12.駆逐
「あそこか……」
俺たちは例の怪しい一団を追いかけていた。
そしてようやくその一団の足が止まり、一人の少女が男たちに囲まれている状況を目撃。
と、同時に声が聞こえてきた。
「な、なにをするんですか! わたしが一体貴方がたに何をしたっていうんです?」
「何をした……だと? てめぇ自分の身分を分かっていってんのか? この薄汚い獣めが!」
「きゃっっ!」
ガラの悪い男が男が少女を蹴り飛ばすと、来ていたローブを無理矢理に引き裂く。
すると男は少女の懐に据えていたポーチに手を伸ばすと、強引にはぎ取った。
「ちっ、金目のもんはなしかよ。所詮は獣か」
「や、やめてください! わたしのポーチ返して! それはわたしの大切な……」
「あ? なんだとゴラ?」
「てめぇ……人間様に向かってなんだその口の利き方はっ!」
「うぐっ……!」
今度は腹部に一発。
その後も寄ってたかって一人の少女を殴る蹴るの暴行が続いた。
「あいつら……!」
「ひどい……!」
現場から少し離れた場所で俺とシノアはしゃがみながらその一部始終を見ていた。
一応誤解の可能性があるため様子を見ることにしたが、もうその必要はなくなった。
どうやら俺たちの予想は見事的中してしまったようだ。
「シノア、お前は街の憲兵をここへ連れてくるんだ。あいつらは俺がやる」
「わ、分かりました。どうかお気をつけて」
「ああ、お前も逸れないように気をつけろよ」
「は、はい!」
シノアは元気よく返事をすると、憲兵たちを連れにその場を去っていく。
そして一人、残された俺は静かに立ち上がると……
「さて、行くか」
静かに一歩を踏み出し、俺は男たちの中に入っていくのだった。
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「う、うぅぅぅぅ……」
お腹を抱える少女。
対して男たちはそれをあざ笑いながら、見下げていた。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたんだ? もうギブアップか?」
「わ、わた……しの……ポーチ……をかえ……し……て」
「あ? まだそんなこと抜かすか。ポーチ、ポーチ、ポーチって……うるせぇんだ――」
「止めろ」
「は? てめぇいつの間に……ぐはっっ!」
殴りかかろうとした男の腕を握り、そのまま向かいの壁に叩きつける。
「な、なんだてめぇは……!」
「たまたま通りすがった者だ」
突然の出来事になんだなんだと驚く男衆に俺は冷静に返答。
叩きつけられた方も頭を抱えながら、すぐに立ち上がった。
「て、てめぇ……いきなり何しやがる」
「お前たちがあまりに外道を極めた行為をしていたものだから、つい手が出てしまった。すまないな」
「外道だと? てめぇこいつが何なのか分かって言ってんのか?」
「何なのか……とは?」
「そいつは獣なんだよ」
「獣……?」
「ああ、そうさ! そいつは魔界の民だ。俺たち人間とは敵同士、ぶっ殺すべき相手なんだよ」
ああ、そういうことだったのか。
ローブを着ていたから被害者の姿は見えてなかった。
が、今の一言で理由はよく分かった。
「そんな理由でお前たちは他人を殴り、蹴るのか?」
「そんな理由だと? てめぇ、獣の肩を持つ気か?」
「……そうと言ったら、何なんだ?」
「けっ、マジかよ。おい、お前ら聞いたか?」
「あり得ねぇな」
「獣を庇うことこそ外道だぜ」
「人として終わってんな」
散々な言われ様である。
まさか人として終わっているとまで言われてしまうとは予想外だった。
(獣人に対する差別がここまでとはな……)
「おい、兄ちゃん。正義の味方気取りか何か知らないが、あまり調子に乗らねぇ方がいいぞ」
「別に乗った覚えはない。正義の味方を気取りたいわけでもない。だが、お前たちのしている行為は間違っている。このまま見過ごすわけにはいかない」
「ふっ……そうかいそうかい。なら仕方ねぇな」
男はそういうとニヤリと笑い、他の男たちとアイコンタクトを取ると……
「おいてめぇら! 遠慮はいらねぇ! あの獣ごとこいつも殺っちまえ!」
「おう! こんな弱そうなヤツ一撃で終わらせてやるぜ!」
「俺たちを怒らせたことを後悔させてやる」
「血祭りにあげたるわ!!」
先頭に立つ男(恐らくこの集団のリーダー)は声を張り上げると、他の者たちに指示を飛ばす。
と、同時に男たちは殺意むき出しで襲い掛かってきた。
(はぁ……まったく)
溜息が出てしまいそうだ。
俺は少しだけ服の袖を捲ると、襲い掛かる男たち全員を――一瞬にして駆逐した。
……
……
「わ、悪かった……お、俺たちが悪かった! だから見逃してくれ!」
リーダー格の男が震えた声で後ずさりする。
他の者は完全に地に伏し、残りはこいつだけになった。
「別に殺すわけじゃない。少しばかり眠ってもらうだけだ」
みすみす逃がしたら後から来た憲兵たちがこいつらを捕まえられなくなるしな。
「わ、分かった。じゃあこうしよう。お前の欲しいもんはなんだってくれてやる。カネでも……あ、もちろん女でもいい! だから、俺だけは……俺だけは見逃してくれ!」
なんとも情けない。
周りの友人(友人なのかは知らんが)たちを置いてまで自分の身が大事とは……
清々しいほど腐りきっていて逆に呆れてしまう。
俺は少しずつ男の元へと寄っていく。
「な、な? いい話だろ? だから――」
「必要ない」
「いや、だから待ってくれ話を……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
最後に男の腹部に一発。
これで全員が地に伏すことになった。
「次は……」
周りで男たちが倒れている中、俺はすぐに少女の元へ。
「おい、大丈夫か」
少女に声をかけてみるも、気絶していて返答はなかった。
(とりあえず、治療を……)
俺は応急袋から回復薬を取り出し、少しずつ少女に飲ませる。
その時だ。
「レイン様、憲兵のみなさんをお連れしましたーーー!」
こっちに向かって一直線に走って来る数人の影。
その先頭にいたのは、綺麗な栗色の髪を揺らしながら手を上げるシノアの姿だった。