バイトを探そう!Ⅲ
投稿します。
僕は今、先生と向かい合わせで座っている。
先生がごちゃごちゃにしてくれた本棚の整理が終わり、普段奔放でふらふら歩きまわって遊んでいる先生が突然、家にやって来たので、その理由を尋ねてみたのだ。しかし、先生は僕の入れたレモンティが気にったのか中々本題に入ってくれず、しまいには「お代わりをよこすのじゃぁあ!」と五月蠅かったので、今は二リットルサイズのレモンティの入ったペットボトルごと渡している。目を輝かせてペットボトルに口を着けてそのままラッパ飲み…どんだけレモンティに嵌ってんだよ、と冷たい目線を送っているが、迷わずガブガブと呼んでいる。
しばらく飲んで満足したのか、ようやく本題を切り出したのだった。
「それでじゃが… わしがここに来たのはお主がお金に困ってると思ったんでな!わしがたまたまこんなもんを見つけたんで、もってきてやったんじゃよ!」
飄々を笑いながら懐から取り出した茶封筒を机の上に置いた。
差出人の記載がないA4サイズ紙が入る角2号の茶封筒だ。しかし市販の者より品質も良く、かなり上等な茶封筒だと分かる。
手に取って確認するが、何も書かれておらず、裏側をめくって見ると、今時珍しいタイプの封筒が使われていた。確か名称はクラフトパッカーと呼ばれる封筒で、封筒を閉じる部分を紐で止めるタイプだ。しかそこには表同様に何も書いておらず、ただ右下部分に十六一重表菊の紋章とWeDaと書かれたロゴが掛け合わせるように描かれているだけだった。
「なんだこれ?」
と、思いつつも紐を開けて封筒を開けて中を確かめる。
中には何かのパンフレットらしきカラー印刷されたチラシと申込用紙らしき二枚重ねの紙、少し分厚い説明書らしき紙が入っているようだ。
これは何?と先生の方に顔を向ける。しかし、目の前に既に先生はおらず、何やら台所からガタゴトと音が聞こえる。おそらく冷蔵庫や食器棚を漁ってつまみでも探しているのだろう。毎度のことなら勝手に台所を物色する先生にため息を吐きながら諦観する。
とりあえず、これが何なのか分からないので中身を外にぶっちゃける。
一番読みやすそうなカラー印刷のチラシには、モデルみたいな二人の美男美女がお揃いの服装をして空に指差し『来たれ能力者!』『次は君の番だ!』と煽り文句がつらつらと書かれている。この時点でこの封筒、もしかしてヤバい系じゃないのか?と疑い始めていた。はっきり言えばどこぞのオカルト宗教の勧誘チラシを見ている気分だった。
うへぇと思いながらも中に入ってあった書類を読み進めていくと、内容はどうやら今年度に行われる新人能力者試験の案内状のようだった。
『異能を受け継ぐ家系、その庶子の皆様方、また、《世界能力者派遣協会》により認定された能力者の方々に今年度の新人能力者選考ランク試験のご案内を申し上げます――――――――』
《世界能力者派遣協会(World Employee Dispatch Association)》
それは、通称【協会】と呼ばれている能力者だけが所属する機関が存在する。
先生のような仙人や異能を扱う者、霊力魔力といった力に覚醒した者を一様に『能力者』と呼ぶ。
そんな能力者を集め、異能者の管理、危険宗教組織の監視、派遣を行う全世界規模の機関。
世界的に有名な能力者として挙げられるのが『祓魔師』だ。
人間に憑りつき悪さをする悪魔を祓い清め、儀式を行う者と世間から認知されている。少し趣旨が違って来るが日本にも似たような異能を持つ能力者が存在している。霊媒師や死者の口寄せを行う巫女『いたこ』などが当たる。
しかし、世界には認知されていないだけで異能を使える者が意外と多いのだ。
例を挙げるとすれば、僕の様に事故や事件に巻き込まれたショックで異能が覚醒する場合や、ある日突然、異能に目覚めるパターンだってある。元々、生物は潜在的に何かしらの力を持って生まれてくる。それを引き出せるか、引き出せないで一生を終えるかの違いだ。親が異能を使える能力者の家系なら、子も当然の様に異能に目覚めし、異能を引き出すことが出来るようになる。世界には、そういう異能系統の力を受け継ぐ家系がたくさん存在しているのだ。
『人は誘惑に弱い生き物である———』
誰かが言ったこの言葉は、実に的を得ている。
突然、権力を手に入れた人が権力に溺れ、暴走するように……ある日突然、力に目覚めた者はその力を振うようになる。人とは違う力を手に入れた人は闇落ちするか、自分を偽り社会で生きるかのどっちかだ。後者の考えを持つ能力者ならいいが、全員が全員、後者のような考えを持つ者だけではない。力を手に入れたのなら、力を振るいたくなるのが人の情だ。
そんな能力者たちを律するために作られた全世界規模の組織が《世界能力者管理機関》なのだ。
しかし管理するだけでは組織は成り立たない。
そもそも組織を運営するには莫大な資金が必要となる。
そこで機関は考えた。
能力者が能力を振るえる場所を提供すればいいのだと。
それが人の助け、延いては世界平和の為なら尚良し。
機関は〝大義名分〟を手に入れたのだった。
そこで誕生したのが機関から派生した新たな組織《世界能力者派遣協会》だ。
《世界能力者派遣協会》 通称【協会】は所属する能力者の異能の種類から戦闘力、利便性からその者に応じたランク付けを行い、そのランクに似合った地域に人材を派遣することによって、財を成したのだった。それが現代でも世間的には認知されていないが、国際社会の中では既に認知されている全世界国家公認の機関なのだ。
その《協会》から新人派遣員を募集する案内状を包んだ封筒だったようで、それを先生がどこからか仕入れてきたようだった。
(でも… 何故コレを僕に届けるのだろうか…)
確かに読んでいくと分かるが、派遣という割にかなり報酬が良い。最低等級の『F』であっても、一度の派遣で報酬が軽く一月暮らしていけるだけの資金を得られる。高ランクの報酬は、眼が飛び出しそうな金額設定がされている。思わず金に目がくらんでしまう所だ。しかし、報酬が高いという事はそれなりに危険だという事で、最悪命を落とす危険もある派遣現場に飛ばされるそうだ。
「さすがに命を落とすのは嫌だなぁ~」と思いながら読んでいると、説明書にFAQがあった。そこには僕の疑問の答えが乗ってあった。FAQによると、どうやら派遣指令は絶対ではなく、あくまで任意だそうだ。自分の力が通用するかどうか、自分で決めて現場に向かう任意制であり、その派遣現場で大けがをしても、例え死んだとしても、それは派遣員の自己責任であるという事だ。つまりは、必ず派遣現場に行かなければ行けない訳ではなく、拒否する権限もある。
僕が「んん~……」と悩んでいると、先生が台所漁りを終えたようで、手には棚奥に隠して置いたおつまみシリーズが握られており、机に戻ってきた。
「なんじゃ? まだ悩んでおるのか?」
「んん~… 悩みというより…僕は別に所属しなくてもいいんじゃないかなぁって思ってね。僕の能力は戦闘系でも召喚系でも、ましてや特殊能力でもない、ただの治癒系統の能力だから… それも微弱な力だし… そんな僕が所属してもいいのかな…? いや、所属する必要がないんじゃないかなぁ~って…」
確かに僕は霊力が覚醒して人より多少頑丈で身体能力も上がっているけど、何分微力な霊力なもので、ほとんど常人と変わらないスペックなのだ。それも戦闘には不向き…むしろ真逆と言っていい治癒系の霊力質なのだ。それに僕の霊力は普通の人より、それはもう圧倒的に少ないので…精々掠り傷を治すのが関の山なのだ。
能力者の大半は霊力や魔力といった力の覚醒することによって身体能力が向上するのだ。と言っても、個人差が存在するし、急激に身体が成長し、筋肉モリモリマッチョマンになるわけではない。異能を発動時に常人の、数値にして3~5倍の身体能力を発揮することが出来るようになる訳だ。当然だが、異能の種類によってその上昇値は上下に変動する。
純粋な心身強化の異能であれば、その上昇値はもはや怪物クラスと言えるだろう。逆に特殊異能系や召喚術師系統は常人より、逆に弱くなる場合がある。
特殊異能系・召喚術師系統の能力者は自身の力の源である霊力や魔力といった力を身体から大量に放出する為、体内の力の濃度が著しく低下するのだ。その為、宿主である人が弱くなってしまうのだ。
と言っても、ケースバイケースだ。
中には召喚術師なのに恐ろしく身体能力値が高い人もいるし、同じ召喚術師系統の派生である霊剣師は霊剣や魔剣といった武器を召喚を行って戦うが、召喚師自体は弱体化することはない、むしろ強化されるのだ。人の数だけ個性があるように、異能もまた、様々な種類や効能が存在しているのだ。
「……修一。まあ、まず現状を確認しようかのぉ」
「どうしたの…?藪から棒に…」
「修一……! お主、今の現状は分かっておるな? お主は今、金に困っておる…そうじゃな?」
「……う、うん…」
「お主には親が残してくれた金はあるが、それはお主の金ではない。お主の父母が残してくれた大切なお金じゃ。それをお主は私利私欲の為には使わぬと誓ったのではないか?」
「ま、そうだけど…。」
学費は仕方がないとしても、せめて生活費くらいは自分で稼ぎたいと思ってたし…
「…その誓いを立てるときに、お主は一人で生計を立てるというものであったのでないか。お主はその誓いを、お主自身で決め立てたのじゃ。 それは、お主自身の力で成し遂げんと喜んで心に受け入れたというわけじゃ。ましてや、男に二言はない。」
「………」
「なら、使える物は使うのが世の常じゃありゃせんのか? お主は霊力を持っておる…! わしの元で幾年にもわたって修行した身じゃぞ?」
……ん? いや…修行は見てもらったけど…結局、匙投げられたような気がする。というよりも、幾年って…そんなに長く見てもらってないわ!最初の一年で「才能なしじゃ!」と匙投げた奴がなにいうてんねん! ……まぁ多少は教えてもらったけど、実質ほとんど独学に近かったような…。
「男なら使えるもんは何でも使うのじゃ! 金が必要なら身体を使って稼ぐのじゃ!」
「いや… 別にそこまでして稼ぎたいとは思ってないんだけど…」
「甘い!甘いのじゃ、修一! 男なら、金を稼いでなんぼじゃ!財力無くして女子はよってはこぬぞ?」
「……な、な…!(な、なぁ〜にぃ〜⁉︎)」
お、女の子ってそうなのか!
や、やっぱりお金なのかな!?
「女子は、金のある男に惚れるものじゃ! 今のお主は親のすねかじり!ダメ男じゃ! 小さな賃金でちびちび稼ぐより… 男らしくドンッと稼ぐのじゃ!そして育ての親であるわしに仕送りを送るのじゃ! 恩は返すものじゃ!」
先生の後ろからドドンッ!と効果音が聞こえそうだ。
そうか…やっぱりお金は一番重要なんだ! そう思わせるような力説だった。
しかし、修一は先生の言葉を一言一句思い返していると、ある違和感に気づいた。
「……ん?」
おい、ちょっと待て…?
「金!女子!…そして受けた恩! その三つは男を形作る大切なことじゃ! お主はそれを覚えねばなららのじゃ!」
百歩譲ってお金はわかる。大切だからね…。
だけど、他二つは要らなくないか?特に受けた恩って… たしかに恩は受けましたけど… 思いっきり途中で見捨てられたような…?
「お主はお主自身を鍛えるために、自ら死地へと向かい!そして金を稼ぎ、わしに恩返しをするのじゃ!それはやがてお主自身の為にもなるのじゃぞ! さぁ働け!稼ぐのじゃ!そして仕送りをするのじゃ!」
……あれ? 雲行きが怪しい…ぞ…?
(もしかして、先生は僕を使って金稼ぐつもりじゃ? 僕をATM化する為じゃ…?)
「ま!そう言うわけじゃから…わしはもう行く! しっかり稼ぐのじゃぞ! そして仕送り…ゴホンッ! 恩返しをするのじゃぞ! わかったな、修一よ!」
「……ねぇ先生。もしかしてだけど… って、……あ!」
僕が先生にそのことについて言及しようとした所、先生は既に目の前におらず、ベランダへと続く窓際まで移動していた。そして窓をガラガラと開けて…「さらばじゃ!」と捨て台詞を言い残して、窓から飛び降りていった。
(……間違いないな。)
僕は確信したぞ!
先生は僕をATM化する気だ!
なんて先生だ…!
でも、確かに先生のいう事にも一理あるかもしれない。
確かにお金が無かったら例え彼女が出来たとしても遊びに行くお金が無かったら… そ、その…楽しめないだろうし、愛想付かされるかもしれない。僕だって身体は小さくとも健全な男の子だ。思春期真っただ中の高校生なんだもん。 そ、その…か、彼女は欲しいし…今後の生活のことを考えると親のお金で暮らすより、少しでも自分の稼いだお金で暮らせるようにならないと…。
そんな思いが僕の中を巡り巡って、頭の中がぐわんぐわんしてきた。
(考えるのは後にしよう… まだ四月だしね。)
外を見ると、既に陽が傾いており、空が茜色に染まっていた。時計を見ると短い針が五の数字を指している。時刻は夕方の五時を少し過ぎたくらいだ。外からはどんどんっと扉をたたく音が聞こえる。
「修ちゃん~ 今日も夕食作ってみたから一緒に食べない~?」
一階に住んでいる高橋さんが夕食の誘いに来てくれた。やっぱり一人で悩むよりも誰かに相談することにしよう!そうと思ったら、高橋さんの作ってくれた夕食を食べながら相談だ! そう自己解決した僕は扉の前で待ってくれている高橋さんの元へと歩き出した。
「や、やばいよぉ!」
「す、すげぇよぉ!」
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