レベル9・料理スキルは95!
そして所を移し台所。
晩飯の仕度を始めた俺にトイレから戻ったリジーが話しかけてきた。
「ほう、匠くんが作っているのかい?」
「ナツキが作らないんだから俺が作るしかないだろ」
規則的に包丁を動かし、青ネギを細かく刻みながら答える。
「ふむふむ、ナツキ君は料理が苦手なのだね」
「あれは苦手なんてもんじゃない……」
俺は包丁を持つ手を止めて苦渋の表情を浮かべた。
”ナツキ”に”料理”という単語を組み合わせた言葉は俺にそうさせるだけの破壊力があった。
「ハハハ、もしかしてアレかな。鍋の中の食材が黒コゲになって爆発したり、スープが紫色の謎めいた粘着性の液体になったり、そういう感じだったりするのかい?」
「いやいや、そんな可愛げのあるもんじゃない、あやつの料理は……」
「そ、そんなに酷いのか?」
「ああ……ナツキの作る料理は【工程・見栄え・匂い】の三要素は完璧なのに何故か味だけは絶望的にゲロマズなんだよ。口に入れた瞬間お花畑が見えるぞ、いやマジで!」
「ハハ、そんな大げさな」
「……と、思うだろ。でも本当に瀕死の重傷を負うぞ。ナツキの作る料理はある意味、洗練された暗殺アイテムだからな」
ごくり、とリジーが生唾を飲みこむ音が聞こえた。
「す、すさまじさは伝わってきたよ」
「だろ? だから俺がこうして文句も言わずに料理をしてる訳だ」
でなければ妹を前科一般の犯罪者にしてしまいかねん。
「で、匠くんは今なにを作っているのだ。見たところネギしか切っていないようだが……」
再びネギを切り始めた俺にリジーが問うてきた。
やれやれ、これを見て分からないのだろうか。
「ネギラーメンだ」
「……ふむ、今なんと?」
「いや、だから、ネギラーメン」
「……私の記憶が正しければ匠くんはお昼にもラーメンを食べていなかったか?」
「あれはカップラーメンだろ。いま作っているのはネギラーメンだ」
「……」
リジーは解せぬと言いたげな顔をして俺を見てくる。
「なんだよ」
「匠くんはラーメンが好きなのかい?」
「いや、べつに……」
「……」
「……」
リジ―が黙ったので俺も黙る。
暫し静寂。
その静寂を破ったのはリジーの呆れが混じった声だった。
「もしかしてラーメンしか作れないのでは?」
「……」
その”もしかして”がビンゴであるとは恥ずかしすぎて言えず、俺は無言をもって肯定の意を表した。
俺の料理レパートリーはカップラーメンと袋めんの二種類しかない。匠キッチンには二種類のメニューしか用意されていないのである。
「匠くん、ゲームキャラの私が心配するのもなんだが、栄養がかたよりすぎではないか?」
ナツキは出されたものには文句を言わず何でも食うタイプだから今までおかしいと思わなかったが、言われてみれば毎日ラーメン生活なんて不健康極まりない。
だが、そうは言っても……
「しょうがねえだろお……だって俺ニートだし……調理師じゃないし……」
「ハハハ、まぁ気を落とす事はないよ匠くん。君も知っての通りゲーム内での私の料理スキルは95だ。ほら、キミがよく”金策”と称して私に大量の”玉子焼き”を作らせて”オークション”に出品させていただろう。そのスキルを今こそ生かす時がきたようだな!」
自信満々の顔で笑うリジー。
「そ、そうだ、そうだったな。リジー、お前の料理スキルがあればフランス料理のフルコースも真っ青な料理が作れるはずだ。頼めるか!?」
「ふふ、仕方がないな匠くんは。この私に任せておけ――」