喰われちゃった。
のわああああぁぁっっ!!!!
死ぬぅ!!死んじゃうぅぅ!!!!
『現時点であの熊、正式名ムーンサークルベアとの勝利確率0%と推測。』
いやいや!!
分かってるんだったら手を貸してください!!
て言うか正式名を今ここで言う必要あった!?!?ツキノワグマを英語っぽくしただけだろ!!
勝てなくても良いからぁ!逃げても生きてりゃ良いからぁ!
『逃げる事は不可能です。』
あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"
ど、どうかぁお慈悲をぉぉっ!!
『ご臨終です。享年0歳と22時間』
クソォぉぉ。
くっ!仕方ない。弾けろ!マイプルプルボディッ!
ぽよンと身体をうねらせて兎が如く跳ねる。
そのマイボディが飛来してきた石が当たってパンッと音を立てて弾け飛んだ。
その意味で弾けちゃダメぇぇぇ!!!!
「し、死んでたまるか〜!!」
石が当たったおかげで一応距離は稼げた。
身体の一部分だけを伸ばして、近くの木に掴まり、思いっきり引っ張る。
おわああああぁぁぁっっっ!!!
ビチャッと生々しい音を立てて体液が飛び散る。
『現体積、初期値の約64% 20%以下に陥ると死亡します。』
いいからぁっっ!!そういうのもういいからぁぁ!!
だが、木に激突して体液は減ったが、結構上の方に引っ掛かる事が出来た。
ふっ‥‥‥計画通りだ。
『‥‥‥。』
地上で熊が俺のことを見上げている。
「ハッハッハァ!!どうしたぁ?来てみろよぉ?」
俺は悔しそう(俺主観)にしている熊へ向かってビシッ!!と中指を立てる妄想をする。
『‥‥‥。』
フハハハっ!所詮は獣よっ!人間様の知恵に屈するがいい!!
そうやって俺が泥の身体を精一杯使った珍妙な動きで、熊を煽っていたときだった。
一旦諦めた様に離れた熊がまるで突進する溜めの様な前屈みの態勢になっていた。
『‥‥‥ハァ〜。』
どうしたんだい?さっきから?溜め息をつくと幸せが逃げるよ?
『‥‥‥あの熊はこの辺りで一番凶暴で粘着質な獣です。
狙った獲物は相手が格上だろうが兄弟だろうが喰らうまで死ぬまで粘着します。』
は〜それまた厄介な。
あれ?と言う事は現在狙われている俺は‥‥‥?
『はい。確実に殺されるまで、追いかけられます。』
マ、マジデスカー。
俺はチラッと熊に意識を向けると、唸るように威嚇して来た。
『これが実戦を経験した熟練の兵士であれば、その身体の動き方をすぐに掌握して、経験で熊ごとき瞬殺します。』
え?この泥みたい身体で?
『はい。』
は?何?俺以外はガチチートな奴等ばっかって事?
『いえ。せいぜい全参加者の1000分の1程度ですね。
ですから彼等を目標にこの状況から生還しましょう。』
え?それってどういう意味——————
「ガアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
熊の咆哮が鳴り響くと同時に、俺がいた木がグワングワン揺れまくった。
落ちないように木にしがみついて耐えていると、唸り声が真下から聞こえてくる。
どうやら巨体を活かして体当たりを繰り返しているらしい。
「グオオオオオオオオッッッッ!!!!!!」
一際大きな雄叫びが聞こえると、嫌な音を立てながら俺がいた木が折れた。
ちくしょぉぉ!!
地面に落ちた俺はまた全力で逃げる。
気のせいかさっきよりも移動速度が上がっている気がしたが、そんな事気にしている余裕がない。
『フレ〜フレ〜熊さん。』
熊の方を応援するんじゃねぇ!!この鬼畜野郎!!
『野郎ではありませんよ。生物的に言えば雌ですから。』
さっきと同じような反応するなよ!!
そんなの今の状況ではどうでもいいんだよー!!!!
後ろからドタドタと音を立てて迫ってくる足音が聞こえないのか!?怒りの形相でメッチャ走って来てるのが見えないのか!?
『見えてますけど、それがどうかしましたか?』
見えた上でその反応!?俺はMじゃ無いんだよ!!
パシンッ!
あふんっ!!
身体を何かで叩かれたような痛みが襲って来て、移動方向とは見当違いの場所へと弾かれた。
チラッと後ろを意識すると、直前まで俺がいた場所にちっこいけど蜘蛛の巣状にひび割れたクレーターが出来ていた。
お、おう。いきなりふっ飛ばされた時は何事かと思ったけど、助けてくれたのかい?
『貴方ごときが天上も天上の存在である神になれるとは欠片も思ってませんが、ある程度の存在になれば私の神からの評価も上がるでしょう。』
どこの営業!?神の下僕みたいな奴等はそんな会社みたいな仕組みの中で生きてんの!?
『いえ、アイドルに群がるファンみたいなものですね。
ただしそのアイドルの覚えが良ければ、他のあらゆる事も有利になるオマケ付きですが。
そんな事より、もう初回特典【助ける券】を使ったので私にはもう何も出来ませんよ?』
一回限定かよ!?
ケチだぞ!!
「グオオオオオオオオッッッ!!!!」
ウオッ!!
熊の咆哮が周囲をビリビリと振動させる。
いつの間にか近づかれていて、凄まじい速度で熊は前足を叩きつけてきた。
掠るほどの距離で振り下ろされた豪足は、俺の身体ごと空中に吹き飛ばす。
直ぐに触手を伸ばして逃げようとするが、近くに木が無い。
ならば、と触手を地面にくっつけて逃れようと、身体を変形させようとした。
え?
目の前(?)には熊の口内にある鋭い歯が、360°ある俺の視界のほとんどを埋め尽くしていた。
あ‥‥ヤベ。
ゆっくりになる思考の中、身体に歯がめり込む感覚が鮮明に感じられた。
バクゥッ!!
そのまま俺は身体の大半を熊に喰われてしまったのだった。