしい。
マリィは何の躊躇もなく、その事実を語り始めた。
「結論から言いますと、ここの従業員は全員獣人族の方です。マスターのレクトさんを除いてですが」
「なぜマスターさんだけ人族なんですか? 何か理由でも……」
「もちろん理由はあります。というのも私たち獣人族に働く場所を提供してくれたのが他でもないマスターなんです」
マリィの話によれば、マスターは差別が横行するこの街で被害に遭う獣人族の子を雇っては、衣食住を提供し、救っているとのこと。
マリィもその中の一人で特に狐人という獣人族の中でもレアな種族からか、競売にかけられそうになり、絶体絶命だったところでマスターに保護されたらしい。
「マスターは私たち獣人族に対して物凄く寛容な方なんです。私からすればマスターは危機から救ってくれた恩人なんです」
「そういうことだったんですね……」
「この宿も元々は獣人族の方が気兼ねなく泊まれるように作ったらしいです。獣人族の方にも安らぎの場を作りたいって」
「良いマスターだな」
「はい。とても素晴らしいお方です。まぁ……見た目のインパクトは強いですが……」
あ、それは思うのか。
まぁ、あの容姿にあの格好は何も知らなければただの女装趣味の変態にしか映らない。
人はみかけによらないとはよく言ったものだ。
「こちらになります。三人様ということでお部屋は少し大きめになります」
部屋に到着。
鍵を開け、中に入ると、三人だけではもったいないほど広々とした空間が広がっていた。
部屋の真ん中にはキングサイズのベッドが置いてあり、元バーを改装しただけあってお洒落な内装になっていた。
そしてその後、注意事項とかその他諸々聞くと……
「それではお夕飯のお時間までお部屋でお待ちください。外出の際には私に一言言ってもらえばOKですので」
「ご丁寧にありがとう」
「ありがとうございます」
「ありがとう、マリィさん!」
「いえいえ、それではごゆっくり……」
マリィは再度一礼すると、部屋の外へ。
そして部屋に残された俺たち。
「さて、とりあえず荷物を置くとしよう」
「はい。……って、あれ?」
「どうした?」
「あの……さっきマリィさん三人様と言いましたよね?」
「言ってましたよ~」
「ってことはその……つまり……みんな一緒のベッドで今日は寝るということで?」
「そのようだな……」
それを聞くと何を思ったのかシノアは顔を真っ赤にする。
「お、おいシノア。顔が赤いぞ? 大丈夫か?」
「へ……? あ、は、はい! ももも、問題ないですよ! 一夜くらい!」
「問題……? 一夜?」
「あーーー何でもないですっ! さぁ、ささっと荷物を置いちゃいましょ!」
「……?」
何を言っているのかさっぱりだが、まぁいい。
そんなわけで俺たちは荷物を置くと、夕食まで部屋で寛ぐことになった。