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翌日、蒼麟はアンフィスの正装に着替えさせられ、謁見の間の中心にて女王であるクリスティーナを待っていた。青を基調にした細かい装飾などが施された正装のドレスは全体的に白い容姿の蒼麟によく似合っている。そして、一応にとアンフィスの王族に対する最高礼をシエルには教えられていたが、蒼麟はその場に背筋をのばし、綺麗な立ち姿のまま主なき玉座を見つめている。最初はそんな蒼麟の態度に周囲にいた家臣や側近、一部の王族達が厳しい視線と小声ながら非難の言葉を呟くが、一切身動ぎもせず表情も変えぬ蒼麟が纏う、その見た目からは考えられないような存在感に次第に口を閉ざしていく。
「貴女がシルフィね。」
嬉しさが込められた声音の声が響く。同時に周囲の者達は片膝を床につけ、最高礼をもって姿を現し、玉座に腰をおろす女性を出迎えるも蒼麟はそのまま女性を見た。
国の頂点である女王の許可もなくそのご尊顔を見た蒼麟の行動に最高礼のまま頭を下げている側近達から怒気のようなものが放たれる。
「およしなさい。この子、シルフィ行動はたとえお前達が無礼だと思っていることも全て許すことにしています。」
「なっ!?」
主たる女王からの破格の温情にアークスフィア以外のその場にいた者達の口から驚愕の言葉が発せられ、皆顔を上げてしまう。それは蒼麟をこの城に連れてきたシエルとソフィアも同様で、いつもの母には珍しいことだったからだ。
本来は王の許可なくば顔をあげるのも不敬罪なのだが、女王は最初から機嫌がすこぶる良いため、咎めることない。
「それは何故でしょうか?」
警戒するような視線を向けながらこの場の誰もが思ったことを蒼麟は口にすると、目を合わせた女王は優しげな笑みを浮かべた。
「貴女が我が国にとって大事なお客人であり、我が国の護り神たるアークスフィア様がお認めになったからよ。ねぇ、アークスフィア様?」
「あぁ、ジークとルージュから話は聞いている。私はお前にはこの国に滞在してほしいと思っているのだが、良いだろうか?」
国の頂点である二人の言葉にザワリと周囲が様々な反応を見せるなか、蒼麟は昨日の話を聞いたジークと赤子竜がシエルやソフィアには言わないと言っていたが、アークスフィアには言わないとは言っていなかった。故に報告したのだろうと納得すれば警戒していても仕方がないとばかりに肩の力を抜く。
「そうでしたか。ご無礼な視線を向けながらの質問、誠に申し訳ございません。現在何処にも居場所がない身、お二方のご提案をありがたくお受けさせていただきます。」
きちんと先程の非礼を詫び、提案承諾の旨を微かに微笑みながら告げ、軽く頭を下げた。
同時に女王の体がピクッと動いたかと思うとアークスフィアがその肩を掴む場面が一瞬のうちに起きた。だが、頭を下げていた蒼麟は気づかず、視線を向けていた周囲の者達は提案が受けられてたことをアークスフィアが肩を掴んで喜びを分かち合ったのだと勝手に解釈した。
…本当の意味を知るのは当事者二人だけである。
「提案承諾してくれてありがとう、シルフィ。順番が逆になってしまったけれど、私がアンフィスの女王、クリスティーナ・アンフィ・バエナよ。」
「シルフィと申します、女王陛下。」
女王クリスティーナの自己紹介に蒼麟も偽名を使って言葉を返す。
「そんな堅苦しくなくて良いわよ?クリスティーナって呼んでちょうだい?」
「…滞在を許してもらった身ですので。」
「…分かったわ。」
そう言いながらも納得いかないという表情を浮かべるクリスティーナを見て苦笑を浮かべると、周りの複数から先程よりは弱いが非難の視線を受けるも蒼麟は気にしない。蒼麟は。
「貴方達、私の話を聞いていなかったのかしら?その子は大事な大事なお客様。そんな相手にそのような視線を向けるということは、私に不満があるということかしらね。」
「め、滅相もありません!」
「そうですか、まあ、今は機嫌が良いから不問としましょう。」
誰かの否定の言葉にクリスティーナは明らかに不機嫌な声音だったが、誰も指摘する度胸も地位も持っていない。たとえ彼女の子供だとしても。
「ねぇ、シルフィ。今から良ければお茶などご一緒に如何かしら?」
「慎んでお受け致します。」
笑みが戻ったクリスティーナの問いに蒼麟も笑みを浮かべながら同意の答えを返せば、そのまま女王とリュウ神の二人に連れられ、謁見の間から出ていった。
謁見の間に残った者達の反応は様々だ。
蒼麟の力を見抜けぬ者はまた王達の気まぐれなのだろう、と。本能的にその力の片鱗を感じた者は得体の知れぬ少女だ、と。仕事柄その力の底知れなさを見てしまった者は敵にしてはいけない、と。
そして、竜人たる王族達は蒼麟が自分達の至高の存在であるアークスフィアと同等の者であると知り、十人十色の反応を見せた。
「ねぇ、ソフィア。シルフィって何者なのだろう。」
「分かりません。ですが、湖の時や昨日会ったときとは気配がまったく違いました…。」
「うん。昨日までは精霊と似てるなって思ったけど…今のシルフィは全然違った。なんでか分からないけど、すごい惹かれた。」
「はい。」
そんな会話をする二人は何処か気分が高揚していた。蒼麟がこの謁見の間に入ってきた時から彼女から感じた力。圧倒的な力ながらも何故かとても優しく、ずっと感じていたいと思わせるそれをもっと近くで、と。本能が望んでいた。
周りとはまったく違う反応の二人を壁に寄りかかりながら見つめる存在。祝福の女神は二人の言葉に満足そうに微笑めば、スッと姿を消した。そこにいたことを誰にも気づかれることなく。




