不満と悪意、動き出す野望
投稿します。
1話に纏められませんでした…( ̄◇ ̄;)
二話構成になります。
「——だから納得いかねぇってつってんだろ!」
一人の若い男が円状に並ぶ円卓の中心にして一番豪華な装飾のされている席に座っている初老の男性に詰めり、バンッと机に両手を叩きつける。
「き、貴様! 若輩者である貴様がこの名誉正しき円卓会議の場に入るだけではなく、我らが会長に罵声を浴びせ近づこうとは……何たる不遜な態度か! 恥を知れ、バカ者が‼」
周りの円卓に座る十二人の幹部らしき男たちが会長と呼ばれる初老の男性に殴りかからんとする勢いで怒号を浴びせる男に無礼だ、不遜だと怒るが、男の怒りは一向に収まることはなく、やがて若い男と円卓に座る幹部らしき男たちの激しい言い合いへと発展する。
しかし、そんな怒号が飛び交う中。会議に乱入してきた若い男から怒声を浴びせられた張本人である会長と呼ばれた男は、今も目の前で怒鳴り散らしている男と円卓上の幹部との言い分に口を挟む様なことはせず、ただ静かに静観しているだけであった。
暗い部屋で光る、赤く鋭い眼光。その鋭い眼光はまるで獲物を狩る獣の様に鋭く、子供は泣きじゃくり、大人であっても思わず恐れおののいてしまうほど、研ぎ澄まされた凄みと威厳を感じさせる。
暗闇に僅かに光が差し込む薄暗い部屋の中。男たちの赤く鋭い眼光だけが薄暗い部屋で色濃く闇に映り、若い男の怒声とそれを注意する怒声が部屋の中で響き渡る中、会議が進んでいた。
やがて若い男の発言は、会長と呼ばれる初老の男性に向けられた罵声にもとれる言葉へと変わった。円卓に座る幹部らしき男たちはそれを不遜だ、無礼だと若い男を罵り、謝罪しろと激しく言い争っていた中、遂に我慢の限界を超えた初老の一人が座っていた席から立ちあがって若い男に詰め寄り、その手を胸倉へと伸ばし掴み上げようとした時……
「少し黙らんか。この場は話し合いをする場だ、喧嘩なら他所でやれ」
同じ円卓の席に座っていた初老の男のドスの効いた低い声がエキサイトする男たちと一瞬で黙らせた。
その発言にさすがにこれまで怒鳴り散らしていた若い男も幹部らしき男たちも皆、男の低くドスの効いた声に静まり返る。
「……確かに俺が悪かったです… これまでの不遜な態度と発言を全て撤回し謝罪いたしますので、どうかお許しください——イグラス会長」
先ほどまで怒鳴り散らしていた若い男が幹部の男の威圧に当てられ、少し冷静さを取り戻したのか、先ほどまでの非礼に頭を下げた。頭を下げられたイグラス会長と呼ばれた男も、その謝罪を受け入れる。
目の前の若い男は普段はとても温厚で人格者な男なのだが、如何せん、感情的になりやすい傾向にあった。ちょっとしたことでは怒ったりしないが、どうしても納得がいかないときは、自分が納得するまで追求するのだ。そして、すぐに周りが見えなくなり粗悪で乱暴な態度になってしまう。それが無ければよかったのだが……とイグラス会長はため息を吐いていた。
「し、しかし…! 俺はイグラス会長のご決断に……とてもじゃありませんが納得できません‼ どうかもう一度お考え直し頂けませんか!?」
「そ、そうです! 俺たちも納得できません!」
部屋の後ろに控えていた黒色のローブを纏い、顔をフードの陰で隠した四人組の男たちが若い男に同調して会長に異議を申し立てた。後ろで控えていた男たちもまた、今回の議題に上がる会長の判断に不満があったため、若い男と共にこの会議に乗り込んでいったのだ。
冷たく重たい静寂が部屋に流れる。
やがて、円卓に座り、黙って傍観を貫いていた男がスッと立ち上がる。男もまた、皆と同じ赤い眼をしていた。その赤く鋭い眼光を細め、周りにいる男たちを一瞥し最後に会長に顔を向けた。
「イグラス会長。 私もこの者たちと同じく同意見でございます。新たに会長が結ばれる和平協定に関して異議がございます」
「…ガリル……」
イグラス会長が静かに男の名を口に出した。
会長に“ガリル”と呼ばれた男は黒いローブを身に纏い、闇夜と同じ漆黒の髪を短く切りそろえ、見た目からして好青年に見えるような若者であった。身長も180近くの高身長で細身の青年であったが、その青年の纏う雰囲気は円卓に座る初老の男たちと比べても遜色ない力を秘めたオーラを纏っていた。
円卓に座る男たちがほとんどが見た目が六十を超えた初老の男性で、その風貌とオーラから威厳を発しているのだが、その中で一人、二十代前半、十代にも見える若輩者でありながらも、この栄誉ある円卓会議の末席に座ることを赦された若き実力者の青年であった。
「ご無礼を承知で言わせていただきます。しかし、このことは最も会長がご存知のはずです。 奴ら人間は臆病で醜く、卑怯な連中です。 奴らが我らに行った件をお忘れでしょうか? 私は、とてもじゃありませんが……奴ら《機関》に所属する能力者は、信用できません!」
「…………」
「かつての結んだ和平協定はお互いに不利益となる場合のみに限り協力し合い、この件を解決すると言う者であり、《機関》と我々のよりよき関係を築くことが掲げられていました。しかしながら、その協定はお互いに干渉し合わないようにするための密約にも似た協定であった! 奴ら人間はその協定を口実に、我々を管理・監視しやすいようにコミュニティを作らせ、一か所に集めるための口実でしかなかった! ……そこまでなら、私もまだ我慢が出来ます。 しかし、奴ら能力者どもは、我ら吸血鬼を人間の社会から隔絶し、溶け込み平和に暮らしていた同胞を一人残らず、この狭き場所へと追いやったではないか!」
「ガリル様のおっしゃる通りです。奴ら人間どもは『世界平和』と掲げながら、危険の排除や駆除の名目で我々の同胞を何人も…! そんな奴らを……俺は信じられませ!」
「そうです! どうかもう一度お考え直し下さいませんか!?」
円卓の席に座るガリルと呼ばれる幹部が若い男の味方をしたことで、異議を唱える若い男や若い男に付き添い、この会議に乱入し、後ろで控えて待機していた男たちも息を吹き返すように会長へと異議を申し立てた。
この様子に他の座る十人の幹部たちも何を言っても無駄だと悟ったのか、黙って会長の方へと顔を向けることしかできなかった。
会長はそんな男たちの様子を見て、静かに目を閉じて考えを巡らせる。そもそも、こんな事態に陥ったのは会長が独断で《機関》からの提案を飲み込んだことから始まったのだ。
《機関》と会長率いるある組織との和平協定。
それが今議題に上がっている議案でもあるのだ。
イグラス会長は代々続くこの組織の長を務めている一族だ。
長は種の存続と未来を第一に考え、種を導く者としての責務が付いて回る。それゆえにイグラス会長は今回の《機関》からの申し出を独断で決意し、進めたのだった。
―—このままでは、我ら吸血鬼一族に……未来はない…‼
イグラス会長の率いる組織——かつて最強種と言われ、「完璧な生命種」とまで揶揄された種による組織だ。しかし、それは今は昔の話。人間と古き時代と共存し繁栄してきた種であったが、心無い人間たちの謀略と度重なる長き戦いでその数を一気に減らし、現代では絶滅種とされ、人間社会から切り離され、世間からは存在を消し去られてしまった種族の組織である。
その名を《吸血鬼委員会》と呼ぶ。
——《吸血鬼委員会》
吸血鬼のみで構成された組織。世界能力者管理機関とは協力関係にある人外生物の組織だ。
吸血鬼一族は古くから人間と交わって暮らしてきた古代から続く種族だ。外見的姿は人型であり人間との差異はほとんど存在しない。しかし、人間とは根本的に違う生物でもある。その人間との大きな違いは寿命の差である。人間の平均寿命がおよそ80年に対し、吸血鬼の寿命はおよそ10倍、800年生きるとされている。また、それは当然の様に個体差があり、中には1000年以上も生きる者もいるのだ。
外見で見分けることは、ほとんど不可能であるが、三つだけ人間とは違う大きな違いがあるのだ。
一つは先ほど申し上げた寿命の差だ。
吸血鬼は長命種であるということだ。長く生きる人間はおよそ九割が過去に吸血鬼と結ばれ、血が混じり混血種であった名残である。
二つ目は、瞳の色が人間とは違うのだ。
人間の瞳は人種によって異なる。黒色や青色、茶色などと様々な色の瞳が存在するが、赤色の瞳をした人種は吸血鬼以外に存在しないとされている。充血やフラッシュ撮影の影響によって瞳の色が赤色や青紫色に変化することがあるが、一時的なものでしかなく長く続くことはない。人間の瞳の色は虹彩の中のメラニン色素の割合によって決まるのに対して、吸血鬼の瞳の色はこれまでに吸ってきた〝血の量〟に大きく左右される。多くの血を吸っている吸血鬼ほど濃い赤色の瞳をしているのだ。
そもそも吸血鬼は、その字が示す通り“血”を欲する欲求がある。
それは人間の三大欲求である「食欲」「睡眠欲求」「性欲」と同じように血を吸いたくなる「吸血欲求」が吸血鬼には存在する。しかしながら、それは太古の古い時代と生きてきた吸血が持つ本能であり、現代を生きる吸血鬼は時代と共に進化してきているので、この欲求は弱くなっている。
吸血鬼=食人種というのは、昔の話でありここ数百年は人間の血肉を好んで食す者はいなくなったのだ。それ故に、血肉を食らわないと生きていけないという訳ではなく、食らわずとも生きていける種族なのだ。さらには長い歴史の中、人間と混り暮らしてきたことにより、さらにその欲求は弱くなったとされる。
そんな古き時より、人間社会に溶け込み暮らしてきた吸血鬼たちを一部の人間たちは危険視していた。
しかし、それでも手を出さなかったのは種族との圧倒的な力の差があったからである。
奴ら吸血鬼は人間より身体能力が非常に優れており、自身の身体を人型から蝙蝠の姿へ、蝙蝠から人型へと変化させる能力や能力者の血を吸うことで能力を奪う『吸血』など、生まれつきの「能力者」であもあるのだ。さらに吸血鬼の強さは生きた年数によって変わる。長き時を生きる吸血鬼ほど強き肉体と異能を併せ持って居り、まず間違いなく人間では太刀打ちすることはできないほどの力を秘めている種族なのだ。人間たちはそんな吸血鬼たちを危険視しながらも「完璧な種の形」として畏怖を抱きながらも尊敬し、共存共栄してきた。
しかし、そんな「完璧な種族」とまでされる吸血鬼にも大きな弱点があったのだ。
それは長き時を生きるが故の代償ともいうべき致命的な欠陥——種の繁栄だ。
吸血鬼は長き時を生きるが故に、その個体数は常に一定であった。死なない為に数が減ることがなく、種の存続を意味する「繁殖行為」自体が重要ではなくなっているのだ。そのため、吸血鬼は個体数が人間に比べれば圧倒的に少ない。
そもそも長命種は繁殖能力にあまり優れてはいない種が多い。
理由は一個体でほぼ永遠に近い年月を生きることが出来るため、子孫を残す行為である繁殖行為はあまり必要とされないのだ。個体数は少なくても一人一人が長生きする為、絶滅する心配はない。子孫を残す必要性が人間より重要ではないのだ。
それに比べ、人間は短命種に分類される。
短命種は繁殖能力に優れている傾向にある。一度にたくさんの子孫を作る能力や、毎年毎年にと子孫を作ることが出来るなど、繁殖行為は違えど、繁殖能力は長命種に比べ優秀である。
つまるところ、奴らは吸血鬼は人間に比べ、圧倒的に数が少ないのだ。
それを知った欲深き人間たちの行動は素直だ。特に顕著に現れたのが人間側で最も力を有した人たち「能力者」が筆頭となって吸血鬼狩りが始まった。
危険生物の駆除の名の元、吸血鬼狩りは世界各地で行われた。
女型の吸血鬼が居れば怪し奇術と扱う〝魔女〟として捕え、裁判にかけ拷問する――魔女裁判
それを庇う者がいるのなら、それは種に対する、ひいては世界の人間に対する裏切りであり神に対する背徳行為として裁判に掛け処刑する――異端審問
吸血鬼と何かしら関わりがあると判断されるだけで、問答無用で捕らえられて、拷問される。場合によってはその場で処刑されることなんて当たり前の時代が訪れた。
数に勝る人間は、能力者ではない一般の人間を唆し、吸血鬼狩りを推し進めた。しかし、吸血鬼側だってそんなことをされて黙っているはずもなく、やがて血みどろの長き戦いが幕を開けた。
結果的に言うと吸血鬼側の惨敗であった。
圧倒的な力を持つ吸血鬼も“数の暴力”と化した人間には敵わなかったのだ。
やはりというべきか、数に勝る人間は初めから優位に立ちまわっていた。
吸血鬼を殺せる兵器を作り、知恵を絞って、我が身すら焼く猛毒までも扱う。その行為はより残虐の限りを尽くしていた。
どんな強い者であっても、数という武力には敵わないという言葉がある。
吸血鬼たちは決して弱くはない。生まれ持っての力あり種族「能力者」の種族でもある。しかし、いくら強力な力が使えても、一度に何十人、何百人の命を奪える力を扱えても、それ以上に力と暴力と数で押され、吸血鬼は敗れ去っていった。
数を減らす両種族。
このままでは共倒れになる。否、間違いなく吸血鬼という種族はこの世界から痕跡すら消し去られてしまうだろうと思われていたその時、歴史は動いた。血生臭い戦乱の中、ついにその吸血鬼と人間の戦争に終止符が打たれる出来事が起こった。
人間の能力者組織《世界能力者管理機関》の誕生である。
世界中に散らばる異能宗教組織や能力者団体や一部の組織に加入している能力者たちを一同を集め、融合・合併した新しい全世界規模の大組織が誕生した。
吸血鬼は決して群れることはしない。嫌、群れることはあってもそれは家族という一族単位の枠でしか群れることはなかった。いくら個体的に優れていても、これまで小さな組織と少人数の能力者たちと抗争していた吸血鬼たちは、全世界の規模の機関所属である能力者たちの統率された働きによって、圧倒的強さを誇る吸血鬼も狩られ始めた。
どちらかが絶滅するまで行われると思われた吸血鬼との戦いは、人間側、それも《機関》からのある提案によって終止符が打たれたのであった。
『私たち人間が誇る《機関》所属の能力者と、貴方たちの誇る圧倒的武力を持つ吸血鬼が手を取り合えば、きっと世界は素晴らしい世界へと生まれ変わる。 私たち《機関》の能力者とともに、血みどろの時代を終わらせ、両種族で世界を平和へ導きませんか?』
あろうことか戦争を仕掛けた人間側から協定を持ち掛けたのだった。
お互いに協力し合い、世界平和を実現しよう、と。
吸血鬼たちの武闘派集団は断固としてこの和平協定を拒んだ。
いくつもの同胞が既に機関によって狩られていたからである。しかし、当時の長であった吸血鬼王は、人間と争っていても未来はないと考えており、結果、その申し出を受け入れたのだった。
その判断は正しかったのは分からない。
しかし、その和平協定を結んだことにより、戦いが終結したのは紛れもない事実ではあった。
例え、それが人間側の《機関》の策略であったとしても…
《機関》はまず、生き残っている吸血鬼を一堂に集め組織化することを要求した。
これまで吸血鬼は群れることはせず、それぞれ自由に暮らしていた。しかし、それは人間側にとっては何処に危険が潜んでいるか分からず、とても不愉快なことでしかなかった。
『《機関》は全世界規模の組織です。 組織は組織同士でしか和平も条約も結べません。——よって吸血鬼側も全世界に散らばる吸血鬼を一堂に集め、組織化し、管理してください。』
この条件を吸血鬼側は受け入れ《吸血鬼委員会》なる組織が誕生した。
言葉巧みに吸血鬼を騙し、吸血鬼勢力を一同に集めることに成功したのだった。これにより吸血鬼の個体数の把握、組織化されたことにより責任者の追求、組織の監視など、全てがスムーズに運ぶ体制が完成した。
次に《機関》が出してきた提案は…
『お互いが不利益を被らない様に、お互いに協力し合える条件を提示し、互いに協定内容を作りましょう』
吸血鬼組織の行動範囲の把握と制限を設けること。これが人間側の企みであった。
お互いが不利益とならぬように、お互いに条件を出し合うことで平等であるということを表明しつつ、相手の行動範囲を把握し、人間側は吸血鬼側の行動範囲内において危険だと思われる地域や《機関》の支部が置かれているため、必要なしと「不利益である」と異議を立て、それを飲ませた。
吸血鬼側の提示した条件は、機関が予想していた通り『人間社会への復帰』であった。
人間社会で生きることを希望する吸血鬼は多い。
それは吸血鬼にとって人間は生きる上での重要な存在となっていたからである。食生活のお手本でもあり、交わることで子孫を残すこともできる。吸血鬼は長い歴史の中で人間という種に依存して進化してきた種族であったからだ。
しかしながら、その条件を受け入れるには、その地域に住む人間の認可が必要となる。
いくら外見が似ていても、中身は人間を食らう食人種である吸血鬼の正体を知れば、間違いなく差別が、迫害が起きりうる。事実、吸血鬼だという疑いだけで火あぶりや斬首、公開処刑はよくある話であった。吸血鬼は自身が吸血鬼であることを隠し暮らしている。しかし、それは先日まで怒っていた人間との戦争で露見してしまっているため、また共に共存していくことは不可能に近かった。
《機関》はそれを見越しての和平協定であった
結果――これまで単体と一族単位でしか暮らしていなかった吸血鬼たちと一堂に集め組織化。その組織と協定を結ぶことによって、見せかけの「友好」と「協力」関係が完成した。
『臭い物に蓋をする』 まさに言葉通り、すべて《機関》の思惑通りに進んだのだ。
そもそも、和平協定は必ずしもが友好の証となるわけではないのだ。
表があれば必ず対となる裏がある。光ある場所に影が出来る。そして「綺麗なモノ」があれば必ず同じくらい「汚いモノ」があるといったように、必ずと言っていいほど対となるモノが存在するのだ。
建前上、和平協定という名の協力関係を結んではいるが、互いの利益共有と言って人間側の都合のいいように話を進めている。人間と吸血鬼、見た目は同じでも趣向も種族さえも違う。人間側にとっては危険な人外生物として分類される吸血鬼たちとも表面上では仲良く見せていても、裏では干渉しあわないように策を巡らせ、見える形として書面に記させた密約であった。
お互いに干渉しあわないとは、つまりは人間社会からの隔離を意味する。
それは吸血鬼がこれ以上進化を望むことが出来ず、共存どころか繁栄すらできないということだ。早い話が吸血鬼を滅亡させるための人間側の思惑であった。
長い歴史の中、吸血鬼は人間と触れ合い、共存し、進化してきた種族であった。そのため、進化の礎となる人間社会からの隔絶は吸血鬼側には大きな痛手となり、この和平協定は吸血鬼側にとって喉元に大きな骨が突き刺さる結果となってしまった。
こうして血生臭い時代は終わりを迎えたのだった。
『―—このままでは、我ら吸血鬼一族に……未来はない…‼』
先代《吸血鬼委員会》会長が残した台詞である。消えゆく命の中、床に臥せる実の父親であった先代会長が言い残していった教訓でもあった。
現会長であるイグラス・A・スチュワード。
先代が亡くなり会長になったイグラスは、先代の残したこのセリフに、言いようのもなく表現しがたい、どうしても拭いきれない恐怖に苛まれたのだ。
先代の残した教訓は実に的を得ていた。
事実、我ら吸血鬼は絶滅の危機に瀕しており、このままでは間違いなく絶滅するだろう。既に和平協定は両代表により締結されているのだ。コチラが一方的に不利益を被っていたとしても既に結ばれた協定である。故に協定破棄は赦されないのだ。
吸血鬼の種族柄、交わされた約束や契約は「絶対」を意味する。
人間には知られていないが、吸血鬼たちは何より「同胞」と「契約」を絶対視する傾向にあるのだ。仲間思いで家族思い。同種間での殺し合いはほとんど怒らない。数少ない同胞同士、仲間意識は人間とは比べものにならないほど強い絆で結ばれている。故に、いくら不満があろうと結ばれた協定を反故にすることはないのだ。
……だからこそ不満が溜まっていく一方的なのだが。
この協定が結ばれたのは300年前の話である。
つまりは、協定が結ばれ、協定の裏側を知る者は長命種である吸血鬼である我ら以外が知る由もない事実である。実際に、今回の新たな和平協定案を提案してきたのは《機関》からなのである。内容は前回と全く同じく『仲良くしましょう』の一点だった。
イグラスは、ふぅ、と内心ため息を吐いた。
正直これはさらなる人間側の策略ではないのかと疑いを感じていた。前科のある《機関》の能力者、ひいては所属する人間は正直信じることが出来ない。これは先ほどから異議を申し立てている若い男たちや倅でもあるガリルからの具申と同じ思いである。しかし、このまま何も行動を起こさず見送れば、この先に待つのは緩やか滅びへの道だけだ。
迷った末にイグラス会長は独断でことを決めたのだ。《機関》の申し出を受けるという事を。
それはあくまで会長自身が独断で決めたことであり、コミュニティには相談せず事を進めたのだ。当然の様にコミュニティ内で問題となった。そして現在、円卓会議の中、若者たちが乱入してくるという前代未聞の事態まで起こってしまった。会議に出席する権利を持つ幹部たちも、乱入者である若者たちを止めるそぶりは見せど、それを咎めることはしない発言をしていた。彼ら幹部たちも若者たちと同じで今回の私の独断に異議があったからである。
会長は静かに閉じていた眼を開く。
周りの幹部たちや倅、乱入者の若者たちは黙って会長の言葉を待っていた。
そして会長は意を決したように、はっきりとこの場に居る者たちに言い放った。
「これは私が独断で決めた決定事項である。 ―—我ら《吸血鬼組織》は《世界能力者管理機関》との新たな和平協定を結び、人間との共存する道を選択することとする。 よって異議申立ては認めぬこととする。 ——以上解散!」
これ以上何も聞くことはないとばかりに席を立ち、部屋を出ようとする会長。
その後ろ姿に幹部たちも乱入者である若者たちも必死に呼び止めようと騒ぎ立てているが、会長はそそくさと部屋を後にするのだった。会長の消えた会議部屋では、幹部たちと若者たちが意気投合していた。なんとか会長の意思をどうにかできないだろうか、と。
そんな中、幹部の皆に比べ若干二十歳にして円卓幹部へと上り詰めた会長の実の息子であるガリルは神妙な顔をしていた。
先ほどの会長の言葉は「独断で」の部分がやけに強調されていたことにガリルは違和感を持ったのだ。普段の親父は冷静沈着で何事にも他人をないがしろにするような人ではなく、常に他人を思いやることのできる出来た人だ。それゆえに幹部や若者からの信頼の厚い英傑でもある。
そんな親父にも一つだけ欠点、いや…頑固というべき部分があった。それは、先ほどのような一族の命運を決める会議において、全て独断で決めてしまうという所だ。
それこそみんなで話し合うべきじゃないのか、と思う所だが…オヤジはいつも一人で決めてきた。それは狩りに間違っていた判断だったとしても、責任者が多数より一人だったほうが何かと都合がいいのだ。つまり会長であるオヤジは全ての責任を自分が背負おうとするのだ。
(……独断で、か。 頑固者のオヤジらしい古い考えだ。何でも一人で決めて周りの意思は無視してしまうオヤジの悪い癖だけど、それは責任者をオヤジ一人になし付けやすくするための方便… 何でもかんでもオヤジ一人で責任を取ろうとするんだな……)
未だ会議室の中央で話し合っている幹部と若者たちを横目で見ながら会議室を後にするガリルであった。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
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