入学式Ⅲ
投稿しまーっす(*'▽')
「さ、行きましょう。講堂は校舎の裏側よ。ほら、二人とも急いで。ボーとしない!」
遅刻するわよ?と言うと、夏樹は軽い足取りで歩き出し始める。
誰に対しても言葉使いは丁寧な彼女だが、圭吾と修一の二人に対しては長い付き合いということもあり、遠慮がなく、凄く厳しい。だが今はそれだけではなく、普段はしっかり者の少女だが、今日は、心なしかうきうきしているようだ。入学式ということもあり、彼女も普段通りにしているつもりが、やはり気分が高揚しているのだろう。
歩き出した夏樹の胸裏ポケットからピローンッ!と着信音が鳴る。
何だ? と修一と圭吾が首を傾げると、夏樹は気付いたように胸裏ポケットからピンク色の可愛いスマートフォンを取り出した。
「ああ、御免なさい。私、友達が待っているから、先に行くわね」
「夏樹ちゃん! スマートフォン買ってもらったの!?」
前は確かガラゲーだったはず…!
「ええ。高校生にもなってガラゲーはないだろってパパが新しく買ってくれたの!」
嬉しそうに答える夏樹に、心底羨ましそうな顔をして見ている修一。
しかし、横から不敵な笑みをした圭吾が、ふっ、とわざとらしい鼻息を吐いて割り込んでくる。
「ふふふ、実は、俺も買って貰ったんだ」
「なっ!」
修一に見せびらかすように圭吾が青色に輝くスマートフォンを取り出す。
「夏樹ちゃん 今度、携帯ショップいこうぜ!」
「うん、いいわよ!」
そんなやり取りを、時代に、文明に取り残された原始人のように呆然とする修一。ちなみにだが、修一も一応携帯電話は持っている。しかし、それは時代遅れのパカパカと開くガラゲーと呼ばれる古い機種なのだ。だってコストが安いから。
「じゃあ、後でね」
そう言い残すと夏樹は、体育館の方に小走りで行ってしまった。
圭吾も「じゃ! あとでな!」と言い残して先に行ってしまった。
そんな二人の後ろ姿を修一は何度も手を振りながら、遠ざかる夏樹と圭吾の後姿を久方振りの邂逅のように、二人ともしっかりと先にいるんだな、と懐かしむように。
修一と夢原夏樹、悪友であり親友の近郷圭吾の出会いはごく普通の平凡なものであった。
修一は小学就学前の幼稚園に通っていたころ、母方の地元である大阪の泉南市に引っ越してきて、地元の京都の幼稚園から転園して通い始めた幼稚園で三人は出会ったのだ。
『ねえねえー きみって、いつもひとりでえほんよんでるけど、たのしいの? もしよかったら、いっしょにあそばない? あそぼぉよー! あ、わたしはー なつきっていうの!よろしくね!』
『なつきちゃん、なにしてるの? いっしょにおそとであそぼぉよ! あ、きみもいっしょにあそぶ? ぼくは圭吾っていうの!よろしくね!』
京都から引っ越してばかりの頃の修一はとてもインドア派で、外で皆とワイワイと遊ぶより、一人で絵本を読んだり、一人でぼーっとしていることが好きな静かな子であった。そんな修一のインドア世界から半場無理やり外へと連れだしたのが、この圭吾と夏樹であった。
それが仲良くなったきっかけだった。
ごく普通の平凡な出会いであった。
その日の幼稚園手帳には「修一くんはとても楽しそうに遊んでいた」と記述されていたそうだ。
その日の夕方、迎えに来た修一のお母さんは外で楽しそうに遊ぶ修一の姿を見て、とても驚いた。
いつも迎えに来たら、保育室で一人で絵本を読んでいることが多かった修一が、今、目の前で友達と楽しくかけっこをして外で遊んでいるのだ。それも凄く楽しそうに。
三人で楽しく遊ぶことが多くなった修一たちは、お母さん同士も凄く仲が良かった。気が付けば、一緒に居ることが当たり前だとさえ錯覚するようにまでなったのだ。そのまま幼稚園を卒園、小学校へと入学を果たした三人。いつも楽しそうに三人で仲良く遊ぶその姿はとても幸せそうだった。
やがて小学校も卒業して同じ地区にある中学校へと進学すると三人は思っていたのだ。修一もそう思って信じていたのだが、ある事件をきっかけに小学校三年の時に突然転校することになった。
《鬼瓦寺院消失事件および失踪事件》
修一のお爺ちゃんが住職を務めるお寺と、その家族が跡形もなく消え去った謎の消失事件だ。修一はその事件の唯一の生存者となったのだ。
そしてそのまま修一は、ひっそりと引っ越していった。
僕は全てを秘密にして、黙ってキエルことにしたんだ。
消失事件後、僕は父方の親戚だった叔父夫妻に引き取られることになった。親戚の叔父さんはとても優しかった。僕の事を気遣ってか、凄く優しく接してくれた。その優しさに何度も泣いた。胸が締め付けられた。その優しさが本当に嬉しくて、本当に辛くて苦しかったのを僕は覚えている。
ある日、僕は決心した。本当のことを話そうと。だけど、その話す直前、僕は知ってしまったのだ。
その優しさは〝偽り〟であったことに。
半年も立つ頃から違和感があったのだ。段々と叔父夫妻からの風当たりが強くなったことに、僕は気づいていたけど、気づかぬふりをして偽りの家族を演じていた。なぜなら、僕はそうなってしまった理由に心当たりがあったからだ。叔父さんの家には僕のような養子ではなく、実の二人の息子「ケイタ」「ユウト」が居たのだ。
ケイタもユウトも大のゲーム好きで毎日のようにゲームで遊んでいた。当然の様に成績も悪く、家に帰ってはゲームばかり。家の手伝いなど一度もしたことがないような息子たちだった。
それに比べ、僕は叔父さんや叔母さんに良くしてもらった孝行として恥ずかしくない様に頑張った。勉強は凄く頑張って、毎日お手伝いもした。インドア派だった僕は勉強は苦でもなかった、それに圭吾と夏樹とよく外で遊んだので運動も得意だった。
僕は二人とは真逆と言っていいほどだった。
これは仕方が無いことだ。やっかみを受けるのは仕方がないことだと僕はそう思っていた。どんなに冷たくされても、それは仕方のないことだからと全てを諦めていた。あの日までは……
その日の夜、僕は叔父さんとお話をするために叔父さんの部屋へと向かった。
夜も遅かったので「流石に寝てるかな」と思って、皆が起きないようにそっと叔父さんの部屋へと向かった。もし叔父さんの部屋に明かりが付いてなかったら引き返そう、そしてまた明日の夜、今度は事前に伝えてから部屋に向かおう、とそう思いながら僕は叔父さんの部屋へと向かった。
叔父さんの部屋に明かりはついていた。
僕は決心して扉をノックしようと叩こうとした時、中から叔父さんが笑い声が聞こえてきた。
「おぉ…! 入ってる入ってる…! ぐふふふふ……」
僕はそおっと扉の隙間から中を覗き込んだ。そこでは叔父さんが一心不乱に何かを見ていた。それが僕の通帳だと気づくのにそう時間はかからなかった。
いつも笑顔な叔父さんが、その時だけは……その笑顔がとても不気味に見えた。
「ふふ……さすが住職だ。保険金や保証金、それに…これは復興資金に寄付金かな? 今月も、また大金が振り込まれてた。それもこんなにたくさん…! ぐふふふ…あのガキを引き取って正解だったわ」
(何を言ってるの…? 叔父さん…)
僕の頭の中が一瞬で真っ白になった。
「ほんと、引き取って正解だったな。羨ましい限りだよ。 なんせ、あのガキ一匹引き取るだけで、こんなに金が入ってくるとはな! 俺が引き取っておけばよかったぜ! これが棚ぼたって奴か? 百歩クリスマスにしても景気が良すぎる話だぜ!」
「ぐふふふふ… まぁ先見の眼の差って奴だな!分け前くらいはくれてやるから我慢しろよ?」
「わかってらー! それにしてもよ……ほんとやべぇくらいため込んでのな。 お前の兄貴夫妻よ」
「ほんとに、えらーくため込んでやがったぜ! さすがは兄貴だわ!俺と違って金勘定しっかりしてやがるぜ!」
(…………叔父さん… 何を…言っているの…?)
「寺が消えた時はさすがにびっくりしたけどよ… こうして金が手に入ったのだからな。後がよければ全て良しってことじゃないか? ハハハ」
その後のことは、僕は知らない。ただ僕は急いでその場から立ち去ったのを覚えている。本当に怖かった。そして理解したくなかった。僕を引き取った理由がただの「金」だけが目的だったなんて… あの優しさは全てが偽物だったなんて… 知りたくもなかった。
その次の日からも普通に接してくれる叔父さん。
それが凄く怖くて、恐ろしくて、たまらなくて、初めて僕は叔父さんを拒絶してしまった。
その姿をみた叔父さんは、黙って僕の顔を見つめて「昨日のこと。見たんだね?」と聞いて、そのまま黙って立ち去っていった。
それ以来、叔父さんは僕に近づいてくることは無くなった。
元々叔父さんの奥さんは僕に対して厳しかった。はじめは僕の成績のいいテスト点数を見て「頑張ったね!」と褒めてくれていたけど、今では褒めるどころか「何? 当てつけ?」と怒られるようになった。はじめはよく料理を作ってくれていたけど、今では500円玉と置手紙で「コンビニ弁当でも買って食べなさい」と書かれ、置かれているだけに変わった。僕を放置して叔父さんたち家族で外食に何度も出かけていくようにもなった。
そして、中学に進学した頃、僕は家を出た。
僕の通帳口座とキャッシュカードを持って。
叔父さん夫婦には「お世話になりました」と言ったら「やっと出ていく気になったか」「もう中学生なんだから、一人で生きられるわね!」と簡単に認めてくれた。というより、速く追い出したかったのだろう。半場、追い出されるように家を出た。
そしては僕は、母親の地元であった泉南に帰ってきた。
叔父さんの名前を借りてアパートの一室を借りることが出来た。
幸いにもお金には困らなかった。
お父さんもお母さんも、僕の為にたくさんのお金を残してくれていた。僕が何不自由なく大学卒業まで通えるだけのお金を。本当に僕の胸が張り裂けそうになった。嬉しくて、それと同じくらい悔しくて、辛くて、苦しかった。だけど、そんな僕を助けてくれたのが、圭吾と夏樹だった。二人は突然転校して消えた僕に、何も聞かずに、昔みたいにまた仲良くしてくれた。本当に嬉しかった。
「おーい!しゅーいちー! さっさとこいよぉお!写真撮るぞぉー!」
遠くから圭吾の僕の呼ぶ声が聞こえる。
何時の間にかうつ向いていた顔を上げる。そこには講堂前で手を振る圭吾の姿が見える。
「さっさとー! こいよー! 写真ー! とるぞおおーー!」
(本当にあの二人には感謝の言葉以外ないよ。というよりも、見つからないよ!)
今の僕がいるのはあの二人のおかげだ。
僕にとってあの二人は、家族みたいな存在だ。だからこそ、大切にしよう。今度こそ失わない様に。
「わかった! すぐいくよ!」
修一は久しぶりに出した大声で元気よく返事を返し、そして走り出した。
大切な友人が待つ場所へと。
「面白い!」
「続きが気になる!」
と思ったら、是非ともその清き指先でご評価してくださると嬉しいです!
ぶっちゃけ、モチベーションアップにつながりますので評価してくれると凄く嬉しいです!
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