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2度目の人生を迎えて

これから暗くなっていきます。他サイトで公開している3ページ分をまとめてあります。

 生まれた時から身体が弱かった私が、前世の記憶を取り戻したのは、7歳の冬の事。膨大な記憶は、その時の私には辛過ぎて、丸々1週間寝込んだ。高熱が続く私。両親は必死に看病してくれたのは分かった。そして、自分がどういう身分に生まれたのか理解した時、心底、自分の身の上を呪った。


 生まれ変わった私の名は、サーシャ・グレイル伯爵令嬢。よりにもよって、この国の貴族の娘なんかに生まれ変わったのだ。何故、平民にしてくれなかったのだろう。出来ればもう一度、日本人に生まれたかった。


 私の前世は、佐藤朱世という女子高生で、ごくごく平凡な日本人だった。黒髪黒目で、大学デビューに髪を茶色く染めてみようか、なんて密かに思っていた程度の。運動全般苦手で、勉強は大好きって程じゃなかったけれど、割合楽しい。って思えるくらいで。


 片思いの相手も居たけど、友達と学校帰りに渋谷や原宿で遊ぶのが楽しい、そんな女子高生だった。


 家庭研修期間……要するに、高校卒業まであと少しだった年明け半ばのある雨上がりの午後。幼稚園から一緒の幼馴染みの“なっちゃん”こと、田村那智から髪の毛を染めたから見て。って言われて、見に行った日。


 美容師専門学校に入学する事が決まっていた那智は、綺麗な“赤”い髪をしていた。それはそれは綺麗に赤で染まっていた。高校の卒業式の時は、どうするんだろう、と思ったものの、綺麗だった。そんな時、私達……いや、正確に言えば、那智がこの世界のこの国に召喚された。


 所謂異世界召喚。

 それも那智が“勇者”という勇者召喚だった。

 普通“勇者”って男の子で、女の子の定番って“聖女”じゃないの? と勇者召喚に巻き込まれた平凡な私は、内心突っ込んでいたけれど。


 この国の言葉が分からなかった私は、なっちゃんに説明してもらうまで、状況が掴めず苦労した。そして、なっちゃんから受けた説明では。


 「何でも、この国の国境に現れた魔族っていうのを退治して欲しいんだって」


 というもの。魔族とは、人間・動植物関係無く、魔力を持って生まれる存在がいて、その魔力が暴走した結果、人間は身を滅ぼすけれど、動植物は動物なら身体能力が上がり、植物なら異常成長するらしい。


 その状態を“魔族”と呼ぶ。と説明された。但し。偶に魔力が暴走しても、身を滅ぼさず、生き残る人間を“魔人”と呼んで、思考する事が出来る人間である事から“魔族”より強い……らしい。


 「そんなのを、魔力なんか無い私達が斃せるわけ、ないじゃない」


 なっちゃんに言えば、なっちゃんはまた相手と話している。結果。


 「この世界の言葉が解る私が“勇者”で勇者なら斃せるらしいよ」


 「ということは、私達より前にも勇者を召喚しているって事だね」


 私の指摘になっちゃんが成る程、と頷く。なっちゃんは運動神経抜群なんだけど、勉強は全然出来ない。と嘆く子。最下位近辺を彷徨ってるとは本人の話だけど、確かに赤点取って補講だ、とは良く聞いていた。ついでに考える事も苦手だった。


 「やっぱり、数百年前に勇者を召喚して斃してもらったらしいよ」


 その時の勇者は男性で、やはり最初から言葉が通じたらしい。


 「その人は、魔族を斃し終わったらどうしたって?」


 私が更になっちゃんに尋ねれば、相手はこう言ったそうだ。


 「この世界が気に入って、寿命が来るまでこの国に居たらしいよ」


 ……それって、ウラを返せば、元の世界に帰る事が出来ない、とも言える。気に入ったのかもしれないけれど、寿命が来るまでには、帰りたいって気持ちも持ったと思うんだけど。全く無かったのかなぁ。


 ちょっと胡散臭くて全部を信用出来ないけど、とりあえず、なっちゃんが勇者というのは決まりみたいだし、私がなっちゃんから離れるのは嫌だったから、私となっちゃんは、魔族の討伐とやらの為に剣や弓の扱いを教わった。……ただ、私にはどちらの才能もあまり無かったみたいで、身を守るくらいの術しか身に付かなかった。


 そうして、異世界から召喚されたなっちゃんと私は、他に2人の討伐メンバーを連れて旅立った。最初は言葉が分からなかった私も、この国に現れた魔族を討伐する年月のおかげで言葉が通じるようになった。


 そりゃ18歳で召喚されて5年も魔族を討伐していたら、言葉も覚える。但し、私は召喚された時のこの国の中枢メンバーとやらを信用していなかったから、討伐メンバーも信用していなくて、敢えてこの世界の言葉は話さなかった。


 この国に召喚された時。


 なっちゃんは気づかなかったみたいだけど、言葉が分からなかった私は、寧ろ相手の表情や仕草に集中していた。


 だから、なっちゃんの事を嫌悪しているような表情ばかりのメンバーを、絶対信用しなかった。その理由は、言葉を理解出来るようになってから、程なくして討伐メンバー2人の会話で判った。


 「あの勇者、確かに力は強いが」


 「あの赤い髪は忌まわしい」


 「そう。禁忌の色だ」


 「もしや、本当は魔人では無いのか」


 「魔人が異世界から来た人間のフリをしている、と?」


 「そう。気まぐれで“勇者”になったのかもしれない」


 「成る程。魔人は魔力が暴走して身を滅さなかった元・人間。人間のフリは出来るか」


 「異世界からの勇者召喚は、我が国特有の秘術だ」


 「そうなのか? 魔法国家・ソルリアなら可能では?」


 「別大陸の国の事までは解らないが、この大陸では我が国だけだ」


 なっちゃんの髪が赤い事が、なっちゃんを嫌う理由だ、と知った日だった。

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