2
輪廻の輪へと続く白い世界。そこを漂う人の人生の長さのたった数年しか生きていないひとつの魂。それは長年生きて死を迎え、濁ったような光を放つ他の魂とは違い、穢れることなく、綺麗な淡い光を放っている。
「この子、まだたくさん寿命が残っているのにこちらに来ちゃったのか。」
「死してなお強い加護を持っているというのに、嘆かわしいことだな。」
突然聞こえた二つの声。他の魂が怯えるように散っていくなか、その魂だけはその場に漂い続けていると、魂以外何もなかった白い世界に二つの気配が現れる。
動く度に揺れる腰まであるプラチナブロンドの髪に強い意思を宿す翡翠色の切れ長の瞳のモノクルをかけた男。そしてそんな相手とは対照的なブルースカイのナチュラルショートに薄紫色のタレ目の優しげな雰囲気を纏う青年がそこにいた。彼等は純白の法衣に似たようなものを纏い、その背中には大きな翼が生えている。
「…生前の名はシルフィ、四年という人間にしてとても短い年数で死去。魂を肉体に宿した際に強い“精霊の加護”を受け、白化現象が起きた稀な人類、か。」
「相当その精霊はこの子のことが気に入ったんだろうさ。これまでも精霊の加護をもつ人間やその他の種族はいたが、白化現象が現れたのは何千年と生きてるが片手で数えられる位だ。そんな子が死んじまうなんてな…。」
魂に手をかざしながら情報を読み取るように話す男と話を聞きながら辛そうな顔をする青年。男は表情は変わらないが、魂を見つめる目には微かに悲しみの色が見えていた。
「で、この子どうすんだ?ジール。魂だけの存在になっても加護の力が消えるどころか薄くならずに生前のまま残ってるってなると、人にまた転生させても辛い思いをさせるだけだぞ?」
「人への転生は駄目だろうな。我ら天使に転生か加護を使い、上位精霊として転生が妥当だろう。ミカ、転生の女神に連絡して転生の準備を…。」
ジールと呼ばれた天使がすべての言葉を言い終わる前に今まで大人しかったその魂が震える。何事かと二人が視線を向けると、魂が蒼い神聖な光に包まれていた。
〝この子の魂は私のものだ。天使風情が触れることも、転生の女神がこの子の運命を定めることも許さない。〟
「なっ!?」
魂から発せられた聞き覚えのある声に天使二人は顔色を変える。慌てて手をのばそうとするが、今まで落ち着いていた魂への精霊の加護がその力を強め、白い世界に強い光が広がる。咄嗟に腕で目を庇う。すぐに光は収まったが、そこにあった魂は姿を消していた。
「まさか…何故あの方がっ!?」
「落ち着けジール!すぐにファーザーに報告とあの魂が何処に行ったか調べるぞ。」
「あ、あぁ。」
混乱する自分をなんとか落ち着かせ、二人は顔を見合わせると頷き、消えてしまった魂を探すためにそしてあの声の主の存在を自分達の主へと報告するために白い世界から一瞬にして出ていく。残ったのは静かな静寂のみであった。
《ん?》
その獣は自分が守護する空間に入り込んだ異物を気配で感じとり、空を見上げた。ゆっくりと空から落ちてくる光を放つ弱々しい気配。めんどくさそうにため息をこぼせば、獣はその光が落ちるであろう場所へと駆け出した。
《まったく、ここに何かが落ちてくるなど、何処かに歪みでもできたか?》
ぶつくさと文句を言いながらも目的の場所に来ると地面から少し離れたところにそれは浮いていた。淡い光を放つも今にも消えそうな存在。近づいてみるとそれが人の魂であることに気づく。
《神気渦巻くこの地であっても消えずに残るか。しかし、それも長くはないな。》
獣が近づいたことで余計にその存在が薄くなる。しかし、消えずに残っているのは獣にとってはとても興味深いことだった。弱い者は獣が近づけば消滅するか、自我が崩壊して狂うかのどちらかだ。狂った者には用はないためその場でいつも命を間接的に刈り取っている。だが、この魂は消えることも狂うこともなく獣の前に存在していた。
興味が一層強まった。
《生きたいか?》