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 うっそうとした森に、冬の夕暮れが慌ただしく夜の(とばり)をおろした。木々から時より、こぼれ落ちる雪はウサギの足跡も途切れさせ、すぐに静寂が流れた。わずかな明かりさえも隠そうとした帳を追いかけるように、ソリを引いていたドワーフも悠然と穴倉に戻っていった。白に塗り替えられようとした森は、小さな獣さえも隠して漆黒に包まれた。空には厚い雲が多く、今にも天から白銀が舞い降りそうであった。

 黒々とした木々の中から、ぼんやりとした光が一瞬小さく照らしたが、吸い込まれるように暗闇が覆い隠した。森のはずれを凝視すれば、平屋の角から柔らかい白い煙が昇っていた。この寒さに耐えられる窓は木製のはめ戸であり、この家自体、頑強に太陽の明かりすら拒む作りであった。

 ログハウスには大部屋が一つ、小部屋が二つあった。大部屋には暖炉が備え付けられており、今も薪が燃え盛っていたが、小部屋はその暖炉からのぬくもりを分けてもらうほどしか暖かくなかった。

 入口からほど遠い、小さな部屋には子供が一人、老婆が持ってきたランプを見つめてベッドに横になっていた。小さな丸めた髪を枕へとしまい込んいたが、時間を持て余すのか、昼間に外に出たことや、森のはずれで別の子供たちと歓談したことをランプが置かれている足の細い木台越しに老婆へ話していた。老婆は黙って耳を立て、時々ランプの()に合わせて首を揺らした。そして、時を刻んで飴色に変わった揺り椅子に弾みをつけた。

 女の子は言いつけ通りにすっぽりと被った布団の端を持ち、その姿勢を崩すことなく、丸く青色の小さな目を明かりへと向けた。

「おばあちゃん、また、昔話をしてほしいの」

「どの、昔ばなしか……。あの、話か……」

奥に詰まった声はなかなか出てこなかったが、活気を取り戻した喉からは、その年さえも忘れさせる流暢な言葉が踊りだした。

「エレナ、また、ユーリンの話かい。冒険の話は、いろいろしてやったが、どれも楽しいし、長いからの――」

「おばあちゃん、初めからがいい」

「ユーリンの戦いが好きだったんじゃなかったのかい?」

「それもいいけど、初めから聞きたい」

少女の口の端に残った笑みを感じた老婆は、揺り椅子に少しだけ弾みをつけて、ユーリンの物語を始めた。

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