プロローグ
ある国に1つだけ魔法学校がありました。その学校は5年に1度しか生徒を募集しませんでした。その年の生徒の中にとても優秀な生徒が現れました。同年代の生徒に比べて、2倍、3倍も優秀な。この年の人々を‘永遠の世代’と呼びました。優秀な1人を‘永遠の勇者’と。
彼らは5年の学校での生活を終えると凄まじく強い魔物と対決します。命を掛けて闘い、殆どの生徒が死んでしまいます。この国には軍はなく、平民と皇族しかいません。永遠の世代の使命は国のため、魔物を退治することでした。
時々生き残る生徒がいました。彼らは学校に所属し、教師になります。家庭を築くことは許されず、お国のために生きることを強いられました。しかし、彼らはそれを幸せと考え、誇らしく思っていました。
年々、魔物が強くなっていきました。はじめの犠牲者は半数でしたが、今ではもう1人生き残るのが多いほど犠牲者が出るようになっていました。
「ルーラ、あなた明日遠征じゃないの?永遠の勇者としてお国のために使命を果たしてきなさい。」
「ええ、お母様。皇族として恥のない勇姿を見せたいと思いますわ」
ルーラは永遠の世代であり、永遠の勇者です。また、初めて女性皇族として永遠の勇者に選ばれた生徒でもありました。
(本当は、死にたくないなんて思ってはいけないのに…)
ルーラはお国のために命を捧げるなど、もってのほかだと思っていました。死ぬのが怖くて、逃げてはいけないのだろうかと考えるほどでした。明日は魔物退治の遠征の日。時間が経つにつれ、足がガクブルとし始めました。
(どうして私なんかが永遠の勇者に…もっと命を捧げることを誇らしく思う生徒がなればよかったのに…)
翌日、気の進まないままルーラは待ち合わせ場所に向かっていました。
「ルーラーー!」
「なあに、セオ。今日のこと考えていて気が進まないの…」
「やっぱりルーラは生き延びたいんだね、俺はお国のために命を捧げてもいいと思ってるよ!」
「なんでセオが永遠の勇者じゃないのかな…」
セオはルーラと同学年でルーラが永遠の勇者にも関わらず偏見なしで接してくれる唯一の親友です。国に尽くすというところだけが難点だとルーラは思っています。
「やっぱりルーラのその青い眼と青い髪、綺麗だね」
「皇族の証としか思えないよ…」
「ふーん、綺麗なのにね」
セオは背が低く、150cmほどしかありません。
(セオの身長になれば、私にも愛嬌が生まれるのかしら)
対して、ルーラの身長は高く、170cmを超えていました。ルーラにはコンプレックスでした。
「行くよ、セオ」
「うん」
ルーラとセオは立ち話をやめて、生徒たちのいるところまで行きました。
魔物のいるという洞窟に永遠の世代の生徒は入っていきました。
「暗いね」「寒い…」「怖いよぅ」「やっぱり死ぬのかな」「お国のために…」
生徒たちの色々な声が洞窟に響いています。その中で2人は並んで歩いていました。
「ねえセオ…」
「ん?」
「私、セオだけは助ける」
「え?」
洞窟の奥からドォオオオンという音が聞こえてきます。
「魔物がいるわ、セオ、お願い
みんなを逃がしてほしいの」
「どうして…」
「お願い」
「分かった、でもルーラは…」
ルーラは1人で洞窟の奥に足を進めていました。セオの声はもう耳に入っていません。
洞窟の奥には巨大な竜の魔物がいました。ルーラは奮闘しました。魔法を使い、逃げる時間を稼ぎました。1分くらい闘った後でしょうか。ルーラは魔法でも治せないほど巨大で深い傷を負ってしまいました。ルーラは入ってきた方から聞こえる断末魔に、セオの声が混ざるのを聞きました。
「セ…ゲホッゲホ」
むせたときに当てた手には血がべっとりとついていました。
「みんなを…救わなきゃ」
ルーラは自分の持てる全てを使って最後に攻撃しました。入ってきた方向から聞こえたドサッという音に、安心しました。
(これで、私が死んでも…)
ルーラはセオが生き延びてほしい、と言う幻聴を聴きました。母が死なないで、と言っている幻聴も聴きました。その全てを生み出したのは自分の死にたくない、という思いからなんて思いもしませんでした。
(死んじゃだめ、死んじゃだめ…死んじゃ、だめ…死にたく…
死にたくない…死にたくない、死にたくない死にたくない…!!)
ルーラは生きていたいと強く、強く願いました。
「じゃあさ、キミが今魔法使いの誇りを持って死ぬか、プライド捨てて不老不死になるか
どっちがいい?」
神様が言いました。意地悪そうにニヤッと笑っています。
「死に、たく…ない…!」
ルーラは精一杯叫びました。