レベル5・家族会議2
そんな俺を見たリジーが、あたふたと慌てだした。
「匠くん、しっかりするんだ! HPが残り1まで落ち込んでいるぞ! これでは初期エリアのモンスターから攻撃を受けただけでも死んでしまう。しかし私はヒーラー職じゃないから回復魔法は使えないし、一体どうすれば!」
「ほっとけばいいじゃん。どうせ構ってちゃんアピールなんだから」
相変わらずスマホをポチポチしながらさらっと酷いことを言う妹。
さしもの俺も頭にきたぜ……
ここらで一発、兄としての威厳を取り戻すためにも強めに言っておくことにする。
「あー、でもアレだ。確かに俺がニートなのは事実だけど……」
「事実だけど、なに?」
「ニートを養うのは家族の義務だろ?」
決まった、完璧だ。
ぐうの音も出ないほどの正論を叩きつけてやった。
そしたら、ギロリという効果音が聞こえてきそうなくらいの勢いで思いきり睨みつけられた。
「本気で言ってるんだったら殺すわよ」
「じょ、冗談! 今のは冗談ですハイ、そろそろハロワにでも行ってみようかなと思っていた次第でありまして! ナツキ様には日頃から大変感謝しておりますです、はい! なんつーか、ナマイキ言って本当にすんませんでした!」
俺が秘儀”平謝りの陣”を見せるとナツキは呆れたように息を吐いた。
「とりあえずさ、焦んなくてもいいから外に出るところから始めなさいよ」
「人をヒキコモリみたいに言うなよ。ちゃんとコンビニとか行ってるだろ」
「夜中でしょ。昼に散歩とかしてみればいいじゃん、どうせ暇なんだから」
なっ、こいつ……いきなり真顔で無茶を言う。
「そんなことできるわけないだろ。昼に散歩なんてしてみろ、ご近所さんやふとした拍子に出会った同級生から天然記念物扱いされるに決まってる。豆腐メンタルの俺がそんな視線に耐えられると思うか?」
「あー、わかるよ匠くん、その気持ち。私も”エンドコンテンツ”に参加するたび”近接職”の”脳筋寄生”が入ってくるんじゃねーよ、なんて陰口を常々受けていたからね」
いきなり、まったく参考にならない相槌をうってくるリジー。
そういえばリジ―で思い出した。
もともとこの”家族会議”はコイツを家に居候させる許可を貰うのが目的だったはずだ。それがいつの間にか自然な感じで俺への説教にシフトしていって……
「なぁ、ナツキ」
「なによ」
「いったん話を戻そう。兄ちゃんの件は置いといて」
置いといて、のポーズを付けて言う。
「その子をウチに居候させるって話ならダメよ」
「なんでだよ! 見ろよこのリジーの姿。このいかつい鎧にこの剣! コスプレじゃなくて全部本物なんだぞ! こんなやつを外にほっぽり出してみろ、一瞬でお縄につくぞ。可愛そうだとは思わないのか!」
「あんまり思わない」
あっさり言い捨てやがる。とんでもねぇヤツだ、血も涙もないのか。
そうは思うが口には出さずにおいた。なぜなら俺が血を見ることになるからだ。
かわりに頭を下げる。
「頼む、ナツキ! いや、なっちゃん! 愛してる! この通りだ!」
「うわ、気持ちわる」
「ハハハ、たしかに」
「ハハハじゃねーよ、お前もお願いしろ!」
俺は当事者の自覚がまるでないリジ―の頭を掴んで無理やり頭を下げさせた。