『キャラ立ち』のための作者様への提案
アニメや漫画ではキャラの強さが作品の評価と直結する傾向があります。
当然、ここで言う強さは戦闘力ではありません。「キャラ立ち」しているか否かという点です。
波乱万丈、複雑に入り組んだストーリーが評価されるのは当然ですが、登場人物のインパクトはそれ以上のファクターとなって作品人気を左右しているのではないでしょうか。
特にライトノベルはキャラクター文芸と別称されるように、登場人物の比重が大きいことを出版社も認識しているようです。
単に記号的な萌え要素のミックスではない、俺は生きている人物を作りたいんだ!
そんな風に叫びたい作者様もおられるでしょうが、漫画やラノベの世界ではある程度の記号化は致し方ないのが実情です。
記号的要素を用いながらキャラを立たせるのが、作者として腕の見せ所でしょう。
「キャラ立ち」と言うと私が思い出すのは、2017年冬クールに放送された2つのアニメです。
作品Aと作品B、ふたつとも4人の女の子をメインキャラに据えた日常コメディアニメでした。雰囲気は異なりますが、女の子4人と彼女らを取り巻く人々という構成はよく似ています。
ですがあくまで個人的な感想となりますが、作品Aと作品Bとではキャラ立ちに大きな差がありました。
作品Aは登場する女の子はどれもこれも可愛らしく見ていて癒される気分になります。ですが見終わっても感想はただただ可愛いだけで、なんだか物足りなく感じるのです。
一方の作品Bはキャラデザインは作品Aに比べて平凡なものですが、すべてのキャラにクセがあり、ギャグも毒ありと毎週楽しんで見ていました。
元々私自身がどつき合いギャグが好きなのでたまたまの好みだと言えばそれまでですが、キャラのインパクトも作品Aより作品Bの方が上回っていたと感じるのがそのクールでの印象です。そのおかげで今でもそのキャラを思い出せば、それにつられてアニメのシーンややり取りが想起されます。
そして思ったのは「このキャラ、ぶれてないな」という感想です。
お決まりの失敗を性懲りもなく繰り返す。コメディでは特に重要な要素ですが、これはストーリー漫画や重厚な世界観のラノベでも十分に転用は可能です。キャラクターの思考と直結し、人物像を深めるのに役立ちます。
では、「キャラ立ち」のために作者は何を考えればよいのか。キャラを立たせるのが苦手という作者のために、ひとつ提案があります。
それは「こういう状況でこのキャラならどう行動するか?」を考えることです。
キャラ立ちしている時、その人物は性格がぶれないことが多いものです。悩みもがく主人公もよいですが、それはよく悩み、その末に確固たる信念を得るという過程を踏むため最終的に軸はぶれていません。
あなたがキャラ立ちしていると思う漫画やアニメの登場人物を思い出してみてください。その人物には大概、「ああ、こいつならこういうこと言いそうだな」という展開が作中でありませんか?
プロットを練る段階ではもちろん登場人物についても考えると思いますが、その時に単に「このキャラはノリが良くて陽気」や「クールで冷静」など端的に性格を表しても、その「陽気」や「クール」には程度の差がありますし、状況によって書き分けられるかもわかりません。
性格を一言でまとめるだけでなく、「こういう状況に立たされた時、どういう対応をとるか?」を考えれば、言葉では表し切れない具体的なその人物の骨格が浮かび上がるのではないでしょうか?
例えば普通では勝てないような強い敵に出会った時、この人物ならどうするだろうか、考えてみましょう。
負けるとわかっていても真正面からぶつかる、すぐさま逃げる、冷静に分析して意外な勝ち方を編み出す、口先で逃れるなどなど、どんな行動を取るかでその人物の性格はなんとなくわかりますね。
さらにこれが背後に多くの人の暮らす町があり、逃げられない状況なら?
見栄を張るため真っ向勝負を挑む、それでも逃げる、町の人に避難を呼びかける、さらに具体的な行動が決められて状況に左右されやすい性格かどうかも見えてきます。
ひとつの状況でどう行動するかを考えつくと、他の状況でも行動に一貫性が持ちやすくなります。ある種お約束という展開にまでつながればその人物はかなりキャラが立ったと言えるでしょう。
また作中に考えていない状況を想定することで、そのキャラの意外な側面が明らかになることもあります。
普段は性格が良くても金のことになると我を忘れる美少女、武人然とした堅物のようで意外と軽口も飛ばせるおじさん、人当たりが良くても敵には一切容赦しない少年など、作者自身も気付いていないそのキャラの意外な二面性を把握することでさらに人物像に深みを持たせることも可能でしょう。
キャラ立ちについてお悩みの作者様がおられましたら、一度この方法を試してみてはいかがでしょうか?
正直この作業、とてつもなく面倒くさいですし私も正直テキトーにしてしまいがちです。やろうがやるまいが、キャラを立たせられる技術を身に付けている作者様がおられるのも事実です。
ですが某有名脚本家のようにその人物の来歴をノート一冊分にまとめるような作業ではありませんし、必ずしも自分の設定した通りの行動を起こす必要もありません。要は面白ければよいのですから。
最後に、キャラ立ちのために使えそうな状況をいくつか挙げてみたので自分の作ったキャラがこういう時どうするか、少し考えてみてください。
1.普通なら勝てそうにない強い敵を前にした時、どう行動するか?
2.逃げられない状況で普通なら勝てそうにない敵に出会った時、どう行動するか?
3.意中の異性と偶然出会った時、どう反応するか?
4.意中の異性と予定通り出会った時、どう対応するか?
5.急いでいるのに電車が遅延した時、どう行動するか?
6.一番の仲間が強敵に襲われそうなピンチ! 自分が敵うかどうかもわからない時、どう行動するか?
7.テストで予想よりもかなり悪い点数を取った時、どう行動するか?
8.一週間後に課題の発表会があります。今のうちにどう対処するか?
9.あまり親しくないメンバーとグループを組んで課題に取り組むことになった時、どう行動するか?
10.誰も見ていない道端でエロ本を発見! その時何を思って何をするか?
とりあえずパッと思いついたシチュエーションですが、いかがでしょうか?
実際に自分のキャラならどう行動するか予想した時、その人物の意外な一面も浮かび上がったのではないでしょうか?
ここまでの駄文にお付き合いくださりありがとうございました。
私もキャラ立ちした小説を書いてみたいものです。