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最後の復讐・5

 挨拶は優雅に且つ丁寧に。

 とは、ベジフォードの事前指導だが、その時に言ってやった。

 丁寧は兎も角優雅なんぞ逆立ちしたって出て来るわけがない、と。ベジフォードは苦笑いして丁寧だけでいいと頷いた。現在、そのベジフォードにエスコートされ、王族の前で紹介をされたところだ。

 ……ああそうだ。

 思い出した。国王とやらは、こんな下卑た笑みを浮かべて、なっちゃんと私を上から下まで舐め尽くすように見ていた。今も変わらないその視線は、鼻を鳴らしたくなる程不愉快で、あまりにも変わらないことに安心して復讐出来ることを喜ぶ。

 お前たちが愚かであればあるほど私の復讐心はきっとスカッとする。


「国王陛下、此方が」


 ベジフォードが私を紹介しようとしているのを遮るように手を振って言葉を止めさせると、ニヤニヤした笑みのまま私に尋ねてくる。


「両親を火事で失い怖い思いをしたと聞いた」


「はい」


 こんな奴と会話なんぞしたくもないが、我慢だ我慢。それもこれも復讐のため。


「記憶も失っていたと」


「はい」


「そうか。それは難儀なことであったな。どうだ。我が息子達の誰かの庇護下に入らぬか」


 ……今日って何の集まりだったっけ。

 私がそう思うのも無理ない。

 これ婚約者選びの顔合わせでも側妃選びの顔合わせでもなんでもないはずなのに、一応国のトップが主旨を無視してこんな発言をするって貴族達を蔑ろにしているってやつじゃないのかって思う。

 ……まぁこんな愚かな国王を敬っているんだし、似たもの同士なんだろうが。

 本当に国のことを民のことを考えているならこんな国王なんぞ、のさばらせておくとは思えない。

 仮に王家に不満を抱いている貴族が居たとしても、何の行動も起こしてない時点でお察し。……ああでもそうか。

 私の隣で胡散臭い微笑みを貼り付けているベジフォードや王弟とやらは、不満を抱いているからこそ、行動を起こそうとしているのか。

 そう考えれば、まぁまだマシな部類なのだろうな。

 この国の人間ってだけで私は嫌いだから好ましくは思わないが。大嫌いが嫌いに上がった程度なものだ。それでも手を組んだことは後悔していない。

 こうして真の復讐相手に近づけるのだから。


 ああ、ゾクゾクする。

 コイツらをどうやって殺そうか。

 一思いに? バカな。そんな優しさを与えてどうする。

 一気に殺すなんて優しさを見せる気はない。

 当然苦しんで苦しんでいっそのこと殺せ、と喚いて鼻水を盛大に垂れ流しながら号泣させて願わせたって簡単に殺したくない。


「返事も出来ないくらいか弱い小鳥か。益々庇護下に入れねばな。ワシの庇護下に入るか? うん?」


 ……ハッと意識が戻る。

 どうやら、どうやってコイツらを痛めつけるか考えていた所為で返事をしないでいたことをなんだか変に勘違いをしているらしい。

 ……アホか。

 誰がか弱い小鳥だよ。お前の庇護下になんぞ入るかよ。

 ……ん? いや、待てよ。コイツの庇護下に入れば楽々と懐に入れるわけだ。だってコイツが言ってるのは要するに閨事の相手をしろってことだろう?

 コイツの寝室に入れるのならこれを受けるのも悪くない、か……? 人っていうのは寝ている時ほど無防備になりやすいし。

 どうせコイツは国王だから、自分に逆らう奴なんか居ない、とか考えているわけだ。

 私が何やら企んでいても腕力で捩じ伏せて言うことを聞くように躾れば何とでもなる、とかそんなことを考えているんだろう?

 それも閨の相手に来たか弱いと思っている小娘一人、とか。

 その油断が自分の命を縮めることに何も気づいていないだろうし、この話、受ける方が良くないか?


「いえ、陛下。この令嬢はつい最近まで記憶を失っていたわけですから、礼儀が完璧とは申せません。万が一陛下に粗相をしてしまえば」


 私が了承するより一呼吸早く、ベジフォードが断りを入れる。


(おいっ、どういうつもりだ!)


 声に出かけて何とか自分を抑える。ここで本性を晒して目の前のコイツが不愉快だ、と私を遠ざけるような事態には持ち込めない。

 奥歯を折れるくらい強く噛み締め、痛みで自分をコントロールして怒りを抑え込む。

 ベジフォードが私に聞こえるくらいの声で、後で、と一言。説明内容によっては不服だが受け入れるしかないし、逆に受け入れない可能性もある。それはベジフォードも理解しているはずだ。

 当然、受け入れられない説明内容だったのなら思う存分追及してやる、と隣に居る男に心の中で文句を言いながら口には出さないでいた。


 結局、色々なモノを呑み込んだまま、茶番を終わらせてベジフォードと共に城を後にした。


「おい、どういうことだ」


「君は短絡的にモノを考えるな。君を止めたのには二つ理由がある。一つはかのお方と打ち合わせていなかったこと。かのお方は国王にも王妃にも嫌われているから居なかっただろう?」


 そうだったか? と首を傾げる。

 王族、として紹介されたのは、国王と王妃と王子達と王子妃達……。成る程、確かにいなかったな。


「確かに居なかったな」


「そうだろう。だから君が短絡的に受け入れていたらかのお方も焦る。それともう一つ」


「なんだ」


「これは不確かな情報だが。……どうも君と勇者と呼ばれる少女の死に場所に異変があったようだ」


 その情報を知って眉間に皺を寄せる。あの場所は何処だかもう覚えていない。


「お前は知っているのか」


「知らない。いや、知らなかった、だな。かのお方が君たちが死んだ場所を特定しようとしていた矢先に、国王の手の者が動いた。かのお方もその辺りがおそらく死に場所だ、と考えていたところだったから間違いないだろう」


 あのクズの手の者が動いた?


「どういうことだ」


「だから、調べようにもあちらが先に動いたから簡単に動けない。調べ難いんだ」


「チッ。肝心なところで役に立たないな」


「そう言わないでくれ。我々の味方は少ないし、かのお方が動かせる駒も少ない」


「ふむ。では、先に私がそこへ行こう」


 どのみち行きたいと思っていたのだから好都合だ。


「君が? 併し、国王の監視が付いてるはずだ。君が向かうのはおかしいだろう」


「いや。お前が一緒に行けばいい。何しろ、私の伯父とやらは、勇者の仲間だったのだろう? あんなのを仲間だなどと反吐が出るがな。そしてお前の身内もそうだ。何もおかしくない」


 ベジフォードが目を丸くして、言葉を失ったように口を開閉させる。

 そして。


「そうだな。そうだ、君と私が行くならば、何もおかしくない。かつての仲間の身内が勇者の死に場所へ花を手向けることが、おかしいわけがないな」


 成る程、と頷く。

 残念ながら、勇者の仲間である騎士は火事で焼死し、魔術師も死んでいるのだから、彼等が足を向けることは出来ない。

 その代わりに私とベジフォードが勇者の死を悼むために死に場所に向かう。

 ーーそれだけのことだ。


「そうだろう。それだけのこと、なのだからな」


「全くだ。それだけのこと、だな。分かった。かのお方にも連絡し、君と私で向かおう」


「国王とやらが何を目的としてなっちゃんの安らかな眠りを妨げるのか、知りたいからな」


 ニヤリと笑う私と同じような笑みを浮かべるベジフォード。互いに通じ合うものがある相手が居るというのは、笑みまで似てくるのかもしれないな、と変なことを考えた。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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