レベル2・剣術スキルは220です
たとえば日常における劇的な変化。
それが俺の作ったカップラーメンに振りかけるコショウほどのスパイスであれば、驚きであるとか、感動であるとか、そう言った変化を素直に楽しめると思う。
が、ネトゲで作成した自キャラがパソコンの画面から今まさに這い出て来ようとしているのであれば、それはもう”変化”でなくて”異変”である。
「やぁやぁ匠くん、さすがの私もビックリだよ」
ほぼ放心状態で立ち尽くしていた俺に、PCの液晶ディスプレイからズルリと這い出たリジーが言った。
「いや……それは俺のセリフというか何と言うか……」
とっくの昔に3分すぎて伸びきっているであろうラーメンを片手にしどろもどろな返答をする俺。
はっきり言って何がなんだか解らない。
「キミのいる世界に行ってみたいと強く願ったのはいいが、まさか本当に出てきてしまうとは。いやぁ、これは参ったよ、ハハハ」
「笑いどころは何処だよ……てか、なんで出てくるんだよ……」
そういえばさっきまでゲームをしながら片手間に見ていたワイドショーの占いコーナーで、おうし座の貴方は残念ながら最下位、申し訳ありませんと、ちっともすまなさそうじゃない顔で謝罪された気がする。
なんでも『思いがけないトラブルに逢うかもしれない』とかなんとか……
しかし、この現状は予想外すぎる。
「なんで出てくるんだよ……」
二回おなじ質問をしてしまうくらいには、俺の思考能力もヤケクソ気味である。
「フム、私のレベルも73とキリがいいところまで上がった事だし、君に逢いに行こうと思って大司祭様にお願いしたのだ。『匠くんのいる世界に私を導いてください』とね。そしたらビックリ、次元のゲートが開いてしまってね。私はそこを通って君のいる世界に来れたというワケだ」
「なんだよ次元のゲートって! そんなもんあるわけ――」
言いかけて気付く。
たしかに”次元のゲート”は存在する。
ネットゲーム”ホワイト・グリモワール”の"大聖堂エリア"には”次元のゲート”という転送装置が設置されていて、それを利用すれば各地のエリアに一瞬でワープすることが可能なのである。
が、しかし。
「なんでレベル73でキリがいいんだよ!」
そこだけは、つっこまずにいられなかった。
「いやいや、キミが私のキャラをそういうふうに設定したのだろう? ほら、高貴な騎士というだけではお堅いイメージになってしまうから少し間の抜けたバカっぽいキャラクターにしよう、と」
「そういう設定もちゃんと覚えてるのか……つーか、ゲームのキャラクターが自分でキャラ設定とか言うなよ! てか、もうゲームの中に帰れよ!」
「私をここに導いてくれた司祭ジェラルド様によると『あちらの世界に行く事は出来るが、帰っては来れない』と言う話でね。しかし私のような高レベルで”ブレイドマスター”の称号を持つ騎士としては、そのような事を言われれば逆にやる気が出てしまう性分だろう?」
「知るか! っていうか帰ってこれないって言われた時点で来るのやめろよ!」
「なにを怒っている。やはり急に来るのは迷惑だったかい?」
「当たり前だろ……」
「ふむ、やはりフレンド登録をしてからのほうが良かったか」
「なんだフレンド登録って」
自キャラとフレンド登録って謎すぎるだろ。もうそういう次元の問題でもないけども!
「だが、どうしてもキミに、私のマスターの匠くんに逢いたかったのだ。すまない」
「……う……な、なんだよそれ、あほか」
すらりと背が高く、透き通るような白い肌。
青い瞳にブロンドの長髪という、まさに俺の為だけに俺が作りだしたモロに俺の好みのキャラメイクを盛り込んだキャラクターであるリジーから、逢いたくて来てしまったなどと言われれば、俺が口ごもって赤面してしまうのも無理はなかった。
妹のナツキにこんな顔を見られたら衝動的に『おにぃ、超絶的にキモいんだけど』と言われるのは間違いナシだろう。
あぁ、ヤツが居なくてよかったと心の底から神に感謝した。