13.その少女は……
ブックマーク1000件越え、ありがとうございます!
「レイン様、その子は……」
「ショックで気絶しているだけだ。怪我の治療はしたから、もう心配はいらない」
「良かった……」
俺とシノアは襲われていた少女を連れて近くにあった人気のない小さな広場にいた。
先ほどの連中はなんとこの街で頻繁に起きている暴行事件の常習犯だったらしく、問う間もなく問答無用で憲兵たちに連れていかれた。
「それにしても、この子はなぜあんな目に……?」
「この子は猫人なんだ」
「猫人って……あの獣人族の?」
先ほど治療している際にローブからチラッと見えていた猫耳。
人の姿をしていながら猫のような耳を持っている種族と言えば猫人族しかいない。
さっきの暴行は獣人に対する差別によって生まれたものだったわけだ。
ちなみにこの人気のない場所を選んだのも彼女が人の目に触れないためでもあった。
「だからこんなローブを……」
「猫人族は耳さえ隠せば人間族とは見分けがつかないほど似ているからな。だが、まさかあそこまで獣人に対する差別が強いとはな……」
「仕方ないのかもしれません。昔は殺し合いをしていた間柄だったのですから。時代こそ変わっても歴史認識による偏見は絶えないのだと思います」
かつての時代の名残がまだあるということか。
それにしても非常に胸の痛む話だ。
まだこんなにも幼い子でさえも、いい歳をした人間の大人に暴力を振るわれるのだから。
「ん、んん……」
「あっ、レイン様! どうやら目を覚ましたみたいですよ!」
シノアの声を聞き、振り向くと、猫人の少女の瞼はもう既に開いていた。
少女はゆっくりと身体を起こすと、周りをキョロキョロと見渡し始める。
「大丈夫か?」
目覚めの一言。
少女もこちらに目を合わせる……が。
「あ、貴方は一体……!?」
俺の顔を見た途端、猫人の少女はすぐに身を退かせ、距離を取る。
どうやらかなり警戒している様子。
まぁさっきの暴行が強く印象に残っているんだ。
警戒されても仕方がない。
「俺たちは怪しいものじゃない。君が道端で倒れているのを見つけてな。ここまで運んで――」
「う、ウソですね? こんな所まで運んできて、今度は何をするつもりなのです!?」
「う、ウソじゃないですよ! レイン様は本当に……」
「いえ、私は絶対に騙されません! 貴方がたは一体何者なのです!」
いや、ウソではないんだが……
でもやはりとんでもなく警戒されている。
というかここまで嫌悪感むき出しになるということは過去にも色々あったって感じか。
「別に警戒する分には構わない。だが君にこれだけは渡しておきたいと思ってな」
そう言って俺が手に出したのは一つのポーチ。
花柄の刺繍が入った可愛らしいポーチだ。
「あっ、それ……!」
猫人の少女はポーチを見るなり、すぐに俺の元へと駆け寄ってきた。
「まさか、あの人たちからこのポーチを……?」
俺は無言で頷くと、彼女に気絶前までに起きた事の真相を手短に話した。
その真相を聞くと、少女はフード部分を脱ぐ。
同時にぴょこっと可愛らしい猫耳と白銀の綺麗な髪が露わになりつつも、少女はバッと勢いよく頭を下げた。
「す、すみませんでした! 助けていただいたのに、失礼なことを……」
「いや、いいんだ。あそこまでされたら警戒して当然だしな。だから頭を上げてくれ」
少女はスッと頭を上げると、少し笑みを見せて……
「その……ありがとうございました。これ、とても大切なものなんです」
「そのポーチか?」
「はい。私のお母さんの手製なんです。旅に出る前に持っていけって言われて」
なるほど。
だからあそこまで大切にしていたわけか。
「あ、あの……お二人はこの後お時間ってありますか?」
と、猫人の少女は話を切り出した。
「時間か? まぁ、少しくらいならあるが……何故だ?」
「助けていただいたお礼をしたいなって思いまして。それに、その首から下げている認識票って冒険者の示すものですよね?」
俺は白色、シノアは銀色の認識票をそれぞれ首から下げていた。
「ああ、そうだが。もしかして君、冒険者志望なのか?」
「はい、そうです! これから王都で冒険者登録しに行こうと思っていてできればお話とか聞きたいなって……」
「なるほどな。どうだ、シノア? 少し寄り道になるが」
「わたしは大丈夫です! というか、むしろ大歓迎ですよ! しかも猫人族の女の子だなんて……これは友達になるしかありません!」
目をキラキラと輝かせながらそう言うシノア。
確かさっき獣人の友人が欲しいとかなんとか言ってたな。
まぁ何はともあれ話は決まった。
依頼も期限もギリギリではないし、少しくらい寄り道してもいいだろう。
「ってなわけだ。俺たちは構わないぞ」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
猫人の少女はぱぁぁっと花が咲いたような満面の笑みを見せると、
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はシェリーと申します」
「レインだ。よろしくな」
「シノアです。こちらこそ、宜しくねシェリーちゃん!」
「は、はい! よろしくお願いします! レインさん、シノアさん!」
互いに自己紹介を交わす。
と、いうわけで俺たちはシェリーの頼みでしばらくアルズールの町に留まることになった。
最新話をお読みいただき、ありがとうございます。
面白い、応援したいと思っていただけましたら是非ブクマと広告下にあるポイント評価のほどよろしくお願い致します。