ある雨上がりの午後
公開中の作品【流行の最先端は、婚約破棄です⁉︎】と同じ世界の別の国の話。他サイトで先行公開中。他サイトで公開中の【王命結婚からの条件付生活と周囲の思惑】と同じ世界。
「えっ? ちょっと、なっちゃん、その髪の毛⁉︎」
「エヘッ。美容師になりたいからさ。専門学校に行くには、これくらい個性が無いと、かなぁなんて。似合う?」
「似合うけど。でもなっちゃん、高校の卒業式がまだあるよ?」
「分かってるよぉ。カッチは気にし過ぎ! 卒業式は、ウィッグ付けるのさ」
「っていうか、ウィッグ付けるなら、黒のままで、今の色をウィッグにすれば良かったのに」
私が溜め息混じりで那智に言えば、幼馴染みの彼女は、赤い髪に染めたショートヘアを触りながら、ニシシと笑った。昔から私はこの笑顔に弱い。何でも許してしまえる。まぁ似合うのは似合うんだろうけど、いきなり赤というのも、どうかと思う。
「茶色は良くあるじゃない? あと金色も。だから、ちょっと見ない色で赤を選んだんだ。私の一番好きな色だし。カッチの名前だし」
カッチとは、私の愛称。朱世という私の名前から来ている。あけよって名前が言いづらかった那智は、あかっちと呼んでいた。でも、皆がその愛称で呼び始めた途端、自分だけの呼び方が欲しい、と“カッチ”と私を呼ぶようになった。
私達は幼稚園から高校までずっも一緒で、高校卒業後、初めて進路を分かつ。そんな時まで後少し。お互い、不安な心を隠して笑い合っていた、ある雨上がりの午後。
ーー私達の運命が変わるなんて、考えていなかった。
それは突然だった。まるで地面に穴が開いてそこに落ちるような。そんな感覚で。「なっちゃん」と呼んで手を取り合った。それにホッとしたのも束の間。辺りを見回すと、広々とした空間に、映画で観たような魔法使いが着る服を着た人が何人もいた。
ローブって言うんだっけ。
ぼんやりとそんな事を思いながら、でも一方でどこ、ここ。とも思っていた。
魔法使いっぽい人達が何か言ってる。何を言ってるのかさっぱり解らない。それに反応したのは、那智だった。
「〜〜〜」
「えっ? なっちゃん?」
英語でもない。中国語でもない。テレビで聞くフランス語やイタリア語なんかとも違う。音的には東南アジア系、だろうか。でも、タイ国とかバリ島とかの言語をきちんと聞いた事が無いから、解らない。それに、本当にそっち系の言葉かどうかも解らない。とにかく、そんな言葉を那智が話せるなんて、知らなかった。
「カッチ? どうしたの?」
「なっちゃん、語学堪能だったんだね」
「何言ってるの? 日本語じゃない」
「ううん。なっちゃん、違う言葉を話していたよ」
「……へ? どういう事?」
私の焦った顔に、キョトンとした那智の顔。2人で首を捻ったのが、この世界ーー名は不明だけどーーの最初の記憶。どうやら、言葉が通じるのは那智で、会話は那智に任せた。会話をしながら首を捻り続ける那智に説明を受けたところ、異世界から勇者を呼び出した、とのことだった。
勇者、ねぇ。ラノベかっ! と本気で突っ込んでしまいたくなるが、まぁ現実に起こってしまったものは仕方ない。言葉が通じる那智が、その勇者、なのだろう。だが、考えることが苦手な那智は、イマイチ状況を理解出来ていないようだった。
【流行の最先端は、婚約破棄です⁉︎】がラブコメ(コメディ感の方が多い)なのに対し、本作品は復讐モノです。段々と暗い話になっていきます。それが苦手な方は、ここで回れ右をして下さい。