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最後の復讐・4

『あなたが満足してもしなくても、もう転生は出来ないわよ』


 少し真面目な声音の女神に高らかに笑ってやる。転生など一度でいい。


「仮に復讐が終わらなくても、一矢報いることが出来たから、それでいい。……いや、あとは王族相手に一矢報いてやらないとな。それまでは復讐は終わらん」


『必ず全員を殺さないと復讐が終わらないと思っていたのに』


 今度は揶揄う声音の女神に鼻で笑ってやる。


「元々気持ちがそうであっても、全員は無理だろうとは考えていたさ。ただ。私も……そしてなっちゃんも搾取され廃棄されて人生を終えた。私達はそんな人生を辿っていいわけじゃなかった。それをアイツらに知らしめたかった」


『それは……そうね。あなた達は、勝手に召喚されて人生をめちゃくちゃにされたのだものね』


 女神の反省など、どうでもいい。

 もう、私やなっちゃんのような犠牲者が出ないようにするのが、この女神のやらねばならないことだと思う。

 私は私でなっちゃんと私の無念を晴らしたいだけだ。


「どんな形の最後であれ、復讐が終わったら死にたい」


 なっちゃんが生まれ変わっていたとしても、その相手はなっちゃんであってなっちゃんではない。私が私であって私ではないのと同じ。

 会いたいけど、会いたくない。

 ただ自己満足で死んでいきたいだけだ。


『……そういえば、王族に会えるような服装は整っているのか?』


 不意に尋ねられた内容は、しかしどうでもいい内容。何故、女神がそんなことを気にするのか……とは思うが「ああ」 と軽く頷いた。

 ベジフォードが人の手を介して送って来たドレスだの装飾品だの靴だの、一式。物の質が良いものだが、興味ないので一瞥しただけ。

 ついでにメッセージカードには、信用出来る侍女を着替えの手伝いに寄越す、と記されており、ドレスなんぞ着られないぞ……と鼻白む前に懸念を払拭してくるあたり、出来る男は配慮が行き届き、その辺の男とは違うらしい、と嘆息した。


『悔いのない復讐を』


 女神の重い響きにハッと我に返る。

 悔いのない復讐、か。

 随分と粋なお言葉だ。有り難く頂戴しておいてやろう。

 それきり女神の声が聞こえてくることはなかった。

 おそらく最後のコンタクトだっただろう。


 女神と会話をしてから十五日。招待状が届いてからはおよそ二ヶ月。

 その日はやって来た。

 茶会は昼からだが、その日だと思えば前夜は早く就寝出来ず、興奮していたのか朝日と共に目が覚めてしまった。私とヤンはあちこちの宿を転々としていたり野宿をしたりと様々だったが、招待状をもらった時にはベジフォードが手配したそれなりにお高めの宿で寝泊まりしていた。費用は当然ベジフォード持ちで。

 二ヶ月もの間の宿泊費他諸々の費用を払ってくれる景気の良いベジフォードのためにも、今日は失敗するわけにはいかない。


 そう思えば全身が震える。


 恐怖?

 いや違う。

 これは武者震いだ。

 人を殺めることへの?

 そうだ。

 だが、もう震えは止まった。

 何人の血で自分の手が汚れようともきっと慣れることは無い感覚。

 ーー人の命を奪うということ。

 その、重み。


 それでも、何度転生しようと何度同じ分岐点に立とうと、私は私の意思で復讐を遂げる道を選ぶ。

 転生はもう出来ない。

 それでいい。

 私の復讐は全部をこの手で葬ること。ーーそれが理想だった。でも、そんなの現実的じゃない。

 だから一矢報いて、あの場所で死ぬ。

 それが私の復讐の終わり。


 コンコン。


 様々な気持ちが胸を過ぎっていると、扉をノックする音が聞こえてきた。誰何の声を上げるとヤンで、ベジフォードが手配した侍女が来た、とのことだった。

 ……愈々か。


 深呼吸をして中へ通すように告げる。現れた侍女は「ベジフォード様から伺っております」 と挨拶をすると共に、先ずは湯浴みから、と早速動き出してくれる。

 もちろん宿だから湯浴みなど朝から出来ない。侍女はヤンに命じてお湯をもらってくるように言う。その間に侍女はタオルを出したり化粧道具を出したり、髪型の指定があるか確認をしながら髪質をチェックしてきたり。


 無駄口は叩かず、テキパキとした機敏な動きに、出来る侍女なのだろう、と少しだけ肩の力が抜けた。

 気持ちが解れた頃にヤンが盥に入れた湯を慎重に持って来て侍女の指示で溢れないように置く。


「本当はお髪も洗いたいところですが、時間がありませんので香油を髪に馴染ませるだけにしておきます」


 前世の記憶で察するに、湯浴みというより蒸しタオル的なものを髪の毛に施して香油を馴染ませているようだ。

 その他お湯で濡らしたタオルを固く絞って私の身体を拭いてくれる。随分とサッパリ出来たがこのまま寝るわけにはいかない。

 侍女がこれからが本番です、腕の見せ所! と言わんばかりにニコリと口元だけで笑みを浮かべてから「では」 と気合いの入った声が聞こえてきた。


 化粧まで施されて鏡を見せられ眉間に皺を寄せてしまった。

 ーー何しろ何処からどう見ても良いとこのお嬢様なのだ。

 侍女さん的にはやり切った感満載なのだろうし、実際清楚な淑女っぽい雰囲気で成功なのだろうが、私としては別人が居るような気がしてならない。だが、これならば間違いなく元伯爵家の令嬢だと納得してもらえそうだ。


「さぁお嬢様、本日のお茶会はお嬢様が主役です! いってらっしゃいませ」


 自分の腕をかけて仕上げたから満足しているのだろう。満面の笑みと言えそうな笑顔で送り出されてしまった。部屋の外で待っていたらしいヤンが目と口を丸くしている。……口は閉じろよ。


「久々にこのような姿になった。似合うか」


「とても似合ってますよ、お嬢」


 貴族令嬢・サーシャとして生まれ変わって暫くはドレス姿で居たから動き難いわけでも嫌でもないが、気まずい気持ちになっていた。まぁ仕方ない。仮装パーティーでもあるまいし、普段の格好で登城するわけにもいかない。


 今日の結果がどうであれ、今日が最後だ。


 ならば行くしかあるまい。

 ヤンの不器用なエスコートを受けて侍女さんの話によれば宿の玄関前で待つ馬車に乗りさえすれば、後は王城まで馬車が連れて行ってくれることになっていた。

 という事でいざ敵陣、という気持ちで王城へ到着すればヤンが降りて手を差し出すより先に馬車の扉が開いた。顔を覗かせたのはベジフォードで、エスコート役を引き受けてくれるために馬車停めで待っていたようだ。


「お、似合うな」


「ありがとう。一応あなたも素敵だと褒めておこうか。それとドレス一式をありがとう」


 軽薄な褒め言葉に心の篭らない礼を述べれば、ベジフォードはとても面白がった。声を上げずに笑っている。放っておこう。それでもきちんとエスコートをしてくれるのでそれに合わせてお茶会会場へ入場した。


 会場には王城に相応しい花瓶があちらこちらに置いてあり、当然テーブル事に飾られている花も一つずつ違う。

 これだけで我が国は順調だぞ。

 というアピールをして貴族達の統率化を図るのと同時に他国への牽制といったところかもしれない。まぁ何でもいいが。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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