表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

002

 なんやかんやありまして、騎士王と呼ばれた王様の方に連行されています。


 決して同行では無い。連行だ。手に枷つけられてるし、赤い鎧来た方々と一緒に歩かされてるし、荷物全部没収されたし、気絶している槍の少女をなぜか背負わされているし……ねえ、さっき食客とか言ってなかったかしら?


「ねえ、さっき俺食客とか言われてなかった?」


「……」


 近くにいた白色の……もう白騎士でいいや。白騎士に訊ねてみても、だんまり決め込まれる。目すら合わせてくれない。


 俺は溜息一つ吐いて、今度は赤騎士の方に訊ねる。


「ねえ、さっき俺食客とか言われてなかった?」


「……」


 しかしこちらもだんまり。て言うか睨まれた。


 まあ、当たり前か。俺のせいで連行されてるようなもんだし。


 しっかし、困ったなぁ……どうにも状況が読めない。どっちに付いた方が得なのか、それともどっちが正しくてどっちが間違えているのかも分からない。


 速攻で逃げときゃ良かったか? とも思うけれど、そうした場合問答無用で切り捨てられそうな雰囲気だったしなぁ……。


 あれだ。やっぱり、出だしが悪いんだ。あのクソ(ペーパー)が悪いんだ。うん。


 思えば、前回も草原にいきなり立たされたからな。あいつの初期配置が悪いんだ、うん。


 まあ、愚痴っていても現状が変わるわけでも無し。とりあえず、害を加えられるわけでもなさそうなので、このままでいよう。


 俺は状況を見極めることに決め、黙って歩く。と言っても、しばらく歩き詰めな上に、他の連中には無い重りを背負っているので、これ以上話す元気もないのだ。


「ん、うぅ……」


 そんなことを考えていると、首元から呻き声が聞こえてくる。


 ちょ、止めて。くすぐったいから。


「んう……あぁ? どこだ、ここ?」


「おはよう」


「おお、はよう。んで、ここどこ?」


 とりあえずおはようと言ってみたら、存外普通に返ってきて少しばかり驚くも、それを悟られないように平然と返す。


「ただ今連行中」


「誰に?」


「騎士王様に」


「騎士王、騎士王……って!」


 ようやく気づいたのか、少女は声を上げる。


「お前、あの時の妖術師じゃねぇか! なんでオレをおぶってんだ!?」


「お前が気絶したからだよ。って、よく考えたら、なんで俺がおぶってんだろうなぁ……」


「オレが訊いてんだよ! とっとと降ろせ!」


「わっ、馬鹿暴れるな! ちょ、痛い! 頭を叩くな!!」


 枷のはめられた手で殴ってくるから、手じゃなくて枷が当たって痛い。


 俺はこれ以上殴られてもたまらないので、慌てて少女を降ろす。降ろされた少女はぎろりと俺を睨みながらも、状況を理解しているのか素直に歩く。


 ふむ。こいつなら俺と会話してくれそうだな。戦場でも会話してくれたし。ちょっくらこいつに訊いてみるか。


「状況はちゃんと把握できてるか?」


「……オレはお前に負けて、今連行中ってことで良いのか?」


 俺が試しに話しかけてみれば、少女はちゃんと応えてくれた。


「そうだ」


「けっ! 嫌な野郎だ。わざわざオレの口から負けたって言わせたかったのか?」


「んなわけあるか。俺はただ、今がどういう状況か知りたいだけだ」


「自分で言ってたじゃねぇか、連行中だって」


「そうじゃねぇ。このせ……国の状況とか、周辺諸国の状況とかが知りたいんだ。だから、まずはお前とまともに会話ができるのかどうか試してみたんだ」


「オレが会話も出来ねぇ野生児だって言いてぇのか!?」


「ちげぇよ。誰も俺と話してくんねぇんだ……」


「……ああ、そう言うことか」


 俺の言葉に、納得したように頷く少女。その視線には多少の哀れみが含まれており、俺は少しばかり居心地が悪くなった。


「ともかく。国家間の情勢とか、そう言うのが知りたいわけ」


「なるほどな。つまりお前は、世俗から離れた妖術師ってわけか」


「いや、俺妖術師じゃないけどね」


「嘘つくな。じゃあどうやってなんもないところから現れることができるんだよ」


「一回こっきりの特別な道具を使ったんだ。もうできねぇよ」


 神と書いて道具と読む。これ本当に便利。


「本当か?」


「本当だよ」


「ちっ、なんだよ。ちょっと期待したのに」


「期待に沿えず悪いね。俺はどこにでもいる平々凡々な一般人だよ」


「それこそ嘘だろ! 一般人がオレに勝てるわけねぇ!」


「本当だっつうの」


 そもそも一般人は世界の修正だなんて事態には巻き込まれないけれど、それはそれである。状況が特別なだけで、俺は平凡な一般人だ。


「嘘だ! じゃあなんでオレに勝てるんだよ!」


「お前が俺より弱いからだろ」


 まあ、実際はかなりギリギリだったけどな。けど、俺も曲がりなりにも一度世界を救ってて、その間、何もせずにいたわけじゃない。アミエイラやレイに稽古をつけてもらったり、魔物相手に死線を張ってたりもしたんだ。そう簡単に負けてたまるかよ。


「じゃあやっぱりお前は一般人じゃねぇ! お前、妖術師じゃねぇってんならどこの将だ!」


「どこの将でもねぇっての」


「じゃあなんだってんだよ!」


「一般人だって」


「んなわけあるかってんだよ!」


「うるさいぞ貴様ら! 静かにしていろ!」


 騒ぎ過ぎたのか、白騎士の一人に怒られてしまう。


 少女はちっと舌打ちを一つして俺を睨み付ける。


 いや、まるでお前のせいで怒鳴られたじゃねぇかって目だけど、大声出してたのお前だよね? 俺じゃないよね?


 俺がジト目で返せば、少女は更に睨んでくる。


 睨み合う俺たち。しかし、その睨み合いも、突然の大歓声によって中断させられる。


「な、なんだ!?」


「ちっ! もう着きやがったのか」


 驚く俺とは対照的に、不機嫌に舌打ち一つする少女。


 大歓声は、行軍の戦闘の方から聞こえてくる。よくよく耳を傾けてみれば、「騎士王様万歳!」「騎士王様がご帰還なされたぞ!」「我らが英雄!」などなど、騎士王を称える声が聞こえてくる。


「すげぇ人気だな……」


「だろうよ。なにせ、救世の英雄様だからな」


「救世の英雄?」


「ああ。(ちまた)じゃそう呼ばれてるらしい。ま、どうでもいいけどな」


「救世の英雄。まさか……」


「あん? どうしたよ?」


「いや、別に……」


 まさか、騎士王が《刻印の者》なのか? けど、そうは見えなかった。アミエイラは《傲慢》に相応しいほどの毒舌であった。今回の刻印は《憤怒》だ。であれば、それが表に出ていなくてはおかしい。


 表には出てこない呪い、なのか?


 可能性としてはあり得るだろう。俺は《大罪の刻印》について知っていることの方が少ない。刻印がもたらす恩恵もその代償も知らない。


「おい、急に黙り込んでどうしたよ?」


「……いや、なにも無いよ」


 どちらかと言えば、この少女の方が憤怒っぽい。けれど、俺に負けるようじゃ、彼女は《刻印の者》ではないだろう。


 ……いや、刻印を貰いたて、と言う場合もあるのか。


「なあ、一ついいか?」


「あ? んだよ」


「お前、身体に刻印が刻まれてないか?」


「はぁ? 急になんだよ。そんなもんねぇよ」


「そうか……」


「なんだよ。なんかあんのかよ?」


「なんもねぇよ。ちょっと気になっただけだ」


 この少女には無い。なら、本当に騎士王なのか? いや、そう決めつけるのは早計か。けど、可能性の一つとしては考えておこう。


 アミエイラは一般人だが、英雄たる資質を持っていたからこそ《美徳》に選ばれたのだしな。可能性としては、救世の英雄とまで言われるまでの資質を持つ騎士王はかなり高いだろう。


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか大きな外壁の前にまで来ていた。一際大きな門をくぐると、そこには石造りの美しい街並みが広がっていた。


 大通りと思われる道を通る俺たち。道の両端には人がごった返しており、口々に王を賞賛する言葉を投げかけている。


「うへぇ……耳が痛ぇ……」


「まったくだぜ。騎士王もよく平気だな」


「兜に反響したりしないのかね?」


「耳栓でもしてんじゃねぇのか?」


大歓声の中、近くの声しか聞こえないことをいいことに、俺と少女は辟易したように言葉を交わす。


 にしても、この少女。割と普通に俺と話してるけど、憎いとかそう言うのは無いのだろうか?


「なあ」


「あんだよ」


「お前、俺のことが憎かったりしないのか?」


 俺の言葉の意図を察したのか、少女は辟易した顔から真剣な顔になる。


「オレは、お前と正々堂々戦って負けたんだ。オレの力不足を怨んでも、お前を怨んだりはしねぇよ。それよりも、一人の武人として敬意を表するね」


「俺は武人じゃねぇんだけどなぁ……」


「まだ言うかてめぇは!」


「だって武人じゃねぇもんよ」


 俺は武に生きたつもりは無い。そんなことを言ってしまえば、武に生きた人たちに失礼だ。


「ただの一般人……て言うのも本当は間違いなんだが、俺は武人じゃねぇ。ただの、そうだな……」


 そこで何と言おうか考える。が、とっさに何と名乗るべきなのかなんてわからない。


「ただのなんだよ」


「なんなんだろうな?」


「オレが聞いてんだよ、このタコ!」


 少女がぷりぷりと怒った様子で怒鳴る。


「いや、実際わかんねぇんだもんよ。なんて名乗るべきだと思う?」


「知るかっつうんだよ! オレはてめぇの何も知らねえんだからよ!」


「ああ、それもそうか。そんじゃ自己紹介でもするか。俺の名前はカナトだ。捕まっちまった者同士、よろしくな」


「なに呑気に自己紹介なんざ始めてんだよ!」


「名乗る物もないから、とりあえず名前でも名乗っておこうかなと」


「ああ……もう! 調子狂うな本当によ!」


 苛立った様子で頭を乱暴に掻く少女。


 おいおい。そんなに乱暴にしたらキューティクルとか頭皮が荒れるぞ? 


 そう思うも口にしない。涼香(すずか)に似たようなことを言った際、デリカシーがないとこっぴどく怒られたものだ。まあ、この少女がそんなことを気にするようにも思えないけれど。


「んで、名前は?」


「……ミネリナ」


 少女は俺を睨みながらも、ちゃんと名前を名乗ってくれた。


「そうかい。よろしくなミネリナ。捕まっちまったもん同士、仲良くやろうぜ」


「けっ! 捕まる原因になったてめぇに言われたかねぇよ! ……て言うか、てめぇなんで捕まってんだ?」


「さぁ……」


「なんだそりゃ……」


 呆れた眼差しで俺を見る少女――ミネリナ。


「いや、マジでわかんねぇんだって。あれよあれよという間に手枷付けられてよ」


「お前間抜けな」


「その間抜けに負けたお前はもっと間抜けな」


「なっ――! 言いやがったのこの野郎!」


 そう言うと、俺に飛び掛かってくるミネリナ。


「ちょ、なにすんだよ!」


「うるせぇ! ここでてめぇをのしちまえば、汚名返上になるだろうよ!」


「槍使いなら槍で決着付けようと思わねぇのか!?」


「おめぇに槍なんざ使ったら勿体ねぇだろうが!」


「その勿体ねぇもん使って負けたのは誰ですかねぇ!?」


「やめんか貴様ら! 捕虜らしくおとなしくしていろ!」


 騒いでいると、また白騎士に怒鳴られる。


 手に持っていた槍で叩かれたもかなわないので、ミネリナは渋々といった様子で俺から離れた。


「てめぇとはいずれ決着付けるからな」


「お互い、死んでなかったらな……」


 決着を付けるも付けないも、お互いが生きていればの話だ。現状、俺とミネリナは捕虜のような扱いだ。これからどうなるのかはあまりいい想像はできない。


 俺の返しに、ミネリナはつまらなそうに「けっ」とそっぽを向く。


 これ以上騒がしくしてもあまりよろしくなさそうなので、俺は周囲の観察に努めることにした。


 (ペーパー)が言ってた通り、中世ヨーロッパみたいな街並みだな……いや、中世ヨーロッパの街並みなんて知らないけどさ。イメージよ、イメージ。そういうイメージなわけ。石のレンガで造られた家に、石畳の道。住民の着ている服や露店(ろてん)の外観。どれをとっても、よくファンタジー小説で出てくるような見た目であった。


 ま、魔法は無いし魑魅魍魎(ちみもうりょう)もいないらしいけどな。そういう面じゃ、ファンタジーって言うよりは、タイムスリップしたみたいだよな。


 果たして、こんな戦乱の世に改竄者がどのような姿で現れるのか……。


 アミエイラの時は魔物というカテゴリーだったように思う。が、例が一つしか無いのだから憶測すらできない状況だ。その世界になぞらえた形でしか現れないのか。それともなにか超常の形で現れるのか。まったくもって謎である。


 色々と考えなくちゃいけないことは多いけど、とりあえずは現状把握が大事だよな。


 そう考えるも、現状すでに詰んでいるようなものだ。果たしてちゃんと情報収集とか世界の修正とかできるのか……。


「はぁ……」


 あまりの幸先の悪さに、思わずため息が出てしまうのも仕方がないことだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ