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八畳間と朝食



まったく 旅先で 熱を出すなんて

おかげで 今日は ホテルにこもりっぱなしだ

頭に アイスティーのペットボトルを立てて

冷やしていたら 頭がすーっとしてね

ふっと 眠くなってきてさ

それでも 頭がしきりに痛むので

僕は 暗い天井を彷徨(さまよ)っていたよ



おかげで 観光らしい 観光はしてないし

静岡の町は ちょっとしか 歩いていない

駿府城公園で ゆっくり 花見をしたぐらいだ

ホテルに着いて 夜になって

おにぎりを買ったけれど

食べようとしたら 頭がくらりときて

これを 食べたら 余計に患うなと

おにぎりを 鞄にしまってさ



ドラッグストアにも 歩いて行ったけど

一体全体 薬になんて 書いてあるのか

何べん 読んでも 頭に入ってこない

ただ やたらに 夢をみているようで

頭が ぼんやり ぼんやり してゆくうちに

朝でした っていう話になりそうで

ならないんだな これが



夜の静寂は 夢のようだ

ホテルは 安くて そのくせ広い 八畳間に

バスルーム トイレ バルコニーの手前には

椅子とテーブルもあってね

こんな 良いホテルもないが

どうも 普通のホテルと違って

これはつまり 県職員の研修施設 というものらしい

一般人も 安く 宿泊できるのさ



良くは 分からないが

一人で泊まるには贅沢

広さがかえって 無性に心細いのさ

部屋を暗くしたら 窓から 星空が見えたよ

そして 熱は 火の粉のように 体を駆けめぐってね

だんだん 足先を 外側から寒く 寒く

そして 頭をのぼせ上がらせてゆく

頭の真上で シンバルが しきりに 鳴り響いていてね

胃が 小躍りを 始めたようだった



なんだか もう 良く分からないが

カーペンターズの曲を 耳元で流していると

夜の 静寂というものが

かえって 際立ってしまって

無性に 昨晩や その前の夜のことが 頭に浮かんだ

どこの町も 夜は静かだった

妙な気持ちになってきて

なんだか たまらなくなって

ちょっとすると 消したんだ



面白いことに 僕の視線が 暗い天井を探検している内に

どういうわけか あるいは いつの間にか

僕は 探偵をしていてね

いや どういう訳か 一枚の紙切れを手にしていて

容疑者というと 三十人らしかった

暗号の ホタテ の三文字 何のことだろうなんて

考えていて みんな わからぬので 困っていた



そうすると 僕は 不思議な気持ちで

この世界に ふわふわと 身を任せていたのだが

そうだって ひらめいて この三十人の容疑者の名前を

カタカナに直したのさ

なんでか知らん みんな アルファベット表記だった

直してゆくと ホタテ の三文字が

みんな 名前のどこかに 一文字ずつは 入っていて

そうしてみると

一人だけ 入っていない 名前があった



こいつが 犯人ですよ

そうなのですか

ええ 間違いありません

なんだか 大満足で 嬉しくなってしまった

こんなに 嬉しなったことはない

素晴らしい気分だなぁ

そこで ぱっちりと 目が覚めた

ああ 今のは 夢か

まわりを見れば 例の八畳間

頭は 昨夜と打って変わって すっきりとしていたのさ



窓を見れば なだらかな山並みに

朝の日差しが 青空を駆けていた

廊下の窓からは 富士山が 輝いているのが見えた

一階に下りると 馬鹿みたいに広いロビー

そこには 誰もいなかったけれど

セルフサービスの朝食会場に行って

無料のパンを 二個ばかり トースターで焼いた

五分焼いたら 焦げて出てきた



オニオンスープを二杯 飲み干すと

体に 沁み渡るのが よく分かった

オレンジジュースは なんだか やけに

酸っぱく 感じられた

苺のジャムを 焦げたパンに もうよせ と言われるぐらい たっぷり乗せて

かぶりつくと なんだか バリッと音がして

香ばしくて 美味い

はちみつも 余計に パンに塗りつけて 食べた

りんごの ヨーグルトを食べると

もう 体が すっかり軽くなって

昨日のことは 嘘のようだ



朝の日差しが柔らかい 誰もいない 朝食会場

風邪を引いたら かえって 体が休まったようだ

観光らしい 観光もしなかったけれど

すっかり良くなって 僕は また電車に乗って出かけるのだ

さあ 今日は どこに向かおう

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