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うまく書けている気がしませんが頑張りたいです。
「おはよう、ドラゴンさん。」
《また来たのか、小娘。》
「だってここ、居心地良いし、ドラゴンさんもはじめて会ったときより優しいしね。」
《ふんっ。》
初めてヴェルガとここで出会ってから数年が過ぎた。蒼麟はあれ以来毎日のようにここにやって来ては1日の大半をここで過ごしていた。彩麒には自ら入ったことを謝罪し、すぐさまにここに来る許可を強引にもぎ取ったという出来事もあったがそれはヴェルガも後から彩麒に聞いて知ったらしい。
許可が得られてからというものこの空間にいることが多くなった蒼麟ではあるが、最初はヴェルガとよくぶつかっていた。空間にいる低級精霊達が怯えるほどの口喧嘩をした日などもあり、その時は二人まとめて彩麒に説教されている。しかし、蒼麟はここにやって来ることを諦めることはなく、最終的にはヴェルガが折れ、今では好きにさせている。
「ねぇねぇ、ドラゴンさんはここにいて退屈じゃない?」
《…。》
「ずーっとここにいるんだよね?どして?」
《……。》
「私が毎日来て嬉しい?」
《うるさい奴が増えて厄介ではあるな。》
「えー。」
ヴェルガのお腹の辺りに寄りかかりながら蒼麟は拗ねたように口を尖らせる。最近はそこが定位置であり、初めはものすごく嫌そうな顔をしていたヴェルガだったが、もう諦めたのか何も言わない。さらに彼に対しては蒼麟の口調は完全に見た目の年相応のものになっていた。彩麒やシエル達には大人っぽい敬語を使った口調なのだ。
そのことに気づいた彩麒がヴェルガに対して嫉妬に近い視線を何処からか飛ばしてくることがある。多分なんらかの力を使って見ているのだろうが、その視線を受けた当人にとってはめんどくさいものでしかない。
(最近呪いのようなものも視線と一緒に送ってくるから質が悪い。あやつ、あれでも神獣なのに呪い紛いのを送るのはどうかと思うのだか…。)
小さくため息を吐き、頭が痛いなどと思いながら目を閉じていると突然彩麒の力を微かに感じ、瞼を上げる。
《ヴェル、やっかいなのがそちらに行くかもしれん、悪いが蒼麟を守れ。》
唐突に風霊を使って飛んできた言葉。一方的にそう言えば声は途切れ、何も聞こえなくなる。しかし、いつもマイペースな彩麒が怒気を含んだ声を飛ばしてくるなど何か怒らせるようなことを天使が言ったのだろうと思い、仕方なく蒼麟に声をかけようと首を彼女の方に向けた。
同時に空間の唯一の出入り口である扉が外からの強い衝撃により吹き飛ぶ。
「っ…。」
《ちっ…。》
突然のことに固まる蒼麟を自分の翼で守るように動かしながらヴェルガは砂煙をあげ、視界が悪い先程まで扉があった場所を睨むと人影を見つけた。
「やっと、見つけたぞ。ファーザーに言われたときとまさかと思ったが、本当に箱庭にいるとは…。そりゃ見つからねぇわけだ。」
砂煙が晴れたその場所。そこには純白の翼をもつブルースカイの髪と薄紫色の瞳の天使が立っていた。
《何の用だ、侵入者。》
「はっ?…うげっ!?お前、ヴェルガードか!?なんでこんなところに氷絶のヴェルガードがいんだよ!?」
《…ほぅ、俺の真名を勝手に口に出したこと、後悔させてくれるぞ、小僧。》
「あっやべっ!?」
青筋を浮かべながら今まで座っていたヴェルガがゆっくりと立ち上がると、風霊に命令し、蒼麟を自らの背の上に運ばせる。
「ドラゴンさん!?」
《そこに乗っていろ、小娘。地面に入られれば殺してしまうからな。》
ヴェルガの言葉に顔をひきつらせながら蒼麟は何度も頷く。一方の天使は己の失態に顔を青くしている。
ドラゴンは己が信用すると値した者にしかその名や愛称を呼ばせることはない。そのため、他人は基本的に二つ名を呼び、相手を表す。ヴェルガの二つ名は“氷絶”。その二つ名は有名だが、今の蒼麟が知ることではなく、故に蒼麟は“ドラゴンさん”と呼んでいるのだ。
《――支配者権限を使用。箱庭統治者代行の権限により、統治者の封印を解除を実行する。》
空間に響く不思議な力を纏った言葉。それに反応するようにヴェルガの足元の彩麒の施した封印陣が陶器が割れた音に似たものを出しながら砕け消える。
「くそっ、これならジールも此方に連れてくれば良かった!」
《何を喚いている?久々に動けるのだ。すぐに消えてくれるなよ?小僧。》
ニヤリとしながらヴェルガは咆哮をあげる。大気を揺らすほどの咆哮は相手の天使が来るんじゃなかったと後悔と絶望を思わせるには十分なものだった。