14.少女の夢
俺たちはひょんなことからシェリーという猫人の少女と出会った。
そして場所は地下にあるとある酒場へと移る。
この酒場はどうやら獣人族の者も出入りOKらしく、シェリーもフードを取っていた。
「改めまして、シェリーと申します。出身は獣皇国アルカナにあるリフというところからやってきました。どうぞ宜しくお願いします」
「アルカナって、あの獣皇とかいう者が統治している獣人族の国か?」
「はい、そうです!」
獣皇国アルカナ。
その名の通り、獣皇と呼ばれる獣の首領が統治している獣人族だけの国家。
とは言っても多文化・多人種の受け入れがある王国と同様に、少数ではあるが、その国に住んでいる人間族もいるらしい。
「それで、シェリーは冒険者になるためにわざわざ国を出て王国まで来たと?」
「そうです! 昔から冒険者になるのが夢で、もしなれたら世界中を旅しながらモンスターや魔物を狩って沢山の人を救いたいと思っています!」
「なるほどな。素晴らしい夢じゃないか。でも、アルカナにも似たような職があったような気がするが……」
「確かにアルカナにもハンターという職業がありますけど……」
「何か問題が?」
俺の質問にシェリーは力なく頷いた。
「はい。アルカナでハンターになるには身分が必要なんです」
「身分?」
「もしかして、貴族みたいな上級国民しかなれない……とかですか?」
「その通りです、シノアさん。元々アルカナでハンターをするには貴族という絶対的な身分が必要だったんです。今では制度が変わって緩和はされましたが、今でも平民……特にお国への上納金を少額しか納められない貧困層には到底なれるような職業じゃないんです。でもそんな時、私は人間族が統治する国にある冒険者制度というのを知ったんです」
「それで、冒険者になりたいと思ったわけか」
「はい。それにこれはハンターもそうですが、冒険者はかなりお金を稼げる職業だとも聞きました。私の家は貧乏なのでいつか家族に恩返しをしたいなっていうのもあって……」
「うぅぅぅ……そうだったんだねシェリーちゃん。そんな想いを持って危険を顧みず単身でここまで来るなんて……」
その話を聞いて感動したのか隣のシノアが泣きながら、震えた声でそう言う。
確かに立派なことだ。
自分の為だけでなく、人の為にもなりたいから冒険者になる。
俺はそんなことなど考えもしなかった。
自分を高めるためになったようなものだからな。
「レイン様。わたし、シェリーちゃんの力になってあげたいです!」
突然。
シノアは口を開くと、俺にそう言ってくる。
「力に……とは、具体的に何をするのだ?」
「わたしたちが冒険者について教えてあげるんです。結構最初の方って右も左も分からないことが多いじゃないですか」
「まぁ……受付嬢に口頭で説明されるだけだからな」
俺も最初は何も分からなかった。
頼れる仲間もいなかったので、何とか一人で学習したが、確かに慣れるまで面倒だったのを覚えている。
「どうでしょうレイン様?」
「俺は構わない。どちらにせよ、王都のギルドには行かないといけないしな」
「ほ、本当にいいのですか? ご迷惑にならないですか?」
「問題ない。これも何かの縁だ」
「そうです! それに、一人だと困ることがいっぱいあると思います。現にぼっちだったわたしがそうでしたから!」
胸を張り、自慢げに言うシノア。
別に自慢できるような事ではない気がするが……
あ、俺も人のこと言えないな。
「ま、そういうことだ。だからあまり深く考えなくていい」
「レインさん、シノアさん……あ、ありがとうございます!」
と、これからの方針が決まったところでテーブルの上に続々と料理が並べられていく。
どれもこの街の周辺で採れた特産物で作られた料理らしい。
「さぁ、皆さん! どうぞお食べになってください。御代は全部私が持ちます!」
「い、いいのか?」
「もちろんです! 今の私にはこれくらいでしか恩を返すことができないので逆に申し訳ないくらいです」
「いや、気持ちだけでも十分だ。ありがとうな、シェリー」
俺はシェリーの頭にそっと手を乗せると、優しく撫でる。
シェリーは少し頬を赤く染めると、嬉しそうに目を瞑った。
だがそれを見ていたシノアは突然、勢いよく身を乗り出すと、
「あ、ズルいです! レイン様、わたしも撫でてください!」
「は、はぁ? な、何故だ」
「い、いや……べ、別に深い理由は……ないですが」
「……?」
シノアは違う方向を向くとどこか不満そうに頬を膨らませる。
よく分からないが、怒らせてしまったのか?
とまぁ……そんなわけで、俺たちはシェリーと共に王都へ向かうことになったのだった。