レベル6・家族会議3
そして俺たちはここぞとばかりに攻勢に出た。
「頼むナツキ、リジ―を家に置いてやってくれ」
「私からもお願いするよ。このとおりだ」
二人してナツキに頭を垂れる俺とリジ―。
ひとつ間をあけてナツキの声が部屋に響く。
「あのさ、なんか勘違いしてるみたいだけど、あたしだってベツにイジワルでダメって言ってるわけじゃないのよ」
「……うそつけ」
「ウソじゃないわよ!」
聞こえないくらいの声で言ったつもりだが、ばっちりと届いていたらしい。
「ちょっと待ってなさい!」
言って、怒りながら居間を出て行ったナツキはドカドカと二階の自室に駆け上がって行ってしまった。かと思うと一冊のノートを手に持ってすぐに戻ってきた。
で、これを見よとばかりにノートをテーブルの中心に叩きつけて吠える。
「これがなんだか分かる!?」
「こ、これは”魔術書”! ”破壊のグリモワール”ではないか!? なぜ匠くんの家にこんな危険な物が!?」
「……どう見てもただの家計簿だろ」
ノートにもそう書き込んである。
「中を見たら驚くわよ」
言ってノートを開くナツキ。
その内容を見た俺は驚かずにはいられなかった。
「なんだこれ、真っ赤じゃねぇか!」
「赤い数字の羅列……はっ、まずいぞ匠くん、すぐに本を閉じたまえ! 炎の呪文がくるぞ!」
うろたえて防御の姿勢を取っているリジーは無視してナツキに聞く。
「うちの家計はどうなってるんだよ……」
「見ての通りの大赤字よ!」
「なっ!」
我が家の台所事情がそこまで困窮を極めていたこと、そしてがさつという言葉を擬人化したかのような妹がしっかりと家計簿をつけていた事、俺はその二つの意味で驚いて絶句した。
「これで分かったでしょ。ウチにはその子を養える余裕なんてないの!」
「た、たしかにこれはヤバイな……」
と思ったけどすぐに気づいてしまった。
電気、ガス、水道、食費や日用品らの項目に記されている赤字の額は微々たるもので、なぜか特別費と銘打たれた箇所の数字だけが、とてつもない金額になっている。
他の日付のページも確認してみたが、謎の特別費は一ヶ月に数回のペースで巨大な負債を残しているようだった。
ちなみに家計簿を見て初めて気づいたが、俺の小遣いが月2000円なのに対しナツキは1万円をちゃっかりと着服していやがった。とんだ職権乱用だ。
無言でナツキに目を向けると、ヤツはスマホを背中に隠して視線をあらぬ方向へすぅっと逸らした。
「私のほうがお小遣いが多いのはしょうがないじゃん。高校生だし、友達付き合いとかあるし……」
「ほう、交際費ってヤツだな。ところで、この特別費っていうのは……」
「そ、そ、それはアレよ! 特別な、その……特別な費用よ……」
ぜんぜん説明になっていない。