15.宿探し
あれから時間は進み、夕暮れ時。
酒場を出た時にはもう外は暗く、街灯並ぶ街の夜景が目に入ってきた。
「すっかり夜になっちゃいましたね……」
「この分だと今日はここで宿を取る必要があるな」
「ご、ごめんなさい……私が引き留めてしまったばかりに……」
「気にするな。そこまで急ぎの旅じゃないしな」
別に今からでも王都へは行ける。
このアルズールからは夜行馬車が出ているため、時間を気にする必要はない。
が、そこまで急ぐ必要もないため今日はここで宿を取ることに。
朝からずっと動きっぱなしというのもあるし、それに……
「眠いのか?」
「えっ? ああ、いえ……少し疲労が来てるみたいで」
シノアもお疲れなようだしな。
「宿を取ると言っても、この時間から取れますかね?」
「厳しいだろうな。特にここは中継都市だ。どこの宿屋も商売繁盛だろう」
「あ、それなら私いい宿を知ってますよ」
「はい。実は私、このアルズールにもう一週間ほど滞在しているんです」
「一週間も? 何故だ?」
「その……王都まで行く勇気がなかったといいますか、もっと事前調べしてからの方がいいかなって思っていたので」
シェリーは続ける。
「それで今日、本当は王都へ出発しようと思っていたんです。でもその途中で……」
「例の集団に襲われた……ということですね?」
「は、はい……」
シェリーはコクリと頷いた。
確かにシェリーと最初に会った時は来たばかりにしてはこの街に詳しいなという印象を受けた。
さっきの酒場もシェリーが案内してくれたし。
「じゃあ、その宿はここに滞在している間使っていたところだということか?」
「はい、そうです。それに結構分かりにくいところにあるのでこの街の宿の中では穴場だってマスターさんが言ってました」
マスター?
宿屋の主人のことだろうか?
「なら、そこに泊めてもらうことにしよう。シノアもそれでいいか?」
「はい、大丈夫です!」
「じゃあ、早速その宿屋に案内してほしい。頼めるか、シェリー?」
「お任せください!」
……というわけで俺たちはシェリーの案内で宿屋を目指すのであった。
♦
一方その頃、アルズールにあるとある酒場ではこんな会話が繰り広げられていた。
「アニキ、いよいよこのシーズンがやってきたな!」
「そうだね。まだ始まってもいないのにワクワクしているよ」
「今年も目指すは”優勝”でっか?」
「もちろん。そのために僕は今まで日々の厳しい鍛錬に耐え忍んできたんだからね」
金髪のイケメンと短髪の男の会話。
イケメンはジョッキ一杯に注がれたビールを一口含むと、そう言った。
「でも、アニキなら修行なんてしなくても優勝なんて余裕だと思うけどな。去年の決勝戦なんか酷すぎて見てられなかったぜ」
「う~ん、どうだろう。でも、今年は僕をアッとさせてくれる強者が現れるような……そんな気がするんだ」
「まさか! アニキにそう思わせる奴なんてこの世にはいないさ」
「いや、そうとも限らないよ。世界は広いからね。僕より強い者がいてもおかしくはない」
「信じられねぇな。アニキより強いやつなんて」
短髪の男はジョッキに入ったビールを一気に飲み干すと「あぁ~」とオヤジ臭い声を出す。
「でも、何となくそう思うんだ。もちろん確証はないけどね」
「強者の勘ってやつかいな?」
「そんなたいそうなもんじゃないよ。半分は願望みたいなものだから」
イケメンも続けてジョッキの中のビールを一気飲みすると、カウンターに代金をそっと置いた。
「そろそろ行こうか。明日は朝一番の馬車に乗って出来るだけ早く王都入りしないといけないからね」
「うっす」
男も代金をドンと置くと、イケメンの後に続いて酒場を後にする。
そして酒場を出た後、男は前を歩く”アニキ”の後ろ姿を見ながら……。
「ふん、アニキよりも強い奴なんているわけない。だってこの人は、あの国王陛下から直々に冒険者勲章を受け賜わった大陸最強の冒険者……」
剣聖グロウ・フェイカス様なのだから。