表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/42

仇の一族・1

久しぶりの更新です。エブリスタでも不定期更新中。

 「本日はお招き頂きまして、ありがとうございます。王妃殿下」


 私は姿勢もブレずにカーテシーで頭を下げたまま、お声がかりを待つ。


 「よく来てくれたわ。グレイル伯爵家のサーシャ」


 面を上げなさい。と言葉を頂き、そのままの姿勢で顔だけ上げる。他の貴族令嬢達もいる中で無様な姿は見せられないのだ。

 何しろ、社交界にデビューする前に醜聞に巻き込まれている伯爵令嬢として、私は有名なのだから。


 表向き私が誘拐された事は無かったはずだが、まぁ噂好きの貴族達だ。どこからか聞きつけたらしく、私が王家からお茶会の誘いが来た時点では、既に噂が広まりつつあった。

 それもまた、伯爵家が王家からのお茶会を断る理由のひとつだった。だがまぁ断り続けるのも王家に反逆有り、と疑われそうで馬鹿馬鹿しい。一応これでも淑女教育をそれなりに受けているのだから、令嬢という名のネコを被るくらい、訳ない。


 そんな気持ちでやって来たが。軽い気持ちで来るもんじゃなかった……と後悔するのは、わりと直ぐだった。


 簡単に言えば、王妃様のお茶会という名の、側妃候補の集いだ。そして、側妃とはいえ、恋に恋する年頃の娘達が、いかに王妃様の目に止まるか、と争っている。この年でもう、女の争いか、とウンザリした。

 それは当然、私にも敵意の目が向く。


 「グレイル伯爵令嬢」


 「お初にお目にかかります」


 私に声をかけて来たのは、やたらと上から目線の物言いをするご令嬢だ。覚える気が無かったので、なんとか侯爵のナントカってご令嬢。

 聞いてなかった、とは言えないから最低限の挨拶だけはしておく。私がきちんと頭を下げた事に満足しているようだが、その後に続く言葉には我慢ならなかった。


 「そこの卑しい獣は、あなたの従者かしら?」


 いやしいけもの? なんの事?


 本気で何を言われているのか分からず、ナントカ令嬢の視線と同じ方を見る。2年前に誘拐された(事になっている)私を助け出した(事になっている)ヤンが、そこにいた。


 「私の護衛の事、でしょうか」


 怒りの声を上げそうになる。寸前のところで、周囲からの視線に気づいて冷静になった。今、ここで感情の赴くままに任せたら、淑女のネコが飛んで行く。


 それは、私の復讐の妨げになるかもしれない。この目の前にいる女も、周囲の娘達も、あっちにいる王妃も、国王も、王太子も、他の王子達も、みんな、みんな私の復讐対象なのだから。

 何が、どう、私の復讐に役立つか分からないなら、今は我慢をするべきだ。


 吐き出しそうになった暴言を、怒りを、息と共に呑み込んで、意図して微笑みを浮かべた。


 「護衛、ねぇ」


 鼻で笑うナントカ令嬢。そのヤンと私を値踏みするような視線が苛つく。


 「はい。私、数年前に少々恐ろしい想いを致しまして、その際、私を命を賭けて守ってくれたのが、この護衛でございました。恥ずかしながら、令嬢としてはこのような醜聞を口にするのも、瑕疵がある、と公言しておりますようなものですから感心されないのは承知の上ですが。それでもこの護衛の説明はきちんと致しませんと、私を守ってくれたこの者に申し訳が立ちませんので」


 どうせ、此処にいる令嬢達は、如何にして私を貶めようか考えているのだ。だったらこちらから先制攻撃で、私は瑕疵があるから、側妃にもなれませんよ、と言っておく方がいい。


 案の定、目の前の令嬢や他の令嬢の目が変わった。


 一応、貴族令嬢だから微笑みは皆、絶やさないけれど、目でそんなに感情を示していたら、貴族令嬢として、また将来的に誰の奥方になるとしても、付け込まれると思うんだけど。


 「そう。そういえばグレイル伯爵令嬢様は、昔何やら恐ろしい目に遭われた、とか。どうかご無理しないで下さいね」


 意訳。傷モノのアンタが側妃になれるわけねーだろ。と言ったところか。


 「まぁ心優しいお言葉、ありがとうございます。そのようなわけで、この護衛の事はお気になさらず」


 意訳。側妃になる気は有りません。だけど、私の護衛を馬鹿にすんな。と言い返したが、果たして理解してくれたのか。


 「まぁ、その卑しい獣が護衛でしたのね? 見目が違うので、どこから迷い込んだのか、と」


 意訳。この国の人間じゃない時点で、同じ人間なわけない。護衛? は? 人間じゃない奴が? こんな見すぼらしい奴が城に居るのも不快だ。さっさと出て行け。……って目で語ってるわ、この馬鹿侯爵令嬢。


 「この者が護衛で私の側に居る事は王妃様もご承知ですので、迷ったわけでは有りませんわ」


 意訳。アンタ、難癖付けてるけど、王族が居る場所に王家の許可無く、連れて来るわけねー。王妃の許可分捕ってるんだよ、文句あるなら王妃に喧嘩売ってるかんな? って言ってやると、侯爵令嬢は流石に自分の言葉が不敬に当たる事に気付いたようで、黙ってスゴスゴと引き下がった。


 フン。バーカ。こちとら、見た目通りの12歳じゃねぇんだよ。見下して嘲笑ってやろう、と思っていただろうけど、そんな魂胆丸見えだ!

お読み頂きまして、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ