仇の一族・4
ピチャッ。
そんな水っぽい音を聞いて私は首を捻った。なっちゃんと一緒に招ばれてしまったこの場所は、部屋にしか見えない。実は水場なのだろうか。足元を見ても絨毯だろう毛織物が見える。……えっ、この毛織物、洗濯して乾いていない、とかなの?
けれど、その考えが違うことに直ぐに気付いた。
其処には転がる人間。
表情は分からないけれど、どう見ても生きてはいない。
「ひっ」
息を呑み込んだ悲鳴を上げた私。なっちゃんも直ぐに気付いた。私の手を握って来る。
「こ……れ、は」
なっちゃんの声が擦れていた。
「ああ、気にしないで結構。勇者様が気にする事じゃない。この者達も勇者様のために命を捧げられたんだ。本望でしょう」
笑顔で説明する、コレがこの国の重鎮か。確か宰相とか言っていた。宰相って日本で言う首相みたいなものじゃなかったっけ。
それより、今、このオッサン、なんて言った?
勇者様のために命を捧げたーー
そう言わなかっただろうか。それはつまり。
「人の命を犠牲にして、勇者を召喚したってこと……?」
なっちゃんの声が響いて、私は目を覚ました。
ーー思い出した。私達は、異世界から勇者を召喚する、とか、そんな名目で、命を犠牲にして招かれた。そんなの、全く必要無かったのに。本当に、その死が無意味なものだ、と、私はあの女神に会って、知った。
今、何故、私は思い出したのだろう。絶対大切だから、このタイミングのはずだ。……考えろ。絶対、このタイミングで思い出した事は、意味がある。
まさか!
私は目を見開く。その予想はしていなかった。だが、その考えに至った時、ゾッと戦慄した。もしも考えている通りなら、今更な側妃探しも納得がいく。しかしバカな事この上ない。
ーー《《何故再び、異世界から人間を召喚する》》という考えに陥っているのだろうか。魔物はなっちゃんが殆ど殲滅した。生き残ったヤツは居ただろう。実際、なっちゃんの体力の限界でトドメを刺し損ねて、生き延びた魔物も居たはず。だがそれは、数は圧倒的に少ない。異世界から再び人間を召喚する必要など無い。
一体何が起こっているのか分からないが、再び異世界から人間を召喚する事だけは阻止しなくてはならない。なっちゃんと私みたいな悲しい存在は、もう生まれさせてはいけない。どうしたらいい。先ずは私の考えが合っているのか確認をして、それから召喚を阻止だ。
……召喚の阻止。
それはたかが伯爵家の令嬢1人が声高に叫んでも、黙殺されてしまうレベル。考えろ! 何か効果的な事が無ければ、誰も話など聞かない。フッ……と有る事を思い出し。一か八かの大博打を打ってみることにした。
「女神よ。私を転生させた女神よ。願いがある。対価も払おう。だから私の前に現れて欲しい」
本当に現れるかどうかは知らない。だが、あの女神は私となっちゃんを哀れんでいた。だったら可能性を信じるしか、もう私はアテがない。関わりたいわけでは無いけれど、無意味な儀式のために、人の生命を散らそうとは、全く思わない女神の良心にかけよう。
お久しぶりです。前回の更新が12月……。相変わらず不定期更新が続きます。
今話は短めですみません。
お読み頂きまして、ありがとうございました。