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連続投稿です
そこは本当に何もない荒野だった。端までその光景が続いているのか目を細めてみても見えるのは岩肌を見せた大地のみ。だが、その荒野の中心部付近にそれはある。見晴らしの良い荒野にポツンと存在する地下洞窟への入り口。入り口の高さは二メートルほどで自然に出来た作りのそこは近づく者に本能的に恐怖を与えるような雰囲気を醸し出していた。
「…すごい。」
入り口から少し離れたところから蒼麟はそう呟き、見上げている。特に見張りなどはおらず、ただの洞窟の入り口なのだが、近づいてはいけないと本能が警鐘を鳴らす。それでも蒼麟に帰るという選択肢はない。
「よしっ。」
自分に気合いをいれるように声を出すとゆっくりとした足取りで入り口に近づいていく。慎重に進んだため少し時間はかかったが入り口まで来るとそっと中を覗く。中は入り口の見た目とは違い、人工的に作られた階段が下に続いていた。階段の先の闇に夜目のきく目を向けるが全く見えず、あるのは暗く深い闇。
今ならまだ引き返せると思ったが、そんな弱気な気持ちを頭を振って振り払うと足元を確かめるようにしながら階段を降りていく。最初は自分の足音だけが周りに反響していたが、入り口の光が届かないところまでくると地下水でも壁などから漏れているか、足音の他に水が地面に落ちる音が反響しはじめた。
(まだ下に着かないのかな…。)
辺りが闇に包まれ、全く見えず、夜目で見える足元だけを頼りにゆっくりと降りていっているが、まだ底が見えないことにだんだんと不安が大きくなっていく。
終わりの見えない現状に泣きそうになるのをぐっと我慢し、降りる足を止めずにいるとようやく終わりが見え、階段を全て降り終える。そこにあったのは不思議な紋様が施された大きな鉄製の扉だった。完全なる人工物の扉は大きく、その存在感から子供である蒼麟の手では開けられそうにない。
「せっかくここまで来たのに…。」
怖い思いをしながらもようやくここまで来たのにと悔しさを表情に出しながら八つ当たりのようにペチンと扉を叩く。扉の冷たい感触が掌に伝わった時、一瞬自分の体に奥底で何かが揺らめく。
「??」
一瞬のことで体に起きた異変がよくわからず首を傾げた時、目の前の扉の紋様が淡い光を放つと存在感のある扉が静かに押し開かれ、奥から光がもれてくる。
「えっ!?っ…。」
ただ叩いただけなのにと焦りながらも突然の光に目を細め、腕をかざして目を守る。そのまま何か彩麒に知らせるようなものが発動したのではと辺りに意識を飛ばす余裕が生まれる。だが、意識を飛ばしてみてもそんなものは感じられず、そっと息を吐くと光に目が慣れてきた辺りで守っていた腕をおろす。そして、前を向くと驚いたように目を見開く。
扉の奥に広がっていたのは緑豊かなひとつの空間だった。地上の荒野とはちがう自然豊かな光景。希少な光を司る精霊による暖かな光が天井から溢れ、草木が生い茂る。水のせせらぎを響かせながら小さな小川も存在し、とても穏やかな時間が流れた場所。精霊達が多く存在する不思議なところ。
そんな空間に“それ”はいた。
《んぁ?あいつの後継者のガキか?ここに近づくなと言われてるだろう。》
空間の中心に鎮座する全身を白銀の鱗に覆われた巨大な存在。爛々と輝く深紅の眼はそこにいる蒼麟を興味深そうに見下ろすもその体躯がそこから動くことはない。
最強種の一柱たる白銀のドラゴンがそこにいた。